
ドローン巡る新規周波数帯や最新動向を紹介、周波数資源開発シンポジウム開催
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)と一般社団法人電波産業会(ARIB)は7月11日(金)、東京都港区の明治記念館で情報通信月間参加行事の一環として「周波数資源開発シンポジウム2025 ~ 利用分野が拡大するドローンについて ~」を開催した。研究者や専門家をはじめ一般から約100人が参加し、ドローン活用を巡る新規周波数帯や既存周波数帯での通信方法等最新動向について専門家からの講演を聞いた。
近年、ドローンについては、災害時の活用のみならず多くの分野での活用が期待されている。一方で、ドローン運用に使用可能な既存周波数帯は混雑しており、システム収容数の拡大や安定した通信確保の点で課題が生じている。シンポジウムでは、こうした状況を改善し、より広い用途でドローンを活用する道を開く新規周波数帯の利用や、既存周波数帯での新たな通信方法等に焦点を当て、より安全・確実な通信の確保や収容数の拡大に向けた取組について、産学官の専門家が講演した。
主催者を代表して、電波産業会の岡野直樹専務理事は「ドローンは、農業、建設土木、物流、エンタメ、災害対応など様々な分野で活用が広がっている。普段の生活でもドローンで撮影された映像を見る機会が多々あり素晴らしいと感じている。しかしドローンの運用に使われている周波数帯は混雑しており、収容数の拡大等に課題が生じている。こうした状況を鑑みてより広い用途でドローンを利用できるよう新たな周波数の貸与、既存周波数帯の新たな通信方式に焦点を当て、様々な立場から今行われている工夫、取り組みを講師の方々からご紹介いただく。また新たな利用ケースや将来展望といったところにも触れていただく。参加される方々の業務、ビジネスの発展につながるよう心から祈念する」とあいさつした。
続いて、7月の人事異動で就任したばかりの総務省総合通信基盤局の翁長久電波部長が来賓として登壇。「わたしが役所に入った32年前当時はまだまだ携帯電話が普及してなくて、プロの人たちが通信を使うというイメージがあった。その後携帯電話が一気に普及して最近では色んなところで電波が使用されることになり、当時はこんな時代が来るとは夢にも思っていなかった。われわれ電波行政を扱う立場としてはうれしい反面、周波数が欲しいという声がいろんなところからあり苦労してる面もある。電波はプロが使うだけでなく、市場拡大などビジネスの発展に寄与している。総務省では昨年八月にワイヤレストランスフォーメーション推進戦略を立ち上げ、とりまとめの中で電波をどう有効に使ってもらいビジネスの拡大につなげるか戦略を練っている。中でもドローンに対してどのような電波の使い方、制度改正等を紹介させていただく。引き続き行政への協力を」とあいさつした。
基調講演では、総務省総合通信基盤局電波部電波政策課から小川裕之課長が「電波政策の最新動向~ドローンの利用拡大に向けて~」と題して講演。6GHz帯を超える高い周波数帯の活用を希望する多種多様なサービス提供者の中から、最も有効活用できる提供者を価額競争で選定する新たな周波数割当方式導入や、紙の免許状・認定証を廃止してインターネットでの閲覧に移行する無線局の免許状等デジタル化、電波使用料見直し等を導入した電波法及び放送法の一部改正法の概要や、5・8GHz帯でのドローン利用拡大に向けた取り組み状況について説明した。
室蘭工業大学理工学部の北沢祥一教授は、「ドローン等の運用の現状と拡大に向けた課題」と題して講演。ドローンの社会実装加速に向けた国の施策やロードマップを紹介しながら、電波が混雑する都市部等での無人航空機の干渉回避技術や通信インフラが弱い山間部、離島、海洋部等で運用される無人航空機を対象とした高高度航空機経由の広域・長距離の多元接続技術及び周波数共用技術の開発状況を紹介。拡大に向けた課題として、指定周波数の明確化や混信対策、周波数の確保と他システムとの共存や電波伝搬特性の評価、ライセンスや飛行規制といった制度整備の充実や安定した通信と伝送品質の確保について挙げていた。
国立研究開発法人産業技術総合研究所フィールドロボティクス研究グループ長の神村明哉氏は、「災害・警備強化のための自律分散型ドローン協調飛行制御および遠隔運用技術」と題して、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務による成果について講演。複数のドローンを遠隔から運用し、危険性や緊急性を有する災害現場や警備現場等の状況を多角的に把握するためのデジタルツインを用いた遠隔運用システムについて、運用する様子を示した動画を交えながら紹介した。システムは機体間通信により他ドローンの位置や速度情報を取得し、それぞれが自律分散的に飛行制御を行う「自律分散協調飛行技術」(スウォーム技術)や環境の高速三次元化技術等を活用したもので、今後は経済安全保障の観点から早期確立を目指し、防災や警備、点検、メタバースといった各分野での応用を目指すとした。
産業用ドローンを中心とした自律機器の製造販売等を扱う、イームズロボティクス社代表取締役の曽谷英司氏は、「ドローンメーカとしての取組と将来展開」と題して、ドローン関連市場のトピックスや能登半島地震での災害支援協定に基づく取り組み等を紹介した。また会社の主な業務として、自動車で言うナンバープレートに当たるドローンのリモートIDの開発・販売状況やリモートID通信方式を応用した機体間(V2X)通信システム構築の取組等についても紹介。ドローン業界での課題として、山間や海上での通信サービスエリアの限界から来る複数通信網への対応、空中利用SIMのコスト負担の軽減、国際規格の共通化やLPWA等低データ量での運用方法の検討を背景としたアンライセンス無線の活用についてを指摘していた。
長野県白馬村でドローンを活用した山岳保全活動などを展開する、Mount Libra社代表取締役CEOの石野真氏は、「ドローン活用の現状と現場での課題」と題して、ドローンを活用した物資輸送や点検業務等の取組と課題について講演した。山岳を舞台としたドローン飛行の実証実験を通じた今後の課題として、簡便で安定した通信環境の整備や山岳に精通したパイロットの育成、バッテリー交換や配送物品の積み下ろし等のオペレーション効率化等を挙げていた。
最後にNICTネットワーク研究所ワイヤレスシステム研究室マネージャーの松田隆志氏が「ドローンの安全・安心を支える無線通信技術」と題して講演。無人航空機の目視外飛行における通信技術の研究開発として、通信が途切れないよう中継局となるドローンを介するコマンドホッパーと呼ばれる技術を活用した「コマンド・テレメトリ情報のマルチホップC2伝送」や、機体間通信を使った自律飛行制御技術の開発状況等を紹介していた。
この記事を書いた記者
- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
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