
NICTオープンハウス2025開催レポート
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は20日から21日にかけて、施設内を一般公開して研究内容の成果等を公表する「NICTオープンハウス2025」を東京都小金井市貫井北町の同機構本部で開催した。
今年は敷地内6つの会場で「電磁波先進技術」「革新的ネットワーク」「サイバーセキュリティ」「ユニバーサルコミュニケーション」「フロンティアサイエンス」による重点5分野と、「Beyond5G」「AI」「量子情報通信」「サイバーセキュリティ」による戦略4領域、このほかオープンイノベーションやその他研究事例を紹介する95カ所の展示ブースを設置した。このうちいくつかの研究事例を紹介する。
【マルチデバイスで共有するMixed Realityの世界】
近年注目が集まる「XR」(クロスリアリティ)は、リアルとバーチャルを融合した空間を創り出し、現実にはないものを知覚できるようにする技術の総称。XRには、現実世界と仮想世界を融合し、相互にリアルタイムで影響し合う空間を構築するMR(複合現実)や妄想世界の中に実在する映像などのリアルな情報を加える拡張仮想などの技術が含まれる。
「フロンティアサイエンス」のコーナーでは、NICTが開発したゴーグル非装着者もパソコンでリアルタイムにMR空間を認識・制御できる「リアルタイム拡張仮想」を活用したNICT未来ICT研究所内製XRシステムStudio―RXのデモ展示を紹介。既存のオンライン会議アプリとの連携や開発パッケージ機能、ユーザーと共にコンテンツを試作するワークショップ等も開催していた。
【大規模災害時における災害実動機関横断の情報通信システムX―ICS(クロスイクス)】
革新的ネットワークのコーナーでは、大規模な災害等の発生によってインターネットへの接続ができなくなった地域も含め、被災現場で活動する消防や警察、自衛隊等の災害実動機関同士の情報共有を可能とする機関横断情報通信システム「X―ICS」を展示した。
同システムは主な特長として、可搬型装置内に搭載する重層化した通信回線を束ねて容量を最大化して通信を継続する技術(切れない技術)や、装置内に情報処理機能を搭載し、装置間で情報をバケツリレー形式で共有でき、装置単体でもシステムを継続可能とする技術(業務を止めない技術)を備えている。主なユースケースとしては、公衆通信が途絶した大規模災害時における災害実動機関の情報共有や現場における迅速な意思決定支援を想定。各要素技術の統合とシステム化や検証、実動機関における標準システムとしての実証、実動機関の導入支援による社会実装を今後の展開としており、会場には実機モデルも展示した。
【Beyond 5Gに向けた非地上系ネットワーク(NTN)~宇宙・空・海・海上をつなぐ複数ネットワーク連接技術】
HAPSやダイレクト衛星通信等が話題となる中、宇宙通信システム研究室では、Beyond 5G/6Gの多様なアプリケーションに向け、多数の衛星や無人航空機、ドローンなどが3次元の統合ネットワーク制御により、非地上系ネットワーク(NTN)と地上系ネットワーク間でシームレスに繋がる通信環境の実現を目指し、各技術の研究開発を進めている。
主な研究の特徴としては、最適経路選択・事業者間連携など地上から宇宙空間までのネットワーク統合制御や、静止衛星~地上間の世界最高速レベルの10Gbps級光空間通信とのフレキシブル衛星通信、Beyond 5Gのユースケース実証など。
ユースケースとしては、地球観測データ収集や遠隔通信、移動体通信(船舶・航空機・空飛ぶクルマ・自動運転・陸海空の物流システムなど)、非常災害時対応等。今後は、衛星系と地上系が連接するシステムで個々のユーザ要求に応じた通信回線を提供する技術の確立や、世界最高速レベル、低軌道小型衛星にも接続可能な光空間通信基盤技術の確立、海洋や航空など異分野との連携への実証を行うとしている。
【電波と光で地球を視る】
リモートセンシング研究室では、電波から光までの幅広い周波数帯の電磁波を使い、地上・上空(航空機)・宇宙(衛星)から雨、雪、雲、風、水蒸気、地表間の状態など様々な対象を観測する技術の研究開発を続けている。
電磁波先進技術のコーナーでは、高精細航空機搭載合成開口レーダー(Pi―SAR X3、航空機SAR)によって撮影された都内上空からの解析画像を展示した。
航空機SARは、航空機の進行方向に対して直角方向の斜め下方向の地表面に電波を照射し、散乱されて戻ってくる電波を送信して解析処理することで地表面を画像化する映像レーダー。昼夜や天候に左右されることなく地表面を計測することができるため、地震や火山噴火等で発生する地表面の変化を詳細に観測することができる。三代目に当たる同機種は世界最高水準の分解能15㌢を達成するために1Ghz帯に対応した送受信機とアンテナを開発。東日本大震災や能登半島地震での復旧状況の確認等にも実績があり、会場では緑と赤で彩色した縮尺画像や機体モデル等を展示していた。
【多言語翻訳技術の社会展開~EXPO2025大阪・関西万博で活躍するNICT発の翻訳技術】
ユニバーサルコミュニケーションのブースでは、大阪・関西万博会場で現在使用されている翻訳技術や今後、出展が予定されている技術等を展示していた。
「TOPPAN」社と連携した「VoiceBiz UCDisplay」は、サイネージ型の同時翻訳サービスで、万博会期前イベントや会期中の会場案内等のサービスに使用されている。
従来の翻訳サービスと違ってディスプレイ越しに相手の顔を見ながら翻訳結果を確認することができるため、自然なコミュニケーションをとることが可能。音声入力以外にキーボード入力にも対応しているため、音の聞き取りが困難な利用者とのコミュニケーションにも活用できるほか、接客時以外はサイネージ広告としても活用できる。
「音声マルチスポット再生技術」は、音が聞こえる場所と聞こえない場所を意図的に創ることができる音空間制御技術。多数のスピーカを使って不要な音波を打ち消して聞こえなくすることで、特定のエリアにだけ音を届けることが可能であることから、イベント会場等での多言語同時再生が可能になる。会場ではデモ装置を展示したほか、9月に万博会場にも出展する。
【DeepProtectの技術と実績~機微情報の暗号化データを用いたAIモデルの連合学習とプライバシー保護~】
サイバーセキュリティのコーナーでは、深層学習によるプライバシー保護連合学習技術を展示。同技術は、機微情報を外部に開示することなく、暗号化したデータにより複数組織で連携して深層学習を行い、高精度なAIモデルが得られるプライバシー保護連合学習技術。金融分野での実証実験を経て、今後は医療分野への応用も進めていく。
連合学習と純同型暗号の融合により、データセットは非公開のままプライバシーを守りながら深層学習し、個々のデータセットだけでの学習よりも性能向上を図った。金融では他の銀行に顧客データを開示することなく複数銀行間で連携して不正取引を検知できる。また医療分野では、他の医療機関に患者のデータを開示することなく共同で画像診断支援を行うAI開発といったユースケースを想定している。
この記事を書いた記者
- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
最新の投稿
行政2025.07.18デジタルコンテンツセミナーを開催、沖縄総合通信事務所
行政2025.07.18総務省人事(7月13、14日付)
行政2025.07.18日米国際共同研究プロジェクトの公募開始、NICT要素技術・シーズ創出型プログラム
行政2025.07.18放射線画像診断支援AI実用化向けの共同研究を開始、NICTや大学で