
波高センサ研究開発など3テーマを採択・国交省
国土交通省は、交通運輸分野の政策課題解決を目指し「交通運輸技術開発推進制度」により技術開発を推進しているが、今般、令和7年度SBIR省庁連携型新規研究課題として、MEMS差圧センサ素子を利用した波高センサの研究開発開発など、3件の採択を決定した。
交通運輸技術開発推進制度は、安全・安心で快適な交通社会の実現や環境負荷軽減等に資するイノベイティブな技術を発掘から社会実装まで支援する競争的資金制度。毎年度、交通運輸分野の政策課題解決に役立つ研究開発テーマについて研究課題の公募を行い、提案された研究課題の中から優れたものを研究開発業務として委託している。
令和7年度は、「波浪観測情報の取得手法の高度化・低コスト化」、「海洋・港湾・湖沼等における効率的な測深作業の実現」をテーマに、本年4月3日から5月16日まで公募を行い、外部有識者委員会における評価や行政ニーズを踏まえ、SBIR省庁連携型として、①MEMS差圧センサ素子を利用した波高センサの研究開発②短波海洋レーダシステムによる広域・高密度な波浪・海上風観測の事業化に関する研究③次世代AIモデルによる海底測量点群の自動ノイズ除去、の3課題を採択したもの。
研究課題に採択された研究課題の概要は次の通りである。カッコ内は研究実施者。
◎MEMS差圧センサ素子を利用した波高センサの研究開発(学校法人慶應義塾、MEMS―on Technologies、MizLinx):気象モニタリングや港湾・航路インフラの再整備に向けた港湾の微細な波高分布データの活用、インフラ工事や荷揚げ・積載スケジュールの最適化といった作業の自動化・効率化といったニーズ等に対応するため、より多くの地点で、より精度の良い波高のモニタリングが求められている。
同研究開発では、小型、低コスト、低消費電力、高分解能を特徴とするMEMS差圧センサ素子を用いた波高センサの開発を目的とし、開発したセンサを海上に浮かぶブイに取り付け、波高モニタリングのサービス展開を目指す。 同研究開発による波高モニタリングのサービスを活用することで、船舶運用の安全性向上や効率的な港湾管理につながり、事故や遅延の防止に貢献するとともに、港湾のスマート化や自動運航船への対応と整合し、公共交通インフラの高度化に寄与する。
◎短波海洋レーダシステムによる広域・高密度な波浪・海上風観測の事業化に関する研究(愛媛大学、海上・港湾・航空技術研究所港湾空港技術研究所、海洋研究開発機構、ORNIS):港湾の安全かつ効率的な運用や、気候変動に伴う高潮や津波等のリスク増大に対応するため、安定的かつ広域的な海象観測のニーズが高まっている。海上に設置する海象観測機器は、設置・維持管理にコストを要し、障害発生時に長期間の欠測が生じるといった課題が存在する。
同研究開発では、陸上設置型の短波海洋レーダシステム(HFRS)に深層学習技術を適用することで、低コストかつ高精度な波浪観測技術の開発を行い、同技術を用いた面的な流況・波浪・海上風を提供するクラウド型海象情報提供サービスを実用化する。
この技術で、海上設置型に比べて、設置・維持管理のコスト削減や継続的な波浪観測の実現が期待され、従来のHFRS処理アルゴリズムでは実現できなかった波浪スペクトルと海上風の同時観測が可能となる。また、同技術を用いた広域・高頻度・リアルタイムな波浪観測によって、港湾における荷役・航行・避難行動といった、業務に即応する精度の高い海象情報の提供を可能とする。
◎次世代AIモデルによる海底測量点群の自動ノイズ除去(海洋先端技術研究所):マルチビーム音響測深機(MBES)の普及により海底地形把握の解像度は飛躍的に高まったが、MBESデータに含まれるノイズ判別・処理の負荷も大幅に増大し、効率化の著しい妨げとなっている。同研究開発では、教師データを必要としないAIを用いて、急峻な地形をなす沖合中深海域でも十分なノイズ判別能力を発揮できるMBESデータAIノイズ判別モデルを開発する。
近年では、極浅海域において航空レーザー測深(ALB)も行われており、同研究成果をALBにも適用できるような開発を行う。また、ノイズ判別能力が実用レベルに到達していることを判断するための数値評価方法を確立する。 MBESデータを利用可能なデータにするまでに必要な作業を省力化・効率化することで、海上安全交通や災害時の迅速な復旧作業に貢献するとともに、ノイズ処理に時間と注意力を奪われることなく、本来の目的(測量、工事監理、調査研究)に専念可能な環境の構築が可能となる。
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※SBIR:Small Startup Business Innovation Researchの略。
※HFRS(High―Frequency Radar System):短波帯の電波を海面照射することで、広域・詳細に海象データ(流況・波浪・海上風・津波等)を計測する測器。
※MBES(Multi―Beam Echo Sounder):多数の音波ビームを扇状に発射して3次元に水深を測定する装置。
※教師データ:機械学習モデルの学習に使用する、入力データとそれに対応する正解ラベルがセットになったデータ。
※ALB(Airborne LiDAR Bathymetry):航空機に搭載したレーザー計測機により、陸域と極浅海域を同時に計測する技術。