
フォーラムエイト、大阪・関西万博テーマウィーク開催
フォーラムエイト(東京都港区、伊藤裕二社長)は5月20日、大阪府の夢洲を舞台に開催中の大阪・関西万博でテーマウィークに参加し、「あなたの安全・安心な未来に向けた、災害大国である日本だからこその世界への提言」と題して、パネルディスカッション等を通じて未来の防災や減災に向けた対策について議論した。
テーマウィークは、万博の中で世界中の国々が地球的規模の課題の解決に向け、対話によって「いのち輝く未来社会」を世界と共に創造することを目的として行っている取り組み。文化やコミュニティ、健康など週替わりでテーマを変えて課題を提言しており、今回は「未来のコミュニティとモビリティ」のテーマウィークの一環として開催し、防災事例や日ごろの備え等について話し合った。
この日は、大阪大学大学院工学研究科環境エネルギー工学専攻教授の福田知弘氏と、東北大学災害科学国際研究所教授/副学長の今村文彦氏、フォーラムエイトの伊藤社長がパネリストとして登壇。「パックン」の愛称でお笑い芸人や俳優としても活躍しているタレントのパトリック・ハーラン氏がモデレーターとして参加し、それぞれの研究事例の紹介や会場の参加者を交えて「自助・共助・公助」をテーマに議論を重ねた。
前半では、各登壇者が研究事例等を紹介した。福田氏は、「平時・災害両立」と「市民目線でわかりやすい、できるだけ正確な防災ツール」の二つのテーマで研究事例等を説明した。自身の災害研究のルーツとして1983年に日本海中部地震があった男鹿半島の地形変化や1995年の阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災等被災地の状況等を自ら撮影した写真や映像と共に紹介。「災害が起こってからでは遅い。平時から街歩きをして町を知っておく必要がある」と話した。
また、MR(複合現実)を活用した浸水リスクを可視化するソフトウェアやドローン視点での都市洪水状況の推測ツール、AIを活用した浸水検出システムを紹介し、「専門家だけでなく市民がハンドリングできるツールを使っていく必要がある」と話した。
続いて今村氏は、地震だけでなく津波、地滑り、液状化など連鎖的に発生する複合災害について、地域特性や最近の動向を踏まえて事前にシナリオを予測することが重要と説明。東日本大震災を例に、余震や巨大津波、福島第一原発事故といった状況を説明。また昨年の能登半島地震での事例も踏まえて「連鎖していく状況をきちんと理解することで、地震そのものは止められなくてもトータルの被害を小さくすることができる」と述べた。
東日本大震災以降、毎年大小さまざまな自然災害が全国各地で発生している状況を紹介し、「皆さん関心は高いがそれぞれ備えているかというと不十分な部分がある」と指摘。災害から命を守るための避難行動について、人流データを活用して、特に津波時の避難行動などについてはその分析を実施して特性を把握し、個人レベルの行動につなげる必要があるとした。
人的被害を大きくする心理的要因として、目の前の危険から目を背ける「正常性バイアス」や「愛他行動」、「自暴自棄」、「同調性バイアス」を紹介。過去の災害データを基に実態解明や予測・評価、被害軽減につなげる「Disaster Science」を紹介し、今後発生が予測される南海トラフ、首都直下地震といった災害への備えの必要性等を訴えた。
伊藤氏は、「科学的なシミュレーションによる災害体験と対策への気づきを深めよう」と題して、吊り橋や長大橋の解析ソフトから始まった災害対策や分析技術について説明した。自社開発したソフトウェアによる阪神淡路大震災の再現シミュレーションや、ソフトウェア予測コンペでも高く評価された実物大の実験装置と解析ソフトを紹介。また熊本県玉名市等を例に、VR(仮想現実)やメタバースを活用して河川の氾濫状況を予測するシミュレーションソフト等を紹介し、「科学的なアプローチや工学的な検討によって正確な被災状況を予測し、なかなか体験できない災害の体感を通じて対策に気づきを求めている」と強調した。
研究事例紹介の後、グリニッジ大学火災安全工学グループ教授で火災解析ソフトや避難解析ソフト開発でも知られるエドウィン・R・ガリア氏と、台湾花蓮県知事のジョ・チェンウェイ氏のビデオメッセージを紹介した。
ガリア氏は「社会が連続した災害に効率的に対応し、人命災害に発展させないようにするのが不可欠。通常、津波時に使用されることが予測される避難ルートが火災で使えなくなる可能性もある。歩行者、交通、ハザード解析を単一シミュレーション環境で統合する高度なエージェントベースのコンピュータモデリングはこれらの状況を探り、適切な緩和戦略を開発する手段を提供する。しかしこれらのモデル開発と並行して地域社会を代表する適切な人間の行動データを収集し、それらデータをモデルに組み込むことが現実を反映するために必須。さらにこれら高度なモデルと適切なバーチャルリアリティグラフィックスは、事象への効率的な手順を開発するためだけでなく、地域社会に最適な対応方法を教育するためにも使用できる。このセッションで関連するテーマを探究してくれることを信じる」と呼び掛け、「幸運は準備された心に訪れる」とメッセージを伝えた。
ジョ氏は、2024年4月に花蓮県で発生した震災を振り返ると共に、防災・減災における地域のレジリエンス強化に向けた政策を紹介。震災後の避難所開設状況やスマート防災システムといった取り組み事例を説明していた。
後半では、発表事例を踏まえて今後世界規模で起こりうる災害への意識や対策について話し合った。
「自助」の取り組みについて、今村氏は「一回災害を経験するとそれが正常になるが、経験していないとそれが普通になってしまう。地域でも個人でも経験がないとそこをイメージするのは難しい」と正常性バイアスの危険性を指摘。福田氏も「若いときには同調性バイアスで、データを確かめずにみんなと同じ行動をしていれば大丈夫と思ってしまうことがあった」と同意した。また伊藤氏が説明したシミュレーションソフトを参考に普段から避難時の行動を想定し、備蓄等の備えをすることが大事としたうえで、落ち着いて情報収集しながら行動する重要性を呼び掛けていた。
「共助」について、今村氏は避難訓練等の地域での取り組みやボランティア、企業によるサポート等を紹介し、「まずは身近なところから広げていくのが大事」とした。また東京をはじめ近隣住民との関係が希薄な都会での関係性の構築について、福田氏は「地域の街づくりに参加したり、イベントに参加して顔見知りになっておくのが大切」と話していた。パトリック氏も地元の祭りに積極的に参加しているとして、「地道な活動がいざというときに自身を救うことにつながる」と強調。また高齢者等の避難弱者自らが積極的に助けを求めていく必要性や支援の仕組みづくりについても訴えた。
「公助」については、国内の成功例や課題を議論。今村氏は堤防や水門整備を挙げ、「社会インフラとして公的にやってもらわないといけない。今はほぼ整備されつつあるが気候変動で海面が上昇しており、今後はそこを対応しないといけない」と述べた。福田氏は、「普段は公園として、いざというときは水を貯める遊水地があるが、うまく情報発信できていないところもある。うまく情報を伝えるのが大事」と話した。
伊藤氏は「ようやく国の予算がつきはじめ、今後はDX推進に向けてシミュレーションを基に自治体でも防災対策も進められていくはずだが、強制力もないので住民の力で働きかけていくのが大事」と話した。福田氏も「自分の眼で直感的に体験できるのは大きい。今はデータやエビデンスがないと政策決定できないので、シミュレーションは大事」と話していた。今村氏も「過去の経験で未来を予測できる。具体的な未来を映像としてわかるのは大切」と話していた。
総括として、パトリック氏は「万博は世界とのコミュニティづくり。皆さんもその気持ちで近所での触れ合いを増やして欲しい。普段から家族と笑顔でコミュニケーションをとることでいざというとき大事な情報となる」と話した。また伊藤氏も「このイベントをやりたいと思った理由は万博のテーマである命輝く未来社会のデザインが心に留まったから。命を守るというミッションのために防災技術や情報を活用してほしい」と呼び掛けていた。
この記事を書いた記者
- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
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