電波産業会が電波の日記念講演会開催

 一般社団法人電波産業会(島田太郎会長)は2025年6月5日(木)、明治記念館(東京都港区)で情報通信月間参加行事として「電波の日記念講演会」(情報通信月間推進協議会協賛、総務省後援)を開いた。会場とオンラインとのハイブリッド形式の開催で、会員や関係者等約280人が参加した。
 主催者代表として、児玉俊介専務理事は「毎年この時期に、6月1日の電波の日を記念して電波の日記念講演会を主催し、電波利用の現状と今後の展望等に関し、情報通信行政、電気通信事業者、放送事業者、ICT関係のメーカー代表の方々をお招きし、講演いただいている。コロナ禍以降はハイブリッド形式で開催しているが、今年も大変多くの方々に参加いただき喜ばしく思う」と述べた。
 続いて「我が国は、世界に先駆けて人口減少や少子高齢化といった状況に直面しており、持続的な経済成長を実現するための生産性の向上に取り組むことが喫緊の課題となっている。また毎年のように自然災害が多発し、甚大な被害が発生しており、災害に強い強靭な社会システムを構築していくことも求められている。電波はこれらの課題の解決に資する社会システムを構成する重要な要素であり、電波産業が社会に対して果たすべき責任は、これまで以上に重大と感じている。当会においても、このような社会・経済の状況に鑑み、今後一層国民生活の質の向上に資する電波利用の促進と、それを支える電波関連産業の活性化に努めていく。通信分野及び放送分野において、引き続き技術革新が進んでいく中、各界のトップの方々をお招きしてご講演いただき、最新の動向に関する情報に触れられることは非常に有意義と確信している。来場いただいた皆さまやオンラインで視聴されている皆さまには今後の業務等にご活用いただけることを祈念したい」と話した。
 続く基調講演では、総務省の湯本博信総合通信基盤局長、通信分野から楽天モバイル株式会社の矢澤俊介代表取締役社長、放送分野から一般社団法人放送サービス高度化推進協会の加増良弘理事長、無線機器製造分野から三菱電機株式会社の小山浩防衛・宇宙システム事業本部主席技監が参加し、各分野での最新動向や課題等について講演した。
 総務省の湯本総合通信基盤局長は、「電波政策の最新動向」と題して、5Gインフラ整備の推進やNTN(Non―Terrestrial Network、非地上系ネットワーク)の実現に向けた制度整備状況、4月18日に成立した電波法及び放送法の一部を改正する法律の主な改正内容、社会環境の変化に対応した電波有効利用の推進の在り方やDX(デジタルトランスフォーメーション)・イノベーション加速化プラン2030等についての現状や課題を報告した。
 5Gの整備状況については、全国の人口カバー率は目標を前倒しで達成した一方で各都道府県でのカバー率にばらつきがあるとし「今後このばらつきをどうするかが課題。また様々なインフラを活用して非居住エリアをどうカバーしていくかも課題」と述べた。また既存の地上局を補完する試みとして、HAPS(高高度プラットフォーム)や衛星コンステレーションの実現による衛生通信サービスの高度化に期待感を示した。このほか、多数の無線局が集中することで低い周波数帯がひっ迫する状況にあることを背景に、政府として比較的空いている高い周波数帯の活用を進めることが必須であるとし、そうした高周波数帯を活用する事業者選定にオークションによる新たな周波数割当方式を採用した電波法及び放送法の一部改正法の概要等を説明していた。
 楽天モバイルの矢澤社長は、「携帯キャリア事業に対する楽天モバイルの取り組み」と題して、楽天モバイルが携帯キャリアとして本格サービスを開始するまでの経緯や低料金プランを実現するための工夫、通信品質改善への取り組みや5Gネットワーク拡大に向けた動き等を説明した。
 矢澤社長は携帯キャリア事業(MNO)に参入した理由について、「携帯市場の民主化が最大の目的。当時日本の利益額トップ3にモバイル事業者3社が入っていた。競争することで高額な携帯電話料金をもっとリーズナブルな料金にできると考えた」と説明。仮想化による効率的なネットワーク展開等で低コスト、低料金を実現したとし、今後は2026年第4四半期を目途に衛星通信サービス商用化を進めていく考えを示した。
 放送サービス高度化推進協会の加増理事長は、「BSはどう見られているか」と題して、テレビ視聴機器の普及状況や視聴傾向の推移、BS5社の業績やBS業界の動き、これからやるべきことへの考えを示した。
 4K8K衛星放送視聴可能機器の出荷台数については、2016年12月の統計開始から昨年9月に2千万台の大台を突破し、今年3月末現在で累計2250万台になったとし、普及率はテレビ視聴可能世帯の43%に到達したとした。一方でテレビを持ってない/見られない世帯が増加傾向にあり、「テレビはあった方が良い」等テレビに対するポジティブな意見が減少し、これに反比例する形で動画配信サービスへのポジティブなデータが増加傾向にあることを紹介した。
 加増理事長は今後の取り組みとして、特定のジャンルやテーマに興味、関心を持つ視聴者をターゲットとして深く届ける番組を編成し、積極視聴者の拡大を図る「セグメント・マスメディア」が重要とし、そのための新指標として視聴率に代わる「視聴熱」を紹介。「地方は厳しい状況で放送以外をどう見出すかがカギとなる」等と話していた。
 最後に三菱電機の小山主席技監は、「宇宙システムにおける電波利用と展望」と題して、レーダ衛星を活用した地球観測分野における電波利用と展望や、衛星通信分野における電波利用と展望を研究事例と共に紹介。「地球観測分野においてはALOS―4をはじめとしたLバンド合成開口レーダによる全天候型広域情報収集能力の重要性が高まっている。喫緊の課題である防災・減災分野におけるSARデータ活用の社会実装推進に取り組みたい。また衛星情報分野においてはデジタル化のトレンドが顕著であり、デジタル化に向けた取り組みの推進と共に、今後のマルチオービット化に向けた取り組みを推進したい」と話していた。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。