「電波が創る明日の日本」、電波技術協会セミナー開催

一般財団法人電波技術協会は2025年6月6日(金)、2025年度情報通信月間参加行事として、「電波が創る明日の日本」をテーマに、第32回電波技術協会セミナーを千代田放送会館 (東京都千代田区紀尾井町)で開催(情報通信月間推進協議会協賛)。会員企業関係者など約190人が参加した。
 同協会では、社会貢献事業の一環として、放送、通信や様々な電波利用技術に関する知識を広く一般に提供することを目的に。新しい電波技術や電波行政施策等を内容としたセミナーを情報通信月間参加行事として実施している。今年は、特別講演として総務省情報流通行政局長の豊嶋基暢氏、NHK理事で技師長の寺田健二氏、NTTドコモIOWNエバンジェリストの岩科滋氏の3氏を講師に招いて講演を実施した。
 冒頭、主催者を代表して電波技術協会の久保田誠之理事長は、「電波技術協会は昭和27年の創立以来、行政機関、研究機関、放送、通信利用者のニーズに応えて電波利用技術の調査研究、周波数共有に当たっての運用調整といった事業を展開している。電波利用の発展に微力ながら貢献している。また電波利用技術の知識の普及を目指して本日のようなセミナー開催や秋には電波利用技術の発展に貢献した方々を表彰している。広報誌『FORN』も定期的に刊行しており、放送100年記念特集号も用意した。本日のプログラムには本協会設立からこれまで行ってきた主な事業を紹介している。本日は放送行政、放送サービス、通信サービスそれぞれの業界で最先端のリーダーシップをとっておられる皆様を講師にお迎えした。本日はネット配信しておらず、この場限りのとっておきの情報を得られると期待している。参加者の皆様の明日のお仕事に少しでもお役に立てるよう願っている」とあいさつした。
 続く講演で、総務省情報流通行政局の豊嶋氏は「放送政策の最新動向」と題して、放送100年を記念して放送を取り巻く現状や今後の課題等について講演した。豊嶋氏は放送メディアの市場規模について、令和5年度は全体で3兆6077億円で昨年度から611億円減少して年々微減傾向にあるとし、「市場規模のブレイクスルーは今後考えづらい。広告収入パターンは固定化されており、市場はなだらかな減少傾向にある」とした。コロナ前の市場データを示し、「コロナが明けて数年が経ち、コロナ前に売り上げ水準が戻ってきていると言いながら以前の水準には戻っていない。回復したと問われれば厳しいというのが関係者の見方。赤字計上した会社も増えており、特にラジオやローカルテレビは母数が大きいながらも厳しく、経営をどう立て直すかは厳しい時代を迎えている」と指摘した。
 設備産業である放送業界において、収入が厳しい中では支出をどう抑えるかが重要とし、民放の地デジ送信所とそれぞれの世帯カバー率、年間維持経費をまとめたグラフを紹介。「もう数年以内に地デジ設備交換の山がやってくると言われている。経営的には大きな負担があり、経営判断の課題となってくる」と述べた。
 また放送を巡る社会環境の変化として、「15分以上テレビを見ている率が2010年から大きく落ち込み、20~30代では2人に1人となっている。そもそも家にテレビがないという率も2024年に70%を切った。29歳以下の世帯では十世帯に三世帯がテレビを持っていないということで、デバイスとしてテレビを持っていない層が増えている。広告収入は全体の中でネットの広告収入の傾斜が唯一上っていてほかのメディアはほぼ横ばいか右肩下がり。ネット媒体への集中が加速している」と指摘。一方でTVer等の放送番組の見逃し配信サービスの伸びを例に「テレビ番組自体を見たいというニーズはあると信じている。単純にテレビ離れというより番組をいろいろな形で見ているという時代にうまくマッチすることを考える必要がある」と話して放送コンテンツ強化の必要性等を強調していた。
 続いてNHKの寺田氏は、「放送100年、先端テクノロジーで描くメディアの未来」と題して、放送開始から100年の節目を振り返ると共に、VRやAIといった最新の放送技術を実際の番組での使用事例を基に紹介した。
 寺田氏は、関東大震災で混乱やデマが広がったことを背景に正確な情報を伝える放送需要が高まったことを背景に1925年3月、NHKの前身である社団法人東京放送局が東京・芝浦の仮放送所施設からラジオの試験放送を開始してから100年が経過したとし、その後のNHK発足からテレビ放送の開始、皇太子殿下のご成婚をきっかけとしたテレビの家庭への普及、東京オリンピック中継を機としたカラー放送普及や、地上デジタル放送の開始といったこれまでの経緯について、順を追いながら紹介した。
 また現在NHKで放送中の大河ドラマ「べらぼう」で火災シーンに使用されたVFX技術やAI技術、VRプラットフォーム「Virtual NHK」や、IPリモートプロダクションを活用した「クラシック倶楽部」、NTTのIOWNを活用した大阪・関西万博との生中継といった取り組みの数々を紹介。「コンテンツの質をいかに向上しながら効率的にさせていくかがこれからの課題。次の世代が夢を持てるのが大事。若い人が働きたいという放送の将来像を考えていきたい。これからもアイデアがあれば届けていきたい」と話していた。
 最後にNTTドコモの岩科氏は、「6G時代、ネットワークとAIの融合」と題して、NTTドコモが進める6Gの価値実現やHAPSをはじめとしたNTNの現状等、R&D(研究開発)の取り組みについて紹介した。
 岩科氏は「2030年には人々が公私ともにWell―beingな生活、またそのような社会を持続的に体感できるように貢献していくというのが大きなテーマ。この中で『個人と社会の生産性向上』と『個人が主役となり、幸福と感動体験―WOWを感じる社会の実現』がドコモのR&Dビジョンであり、このような社会を作るためにはAIが絶対的に必要」とし、AIとビッグデータ分析を活用して顧客サービスUIの高度化やネットワーク運用の最適化、社内DXの推進を進めているとした。
 また6G化に向けた柱として「Sustainability」「Efficiency」「Customer Experience」「NW for AI」「Connectivity Everywhere」を紹介。
 それぞれ光電融合技術(IOWN APN)やAI適用による自動運用化・最適化、 AIの価値最大化(計算資源・ネットワーク提供、大量データ収集・加工)LEO/GEO/HAPS/地上局を連携させたネットワーク向上等の取り組みについて紹介していた。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。