実録・戦後放送史- 電波取材に生涯を捧げた 記者・阿川秀雄の記録 -


実録・戦後放送史 第97回

「大阪で朝日・毎日が競合⑤」

第2部 新NHKと民放の興り(昭和26年
 ここで三月十六日の聴聞で明らかにされ、また争点となった朝日、新日本両社の主張(準備書面)を入手したので紹介しておこう。
 ▽新日本放送の主張(準備書面の内容を含む)
 ①大阪地区申請者共通の問題として、NHKの小地方局の改廃と京都、神戸地区へ割り当て予定の周波数を整理して、大阪地方への割り当てを増やすべきである
 ②当社の工事設計は電波法及び「放送局開設の根本的基準」に適合していることは申請書によりすでに明らかである
 ③財政的基礎については、最も古くから大阪財界等大多数の支援を得て計画されたものであり、すでに設備についても多額の支払いを完了し、近時の諸物価値上がりの影響も受けていない。また事業を維持する上に必要な広告収入についても、すでに具体的な申し込みが続いている
 ④番組編成は公共の福祉に適合するよう努力しており、ラジオコードの研究も進んでいる
 ⑤事業支出面では、自主番組に重点を置き、それも公共の福祉に合致している。 
 なお、当社の申請が他社よりも優位であるとする理由として、以上の諸条件のほか他の申請者よりも申請が早い、ということは我々の熱意が他の誰よりもすぐれていることだ。また開局への準備態勢が十分整っているのは新日本放送で、これも全申請の中で最優位にある、と証拠資料まで添付している。これに対して朝日放送の準備書面をみると、
 ①朝日放送は、朝日新聞社と表裏一体の会社として資本的にも人的にもあらゆる支持支援を得ていると同時に、朝日新聞社が巨費を投じて蒐集した最高権威あるニュース等を無料で提供をうけることになっており、また要員も各部門に朝日新聞社員の兼務協力を得る確約ができている
 ②放送所敷地の土地は現実に所有しており、その位は技術的にもサービス的にも最適な立地条件にある
 ③朝日ビル内にスタジオ建設予定場所を持ち、免許を得次第いつでも着工できる。また朝日会館はいつでもスタジオとして利用できるほか、各種催物の中継放送が可能である
 ④神戸工業で製作中の10KW放送機は完成し、いつでも放送可能な状態にある
 ⑤財政的には全国からの支持があり東京、大阪の有力広告会社のほとんどが出資社となり、広告にも協力することになっている。
 このように基本姿勢を明らかにした上で、結びとして次のように言っている。「朝日放送としては、自己の優秀性を確信しているので他社の欠点を指摘したくないが、あえて比較するとしたら、それは新日本放送を対象とし、具体的には聴聞会場において主張する。従って他の三社は当社の意のあるところを諒とされたい。なお対象としないからといって決して三社を無視したりするものではない」。
 ずい分〝人を喰った〟というか思い上がった態度だと、他社(とくに新日本放送)がカンカンになったことは言うまでもない。 (第98回に続く)

阿川 秀雄

阿川 秀雄

1917年(大正6年)~2005年(平成17年)

昭和11年早稲田大学中退、同年3月、時事新報社入社、以後、中国新聞社、毎日新聞社等を経て通信文化新報編集局次長。昭和25年5月電波タイムス社創立。

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