
NHK TECH EXPO 2025レポート AIで生放送のトーク番組のスイッチングを自動化~カメラ映像にリアルタイム合成する簡易バーチャルシステム
5月26日(月)から28日(水)までの3日間、「NHK TECH EXPO 2025」(NHKテックエクスポ2025)を開催した。今回は、「新しい発想で、魅力的なコンテンツを」「大切な情報を確実に届けるために」「体験・体感してみよう!」をテーマに、全国のNHKの現場ならではのノウハウ・アイデアから生まれた機材やサービスを20項目展示している。展示項目をいくつか紹介する。
AI自動スイッチングシステム「SWARTA」(メディア技術局 コンテンツテクノロジーセンター/メディア総局 メディアイノベーションセンター)は、優秀賞を受賞した展示。
生放送のトーク番組を対象としてスイッチングをAIで自動化するシステム「SWARTA(スワルタ)」で、AI技術の活用によりコンテンツの質と生産性の向上・業務効率化を目的としている。
システムが独自に算出するカメラスコアを使用して、スイッチングするカメラを選択する。各出演者のマイク音声を映像信号のch毎に割付。スイッチャーの経験則・考えを基にしたルールベースのアルゴリズムを作成し、スコアを算出する。発話音声データを元に、発話内容を文字起こしし、カメラに映っている内容と出演者の発話内容の一致度をLLMで判定して、スコアを算出する。また、LLMの入出力データは全て記録・保管する。
AIはGoogleのGeminiを使用している。様々なAIを比較して、今のところ推論の精度と、応答速度が速さなどからGeminiの採用を決めた。ただし、技術革新が激しい分野であり、完全に確定しているわけでなく、数か月後には変わっている可能性もあるという。また、クラウドだったりとかCopilotだったりと、アップルインテリジェンスとか、そういったものも将来的にはいろいろ試していきたいという。ログについてはNHKルールで、生成AIを使う時には、全部ログを取らないといけない。
すでに75回NHK紅白歌合戦のウラトークチャンネルで採用した。
「紅白歌合戦のウラトークは4時間半あるが、そのうち1/4、70分程度をAIでスイッチングした。4時間半全部スイッチングするのは大変だが、そのうち70分でも休憩できると考えるとかなり違う。今後スイッチングが自動でできるようになれば、結構楽になるかなと思う。
結構既存の編集機とかでも大体こういったスイッチングする機能とかあるが、大体やはり発話を軸にしてセッティングしている。そのため発話以外の部分も入れたくて、今回LLMを使用していうところが特徴です」(説明員)。
キャリブレーションについては、出演者の顔画像とかは事前に登録する必要があるが、カメラから取り込みができるようになっているので、マイクチェックの時などにすばやく取り込むなどを行っている。また、紅白のときって出演者がどんな髪型、衣装、メイクで来るかが、直前までわからないので大変という。
「SWARTA(スワルタ)」
MRキャスト(徳島放送局)は、MRデバイスを用いてCGオブジェクトを手で自由に操作し、その様子を第三者視点となるカメラ映像にリアルタイム合成する簡易バーチャルシステム。
本来MRはMRゴーグルをつけている人しか見ることができなかった。その世界を放送にも活用しようということで、リアルタイムに操作して、視聴者に見せることができるようなものになっている。美術館などの場合、正面しか見えないが、裏側を見せたりとか、色々な角度でリアルタイムに見せることができることが今回の特徴となる対象になる。
仕組みはバーチャル空間に、カメラをキャリブレーションして、バーチャル空間に映る3Dの素材とカメラの映像を合成して表示する。素材はあらかじめ作ったものであり、今回は昆虫などを用意した。NHKのコンテンツに「飛び出す昆虫」があり、その素材を利用している。
地方局でもそういうバーチャル的な演出をやりたいというのが開発のきっかけになっている。「今後も色々な文化財とか、地域の独特の残していきたいようなものを、3D化して放送に出していく。徳島だと阿波踊りが有名だが、踊りの卓越した人たちの3D素材を作れば後世に繋いでいくことにもなる。文化財を残していけるということは、メディアとしての役割も果たしていけるかなというふうに思っております。
やはり地方でも新しいことやりたいという思いは局のみんなにあります。視聴者の皆さんにいいものを届けたいっていうのをちょっとでも形にできればなと思っています」(説明員)。
徳島放送局では会館公開「阿波っ子フェス」にて展示し、来場者から多くの好評を得た。今後は放送での利用や会館での常設展示に向けて開発を継続していく。
MRキャスト
VR球体型ディスプレー(盛岡放送局)は、MRデバイスを用いてCGオブジェクトを手で自由に操作し、その様子を第三者視点となるカメラ映像にリアルタイム合成する簡易バーチャルシステム。
盛岡放送局では、祭りやスポーツ、地域文化などを題材に、VRコンテンツとして映像を資産化する取り組みを行っている。VRの撮影は容易になりつつある一方で、提示方法については個人での鑑賞や大型設備を要するものが多くを占めている。今回は、複数視点から同時に鑑賞できるVR球体型ディスプレーを展示した。
360度の立体的な視覚体験を可能とする球体型ディスプレーで、VRゴーグルを必要とせず、同時に複数人での視聴が可能な他、ドームシアター規模の設営スペースを必要とせず、省スペースでVRコンテンツ体験ができる。
VRというと、基本的には1人で楽しむものだが、複数人で楽しめるVRコンテンツの機器として開発した大阪万博にもこういった球体ディスプレーがあるが、ほとんどLED系で、LEDは球自体が発光するので綺麗だが、高価になる。
このVR球体型ディスプレーはパソコンと4Kプロジェクターの組合せであり、極めて一般的なものであり、ディスプレーのスクリーンもアクリル製だ。加えて、ディスプレーを支える架台も手作りで製作している。そのためコストはLED製のものに比べ、数分の一程度ですむという。
今後、操作や動きなどに反応するインタラクティブ機能の搭載など、コンテンツとしての機能性向上を検討していく。
トップ画像はVR球体型ディスプレー
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。
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