「安全安心な未来社会の実現目指す」 NICTオープンハウス2025で徳田理事長

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は20日から21日にかけて、施設内を一般公開して研究内容の成果等を公表する「NICTオープンハウス2025」を東京都小金井市貫井北町の同機構本部でリアル会場とオンライン配信によるハイブリッド形式で開催した。ビジネス関係者を対象とした1日目と、学生や一般を対象とした2日目とで合計2187人が参加した。

 NICT研究施設の一般公開と、最新の研究内容を紹介する公開イベントとして毎年定期的に開催。今年は敷地内の6つの会場で「電磁波先進技術」「革新的ネットワーク」「サイバーセキュリティ」「ユニバーサルコミュニケーション」「フロンティアサイエンス」の重点5分野や、「Beyond5G」「AI」「量子情報通信」「サイバーセキュリティ」による戦略4領域の研究に合わせた95カ所のブースを設置した。

 初日は、NICTの徳田英幸理事長による基調講演と、AI Safety Institute(AISI)所長の村上明子氏による特別講演を開催。また各研究代表者によるプレゼンテーション等も行われた。

 冒頭、主催者代表としてあいさつした徳田理事長は「NICTは情報通信分野を専門とする我が国唯一の公的研究機関として基礎から応用研究まで統合的な視点で推進し、大学、産業会、自治体、国内外の研究機関と連携して研究開発成果を社会に還元し、イノベーションを創出することを目指している。昨年は創立20周年を迎えることができた。今年は2021年から開始したNICT第5期中長期計画の最終年度を迎え、様々な分野で素晴らしい研究成果が創出されると共に、その成果のデモンストレーションや情報発信にも力を入れている。5月26日から6月3日までは総務省とともに大阪・関西万博でBeyond5Gレディーショーケースを開催し、3つのゾーンを通じてBeyond5Gの実現で未来の社会や生活がどのように変わるか、特NICTの展示ではこれらサービスがどのような技術で実現されるかを多くの方に見てもらった。昨年7月にNICT内に設置したOECDのグローバル・パートナーシップ(GPAI)が中心になって5月28、29日に世界35ヶ国約150人を超える専門家を結集し、フランスのインディア、カナダのシーミアとともに東京イノベーションワークショップを開催した。偶然だが5月28日には我が国でAIリスクに対応し、研究開発や活用推進のためのAI推進法が成立した。このワークショップでは、AIのさらなる健全な発展や国際連携の在り方などAIの社会的、技術的な課題などについてマルチステークスホルダー間で議論を行った。私も両日参加することができ、多言語、多文化対応AIのセッションに参加し、大変勉強になった。今回はNICTの最新の研究成果を広く紹介させていただき、体験してもらうことを目的にオープンハウスを開催する。梅雨の合間の猛暑の中多くの方に来場いただき、あらためて感謝したい」とあいさつした。

 続いて徳田理事長は、「人とAIが共創する未来へ:NICTのビジョン~第5期中長期計画の成果と次期に向けて」と題して基調講演を実施した。

 基調講演では、NICTの組織概要から設立の成り立ち、昨年20周年を迎えたこれまでの歩み、組織概要のほか、重点5分野と戦略4領域に沿った最新の研究成果の概要等を紹介した。

 2030年頃における社会イメージとして、少子高齢化を背景とした労働力の確保、高齢者の介護など社会経済活動の維持における様々な問題が深刻化する一方、人々が時間・空間・身体の制約から解放され、豊かに暮らせる人間中心の「Safe and Secure Society5・0が実現された社会や地上、海洋、成層圏や宇宙空間に生活空間が拡大された社会が来ると説明。その一例としてAI自動運転車の動向を自身の経験を元に紹介した。

 今年度が第5中長期計画の最終年度に当たることから総仕上げとして、研究開発力向上や公的サービス機能、FA機能の強化、ICT分野における産学官のHUBとしての機能の強化、成果の最大化と社会実装の加速等を進める考えを示した。また次年度からの時期中長期計画に向けて、「未来の社会基盤を創ることを念頭に安全安心な未来社会の実現を目指していきたい。絶えず新しい方が育つことが健全なエコサイクルであり、若手研究者人材の育成や獲得にも力を入れたい」と話していた。


 続く特別講演では、村上氏が「生成AIの社会的影響について安全とイノベーションの両立」と題して講演し、AIリスクとAIガバナンスの必要性やリスク、AI規制の国際動向等について事例を交えながら紹介した。

 村上氏は、日本情報経済社会推進協会による「企業IT利活用動向調査」でのデータを基に、国内の多くの企業でAIを業務に取り入れている一方で情報漏洩や回答の不正確さ等から不安を感じている声が多いと説明。「前例踏襲・保守的な日本企業においては『AIの安全性』を担保することがAIの利活用とイノベーションの促進につながる」とし、AIの安全性に関する啓蒙活動の必要性を強調。DX(デジタルトランスフォーメーション)にデジタル・データ・AIを取り入れた「DDAX」への移行が進みつつあるとし、「AIの最大のリスクはAIを恐れて使わないこと。効率化できないままでは市場競争力がなくなるだけでなく、イノベーションも加速できない」と話した。

 一方で、生成AI等の台頭によりAIリスクが顕著になったと説明。大別して誤判定や誤回答、ハルシネーションといった「技術的リスク」や、プライバシー侵害、政治活動への悪用や不正目的といった「社会的リスク」のほかに法的リスク等が存在し、場合によっては人命が脅かされる可能性もあることから、AIリスクを受容可能な最小限に抑えつつAIがもたらす価値を最大化する「AIガバナンス」や、バイアスへの対応等システムレベルでの安全性を考える必要性があると説明。国海外でのAIの安全性担保に向けた法整備や関係省庁や関係機関との連携の現状等を紹介した。

 総括として、「AISIとしては研究機関であるNICTに大いに期待している。AI安全性の研究はAIの技術の分野の数だけ存在する。現実的なシステムリスクから理論まで幅広いが、超実用的な理論と超抽象的な理論とで議論が断絶している。このギャップを埋めることは研究者にしかできない。AI活用には安心安全がキーとなる。安全であることを理解いただき、安心にAIを使う世の中のためにAISIとしてもNICTと一緒に頑張っていきたい」と話していた。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。