
Deep Protect活用で検知精度向上を確認、NICTや神戸大等研究グループ
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、徳田英幸理事長)は、国立大学法人神戸大学(藤澤正人学長)及びEAGLYS株式会社(今林広樹代表取締役社長)に委託し、りそな銀行他3行と連携して、プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を活用した不正口座検知の実証実験を実施したと発表した。不正口座検知の精度向上を確認したほか、従来のルールベースの監視やAIを用いた個別学習では検知が困難だった潜在的な不正口座を特定できる可能性を示すことができたとしている。
複雑化・巧妙化する金融犯罪手法に対し、口座への入出金や顧客ごとの取引の監視、またAIを用いた検知システムの導入・検討など、不正取引モニタリングの取組が各金融機関で進められている。
しかし、単独の金融機関では十分なAI開発の肝となる学習データの確保が難しく、顧客の個人情報やプライバシーの保護を実現した上で、複数の金融機関が組織横断的に協調してAIを開発していくことが極めて重要となっている。
この課題を解決するため、NICTはデータを外部に開示することなく機密性を保ったまま深層学習を行う「DeepProtect」を活用することで、複数の金融機関と連携して不正取引を自動検知するシステムの開発に取り組んできた。
NICTでは2023年から、これまでの成果を基に、次のステップとして神戸大学及びEAGLYSに対し、それぞれの金融機関で日々蓄積される取引データを継続して学習に取り込めるなど、より実用性の高い不正取引モニタリングAIの研究開発及び実証実験を、高度通信・放送研究開発委託研究として委託した。
実証実験では、りそな銀行等の協力を得て、各銀行から正常口座と凍結となった不正口座の両方について、顧客情報が特定されない形で一定期間のデータ提供を依頼。時系列解析が可能な形に前処理を実施した上で個別学習のモデルを作成し、続いてDeepProtectを用いて4銀行で連合学習を実施して検知精度の評価を行った。
この結果、個別学習と比較して連合学習では全体的に精度の低下が確認した。これは各銀行のデータのフォーマットや定義がカラムレベルで異なり、4銀行で共通して使えるデータ項目が極端に少ないことが理由の一つと考えられるという。
これを受けて、神戸大学とEAGLYSは、DeepProtectにアンサンブル学習を組み合わせることで、データ項目にばらつきがあっても情報を余すことなく利用し、不正検知を高性能化できるアプローチを新たに適用した。このアプローチでは、各銀行の個別学習モデル(4個)と4銀行での連合学習モデル(1個)に加え、3銀行ずつの連合学習モデル(4個)でも連合学習を行い、全部で9個のモデルを活用しデータ項目の標準化を実質的に実現した。
この結果、連合学習モデルでは、個別学習モデルと比較して適合率が最大約10ポイント向上するケースも見られ、95%の再現率を超える高精度な検知を達成するケースも確認できた。また、再現率の高い箇所では連合学習モデルの方が良い検知精度を確認。アンサンブル学習により、検知の安定性も向上したという。
実証実験後の協力銀行とのワークショップにおいて、「個別学習では不正口座として検知されず、連合学習では不正口座として検知された取引口座」を確認した結果、一部において「グレーな口座」と評価され、既存のルールベースでの監視ではすり抜けていたことがわかり、従来のルールベースの監視やAIを用いた個別学習では検知が困難であった「潜在的な不正口座」を特定できる可能性が示された。
さらに、高度通信・放送研究開発委託研究の取組であるDeepProtectの高度化に関して、①不正取引データの合成手法の提案、②訓練データの不均衡データ問題の緩和及び敵対的サンプル攻撃に対する防御手法への応用とその有効性の提示、③破滅的忘却を抑制しながら継続的な連合学習を可能にするアルゴリズムの検証、④銀行における不正取引監視者を支援する不正取引モニタリングシステムのプロトタイプの開発―を実施した。
NICTによると、今回の成果を不正取引モニタリングシステムに実装することで、より精度の高い不正取引の検知や不正口座の早期検知が可能となるとともに、金融機関の監視業務の効率化やコスト削減効果が期待されるという。実証実験で得られた成果を踏まえて、NICTではDeepProtectの基盤技術の更なる高度化を目指すと共に、神戸大学とEAGLYSは検知精度の更なる向上を図るほか、不正取引検知業務への実装に向けた取組を進める。これに向けて、現行のAMLシステムと並行運用する簡易的なシステムの導入を検討し、金融機関での実用化の可能性を検討していくとしている。
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