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パナソニック&ソフトバンク クラウド上で映像制作を完結 映像制作の現場プロセスイノベーションを実現 制作の効率化でトータルなコストを削減

2021514日】

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パナソニック・鹿島氏

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ソフトバンク・船吉氏

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収録当日:リモートサブスタジオ

写真 4
Kairos(データセンター内)

 パナソニックの社内分社であるコネクティッドソリューションズ社(東京都中央区、樋口泰行社長)はこのほど、ソフトバンクと協力して、クラウド上で映像制作を完結できるシステムを共同開発し、地上デジタル放送での共同検証を実施した。同システムは、ICT(情報通信技術)を活用して映像制作をクラウド化し、撮影から制作、編集、配信までをシームレスに行うことを定義した概念「Broadcast as a Service」を実現するもの。今回、両社担当者に共同検証の経緯、これまでの両社の取り組み、今後の展開などを聞いた。
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 今回の共同検証の経緯について、パナソニック コネクティッドソリューションズ社 メディアエンターテイメント事業部 事業開発センター KAIROS事業推進部 部長の鹿島力氏は「理由は大きく3つあります。まず1つ目ですが、映像コンテンツはもともとテレビが占める割合が非常に大きかったのですが、近年はOTTなどに加え、コンシューマーによるコンテンツ制作のニーズが増えていることです。従来の放送局の人だけでなく、クリエイターやもう少し一般ユーザーに近い方等もコンテンツを作りたいという要望が出てきました。また、このようなシステムは海外からのニーズが強いと考えていましたが、コロナの影響で国内でのニーズが急速に高まったのが2つ目の要因です。
 3つ目は、映像業界は、白黒からカラー、高解像度化など大きく変化していますが、映像制作の流れは従来から大きく変わっていません。長時間拘束され、密になりがちな映像制作の現場を何としても変えたい。コネクティッドソリューションズ社では『現場プロセスイノベーション』を提唱していますが、映像制作の現場プロセスイノベーションを実現したいと思っています。
 これらに加え、去年夏にIT/IPプラットフォーム『KAIROS』を製品化したのですが、ソフトバンクさんにもご覧頂き、一緒にやろうということになり、昨年9月からスタートしました。映像制作やOTTなどでも、ネットワークは課題ですし、非常に良いパートナーとのご縁を頂いたと思っています」と述べる。
 一方、ソフトバンクのBaaS事業部 部長の船吉秀人氏は「放送局や映像制作の現場では、いまだに専用機器および専用機器を取り扱うスキルを持ったエンジニアが場所と時間を共有して作業を行っています。さらに、昨年からのコロナ禍で、なかなか現場に行きたいけど行けないという声が聞こえていました。そのため、我々として何かできないかと思っていました。
 ソフトバンクでは次世代の放送プラットフォームとして『Broadcast as a Service』に関する研究開発を進めてきましたが、2019年ごろから本格的な展開に向けて社内でしっかりと議論を重ねてきました。
 また、世の中の映像の動向を見てみると、デジタル化の流れに加え、コンシューマーがリッチコンテンツを目にすることが増えています。さらに、SDからHD、2Kから4K/8Kへと高解像度化が進み、それらを取り扱うデバイスも多様化しています。共通するのはインターネット、ネットワーク回線の重要性が高まっていることです。我々のモバイル事業も、5G化により高速大容量化が進んでいきます。一方、映像関連でも、IPやインターネットに対応する様々な規格が整ってきました。このような変化を踏まえ、『Broadcast as a Service』事業を本格的にスタートするタイミングと判断しました。
 ソフトバンクはネットワークの会社ですので、ネットワークには絶対の強みを持っていますが、映像制作や映像業界の知見が足りない。また、それを実際の“モノ”にしていく力は、メーカーの強みだと思います。そういった意味でパナソニックさんは他のメーカーより一歩早く動いており、ビジョンについても同じところを見ている同志だということが分かったので、協業して検証していきましょうということで協業させていただきました」という。
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 共同検証で用いられたシステムは、ソフトバンクのクラウドベースの放送プラットフォーム『Broadcast as a Service』に、パナソニックの新IT/IP プラットフォーム「KAIROS」」を導入して、パナソニックの放送用ネットワークカメラを活用し、撮影現場とデータセンターをIPネットワークで接続することで、撮影から編集までの工程をIPで実現。これにより、事前収録した映像素材やライブ映像を、ソフトバンクのクラウドにアップロードすることで、別の場所から遠隔操作・コンテンツの管理・編集を行うといった分散型のリモートワークフローを構築して、従来よりも効率的に映像制作を進めることが可能になる。また、編集については編集者が戸惑わないように、汎用的なソフトであればクラウド上で使用できるようになっている。編集者からすると、ネット回線とパソコン(ブラウザ)があれば、クラウドにアクセスすることで、リモートデスクトップのようなイメージで、編集ソフトが使用できる。従来、編集者が持っている編集ソフトのアカウントをそのまま利用できるようになっているという。
 共同検証では、まずパナソニック製放送用ネットワークカメラ(AG―CX350)で事前収録。収録した映像データをファイル化し、クラウドへアップロード。遠隔地からアップロードした映像データにアクセスし、事前に編集する。次に、スタジオにて4台のカメラで撮影した映像を、ストリーミングでデータセンターへ入力する。事前収録映像と併せて、遠隔地のサブスタジオから映像をスイッチング。最後に、遠隔地から収録した映像データにアクセスして編集。このような流れで番組用映像データを制作している。なお、両社が制作会社に同システムを提供して、事前収録から制作・編集までをクラウド上で行った番組が、2020年12月18日から地上デジタル放送で順次放送された。
 「5つのロケーションで映像を撮影して、そのデータをクラウドに上げて編集を実施。また、事前の映像を入れたり、CGをいれたり、撮影当日のカメラの映像をストリームで上げて、さらにそれをリモートでサブスタジオ(パナソニック映像:北品川)から切り替えたり、できあがったものにテロップに入れたりも全てクラウドで行いました。このように最初から最後までをクラウドで行うことに成功しました」(鹿島氏)。
 検証は大きなトラブルはなかったものの、小さなトラブルはあり、まだまだ改善の余地はあるという。ただし、ベーシックなクラウド活用については、思っていた以上の成果が出たので、根本的な部分はきっちりできたと評価している。「機能的、性能的にクリティカルな問題はなかったので、順調だったのではないかと思っています。ただし、実際に使用していく際には、今までのレガシーなワークスキームから、急にIPの世界になりますので、慣れていかないといけないことは多数ありますので、そういった点がこれからの課題になるのではと思っています」(船吉氏)。
 なお、両社の協業は9月にスタートし、共同検証は12月に実施されており、実質的な準備期間は3か月程度で、急ピッチで進んだことを示している。また、このような検証は他のメーカー等も行っているが、実証結果をそのまま地上波で放送したケースは初めてではないかとしている。
 このようなワークフローを導入することにより、映像制作の効率化および低コスト化が期待される。従来のワークフローとの比較については、「そのまま比較することができないので、数字で示すことは中々難しいです。ただし、トータルの制作時間については、データをクラウドに上げて、皆がそこで確認できるので、従来のようにバイク便で送付などの手間や時間を大幅に削減することができました。あと、全員が現場に行く必要がないので、これまで現地への移動で費やされた時間も短縮できます。
 コストについては、機器の低コスト化も一つのターゲットですが、それだけにしてしまうとプアなシステムになる可能性があるのが課題です。機器の低コストを進めるとともに、制作時間や現場に行く人数の削減を図ることで、トータルのコスト削減を実現します。また、機能に関する技術的な要求は高いので、それに応えられる形のものを提供したいと思っています。詳細についてはこれから検討していきますが、確実にメリットはあります」(鹿島氏)。
 この他、クラウド活用で絶えず話題になるのが“セキュリティ”だ。長年、閉じたネットワークの中で業務を行ってきた放送業界には、インターネットやクラウドなどへの反発は強かった。最近は少しずつ変化しているものの、いまだに拒否反応は根強い。「セキュリティに関しては色々なご意見をいただいていますが、聞いて慄いている訳ではないです。他の産業でも同様に非常に厳しいセキュリティを求められることがあります。そのため、セキュリティのソリューションをもっていますし、元の映像データは、我々の管理監督下にあります。お客様からするとクラウドですが、我々のネットワークの一部です。
 情報事業者として、情報セキュリティは扱いが非常に厳重ですので、技術的に担保はできます。ただし、自分から見えない所(クラウド)に映像を上げるという、従来のレガシーなやり方・文化に慣れ親しんでいる方からすると、自分の手元にないということは、いくら技術的な裏付けがあっても不安に感じられるのかなと思っています」(船吉氏)とし、利用者のマインドの部分を解消していくことも重要になるという。
 さらに普及が進む5Gの活用も期待されている。ソフトバンクでは5Gを単なる通信技術ではなく、新しいプラットフォームと捉えており、第一のユースケースとして映像を考えているという。ただし、通信は「いつでも、どこでも」が重要だが、その“どこでも”はまだまだ難しい。ソフトバンクでは2030年に5G基地局35万局を計画しており、この設置が実現すれば、映像伝送のほとんどに5Gが使用できるという。加えて、5Gではネットワークスライシング技術が導入され、機器やデータ、その容量や用途に最適な通信が適用されるため、従来以上に高品質な映像伝送が実現される。
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 最後に、今後の展開について、ソフトバンクでは「映像プラットフォームとしての『Broadcast as a Service』事業ですので、サービスとして提供していきます。加えて、色々なパッケージを用意し、オプションでも対応していきます。
 課題として、どう導入していただき、慣れていただくか、導入とオペレーションの改善、パナソニックさんやパートナーと連携して、お客様に認知させていくことが大事なことだと思っています。それぞれパーツで独自に動いてもあまり効果的ではないので、いずれ輪を大きくしたいと思っていますが、まずは2社でスタートしていきます。
 放送局向け、イベント向け、アニメ向けなど系統が違うと感じていますが、それぞれに強いパートナーがいるのではと思っており、うまく連携していきたいと考えています」(船吉氏)。
 パナソニックでは「KAIROSを中心としたサービスとしての提供をする予定ですが、まだ詳細については決まっていません。内容については言えませんが、色々と実証や開発を進めており、それらを回しながら、PDCA的な形でやっています。
 また、スケジュールは未定ですが国内だけでなく、海外も含め、両方でやりたいなと思っています」(鹿島氏)と語った。

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