
過去最高の総額3177億円を要求 海保8年度予算要求
海上保安庁の令和8年度予算概算要求では、総額3177億円、前年度比1・14倍の過去最高額を要求、うち物件費は1979億円、前年度比1・22倍となった。「海上保安体制に対する方針」に基づき、巡視船・航空機の大幅な増強整備などのハード面の取り組みに加え、新技術の活用や防衛省など関係機関等との連携・協力の強化、人材育成などのソフト面の取り組みも推進することによって、海上保安業務の遂行に必要な6つの海上保安能力を一層強化するとした。その中で、次世代衛星とAI等の新技術を活用した情報分析等による情報収集分析能力強化のほか、サイバーセキュリティ上の新たな脅威にも対応した情報通信システムの強靭化を図るとした。
概算要求の主な事項を見る。海上保安能力の強化に1701億2000万円を要求。6つの海上保安能力の一つである新たな脅威に備えた高次的な尖閣領海警備能力に376億1000万円を計上。中国海警船の大型化・武装化や増強への対応に加え、中国海警船や大型中国漁船の大量来航など、あらゆる事態への対処を念頭に、これらに対応するための巡視船等の整備を進める。新規に大型巡視船2隻(11年度就役)29億1000万円、継続のヘリコプター搭載型巡視船1隻(8年度就役)71億6000万円、大型巡視船7隻(8年度2隻、9年度4隻、10年度1隻就役)188億4000万円、巡視船搭載ヘリコプター2機(8年度就役)87億円。
二つ目の新技術等を活用した隙の無い広域海洋監視能力に173億1000万円を計上。無操縦者航空機(無人航空機:シーガーディアン)、飛行機・ヘリコプター等を効率的に活用した監視体制の構築や、次世代の衛星と人工知能(AI)等の新技術を活用した情報分析等による情報収集分析能力の強化を進める。新規に無操縦者航空機4機(10年度就役)、中型ジェット機(11年度就役)、継続の中型ジェット機2機(9年度就役)1億7000万円、中型ヘリコプター2機(8年度就役)30億円、無操縦者航空機の運用113億2000万円、監視拠点の整備3億3000万円、新技術活用のための調査研究2億3000万円、ドローン対策資器材の整備1億5000万円。
三つ目の大規模・重大事案同時発生に対応できる強靭な事案対処能力に53億4000万円を計上。原発等へのテロの脅威、多数の外国漁船による違法操業、住民避難を含む大規模災害等への対応等の重大事案への対応体制を強化するため、巡視船の整備等を進める。継続で多目的巡視船1隻(11年度就役)39億1000万円、大型巡視船1隻(9年度就役)14億円。
四つ目の戦略的な国内外の関係機関との連携・支援能力に73億5000万円を計上。防衛省・自衛隊等との情報共有・連携体制を一層強化するとともに、円滑な国民保護活動のための資器材の整備を進める。また、「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて、法とルールの支配に基づく海洋秩序維持の重要性を各国海上保安機関との間で共有するとともに、外国海上保安機関等との連携・協力や諸外国への海上保安能力向上支援を一層推進する。新規に国際業務対応・練習船を活用した連携・能力向上支援1億2000万円、継続の国際業務対応・練習船(6000トン級)1隻(8年度就役)63億円、国際機関と連携した能力向上支援4000万円、自衛隊との秘匿通信の強化4億1000万円、国民保護活動のための資器材整備1000万円。
五つ目の海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力に48億1000万円を計上。他国による海洋境界等の主張に対し、わが国の立場を適切な形で主張すべく、新型測量船を整備するとともに、測量機器等の高性能化を進め、海洋調査や調査データの解析等を進める。新規に海洋調査機器更新1億3000万円、継続の新型測量船(高性能代替)2隻(9年度1隻、10年度1隻就役)25億4000万円。
六つ目の強固な業務基盤能力には977億円を計上。海上保安能力を着実に強化していくため、人材確保・育成を含めた教育訓練施設の拡充等を進めるとともに、サイバーセキュリティ上の新たな脅威にも対応した情報通信システムの強靭化を進める。また、巡視船艇・航空機等の整備に伴って必要となる基地整備や、巡視船艇・航空機等の活動に必要な運航費の確保、老朽化した巡視艇・航空機等の計画的な代替整備を進めるとともに、巡視船の長寿命化を推進する。
新規にヘリコプター搭載型巡視船1隻(11年度就役)13億9000万円、大型巡視艇1隻(10年度就役)9000万円、小型巡視艇1隻(8年度就役)7億6000万円。継続のヘリコプター搭載型巡視船2隻(9年度就役)52億4000万円、小型巡視船2隻(8年度1隻、9年度1隻就役)15億5000万円、大型巡視艇1隻(8年度就役)17億6000万円、巡視船搭載ヘリコプター1機(8年度就役)46億1000万円、人的基盤の強化・業務効率化24億7000万円、情報通信システムの強靭化26億4000万円、基地整備55億4000万円、教育訓練施設の拡充1億9000万円、戦略的アセット管理による巡視船の長寿命化3億7000万円。
国民の安全・安心を守る業務基盤の充実に66億5000万円を要求。治安・防災業務の充実に12億4000万円を計上。密輸・密航等の海上犯罪取締や防災などの業務基盤の充実を図るとともに、海上保安官による安全かつ的確な海上保安業務の遂行のため、資器材等の充実・強化を図る。継続で警備資器材の整備に4億1000万円、防災資器材の整備に7000万円を充てる。
海上交通の安全確保に42億3000万円を計上。海上交通の安全確保のため、航路標識の適切な維持管理を実施する。防災・減災、国土強靭化の推進に11億9000万円を計上。「第1次国土強靭化実施中期計画」(令和7年6月6日閣議決定)に基づき、航路標識の耐災害性強化対策及び航路標識の老朽化等対策などを着実に推進する。
令和8年度機構要求では、情報通信・サイバー体制の強化で、総務部「サイバーセキュリティ戦略官」(仮称)の設置、激甚化・頻発化する災害対応体制の強化で、警備救難部環境防災課「防災対策室」(仮称)の設置、海上保安庁の業務改革の推進に係る体制強化で、総務部政務課「業務改革推進官」(仮称)の設置、また、サイバー空間を利用した国際犯罪への対応の強化に伴う増として、警備救難部国際刑事課「国際サイバー捜査企画調整官」(仮称)の設置を要求。
令和8年度定員要求では、海上保安能力に強化、国民の安全・安心を守る業務基盤の充実に対応するための要員として291人を要求。内訳は、海上保安能力の強化で、新たな脅威に備えた高次的な尖閣領海警備能力のための要員87人、新技術等を活用した隙の無い広域海洋監視能力のための要員5人、戦略的な国内外の関係機関との連携・支援能力のための要員64人、海洋権益確保に資する優位性を持った海洋調査能力のための要員15人、強固な業務基盤能力のための要員43人、及び国民の安全・安心を守る業務基盤の充実で、治安・安全対策等の強化のための要員77人。