総務省、NICT 「自動翻訳シンポジウム」を開催

 総務省と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、世界の「言葉の壁」をなくすことを目指すグローバルコミュニケーション計画を推進しており、その一環としてNICTは音声翻訳とテキスト翻訳の研究・開発・社会実装を進めている。しかし、翻訳技術を活用する分野によっては翻訳データが足りないことが課題となっているため、総務省とNICTは、NICTが様々な分野の翻訳データを集積して活用する「翻訳バンク」の運用を開始している。 こうした背景を踏まえて総務省とNICTは、最近の自動翻訳技術の動向や研究、開発、社会実装、翻訳データの整備等に関して有識者が登壇し、わが国の今後の戦略を多角的に議論する「自動翻訳シンポジウム~自動翻訳と翻訳バンク~」を3月12日にTKP御茶ノ水カンファレンスセンター(東京都千代田区)で開催した。 主催者挨拶を総務省の鈴木茂樹総務審議官が行った。「昨今の情勢として、わが国への外国人旅行者数は昨年度に約2860万人と推定値だが記録した。政府としては平成28年3月に『明日の日本を支える観光ビジョン構想会議』において2020年には4000万人のインバウンドそして2030年には6000万人のインバウンドを迎えたいと目標を示した。特に2020年に東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されると、多数の外国人の方が訪日される。総務省ではNICTの自動翻訳技術を高度化、社会実装することでこれら訪日外国人の方々が日本滞在中に言葉の壁を感じないで済むようにとの環境を実現することを目指している。2014年4月にはグローバルコミュニケーション計画を発表し具体的な取り組みを進めている。本計画ではNICTや民間企業と連携して2020年までに旅行会話を中心とした生活会話の実用レベルで翻訳精度を10の言語で実現することを目指している。研究開発では観光庁とも連携しながら全国各地の商業施設や観光案内等での利活用実証にも取り組み、今後さらなる活用拡大に向けて関係省庁とも連携した取り組みを加速していく。こういった取り組みの中で特にNICTにおいては翻訳の高精度化に必要な翻訳データの収集にも取り組んでいる。2017年6月からニューラル機械翻訳技術の導入も進めている。翻訳技術を活用するにあたっては他方で翻訳データが足りないことが課題になっている。そこで総務省とNICTはさまざまな分野における翻訳データの集積に向けて、NICTがさまざまな分野の翻訳データを集積して活用する『翻訳バンク』の運用を2017年9月に開始した。この取り組みは翻訳データを提供してもらう方には自動翻訳技術の使用料負担を軽減するメリットのある仕組みとなっており、翻訳データを提供してもらう方にはインセンティブの働く仕組みとなっている。2018年1月時点で50以上の方にデータの提供をいただいた。総務省とNICTは、今後もオールジャパン体制で皆さまがお持ちの質の高い翻訳データを提供していただき、翻訳精度を向上させてさらに質の高い翻訳データを提供していただく、好循環な環境が生まれるように取り組んでいく。自動翻訳分野の一層の成長ひいては社会経済活動のグローバル化が進む中で、わが国の国際競争力強化に向けて皆さま方とともに歩んでいけたらと思う」と述べた。 続いて鈴木総務審議官と徳田英幸NICT理事長が「翻訳バンク」のロゴマークを披露した。 基調講演を須藤修東京大学大学院・教授が行った。「AIイノベーションとVoiceTraを使った新たな社会インフラ構築」と題して講演した。 「翻訳バンク」の概要説明を隅田英一郎NICTフェローが行った。 続いてパネルディスカッションに入って、3氏が講演した。モデレータは内山将夫NICT研究マネージャー。 柿沼太一STORIA法律事務所弁護士が「AI生成に際しての知財処理~このデータ、AI生成に使っていいの?~」と題して講演した。森口功造川村インターナショナル常務取締役が「自動翻訳のビジネス展開」と題して講演した。目黒光司特許庁特許情報室室長補佐が「特許庁における機械翻訳の活用事例~審査の効率化・高品質化に向けて」と題して講演した。 続いて閉会挨拶を徳田英幸NICT理事長が行った。「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催まで2年余りとなった。言葉の壁をなくす基礎となる自動翻訳技術は大変注目をいただいている。これまでの長年にわたる研究開発の成果が皆さまの実際の利用やご支援のおかげでまさに開花しようとしているフェーズに入ってきている。今回のシンポジウムは最近の自動翻訳技術の動向や研究、開発、ビジネス、活用事例、翻訳データの取り扱い等について講演いただいた。私自身も思いを新たにさせていただいた。自動翻訳が社会にもたらす影響の大きさを考えると今後もオールジャパン体制で日本の翻訳技術のさらなる多分野化、高精度化に取り組まなければいけないと感じた」と述べた。