一般会計1・19倍の7兆821億円要求 国交省

 国土交通省は、令和8年度予算概算要求として、一般会計で前年度比1・19倍の7兆812億円、東日本大震災復興特別会計で同0・60倍の367億円、財政投融資同1・23倍の1兆6413億円を財務大臣に提出した。中野洋昌国土交通大臣=写真=は、8月26日の閣議後の記者会見で、令和8年度国土交通省の概算要求で所見を述べ、「概算要求では、物価動向等をしっかりと反映し、一般会計で前年度比1・19倍の7兆812億円を要求することにしたが、要求の柱は『国民の安全・安心の確保』、『持続可能な経済成長の実現』、『個性をいかした地域づくりと持続可能で活力ある国づくり』の三つ。これら3本柱の実現に向けて、公共事業予算をはじめ、必要な予算がしっかりと確保されるように、全力で取り組んでいく」とし、概算要求への意気込みと決意を語った。
 今回の要求の柱の一つ『国民の安全・安心の確保』では、本年1月に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故等を踏まえたインフラ老朽化対策」、海上保安能力の強化等について要求。二つ目の『持続的な経済成長の実現』では、戦略的かつ計画的な社会資本整備や持続可能な社会資本整備や持続可能な観光の推進などについて要求。三つ目の『個性をいかした地域づくりと持続可能で活力ある国づくり』では、地域資源を活用した、まちづくりや地域交通のリ・デザインの全面展開などの要求を行うこととしている。事項要求として「第1次国土強靭化実施中期計画に基づく取組の推進」、また「労務費や資材価格の高等対策」、「北陸新幹線の新規着工」等に要する経費について事項要求を行い、予算編成過程で検討することとしている。
     ◇
 国土交通省の令和8年度予算概算要求を重点項目別に見ると、『国民の安全・安心の確保』では、東日本大震災や令和6年能登半島地震をはじめとする大規模自然災害からの復旧・復興について、東日本大震災からの復興・再生に367億円を計上。「第3期復興・創生期間」における東日本大震災の住まいの再建や復興まちづくりを着実に推進するとともに、インフラの整備や被災者の暮らしを支える被災地の地域公共交通、福島県の震災復興に資する観光関連事業等に対する支援を引き続き実施する。
 災害に屈しない強靭な国土づくりのための防災・減災、国土強靭化の強力な推進について、気候変動による水害や土砂災害の激甚化に対抗する「流域治水」の加速化・深化に7636億円を計上。気候変動による水災害リスクの増大に備えるために、流域治水関連法も踏まえた「流域治水」の考え方に基づき、堤防整備、ダム建設・再生などの対策をより一層加速するとともに、自助・共助・公助の観点に立って、国・都道府県・市町村、企業・住民など流域のあらゆる関係者で水災害対策を強力に推進する。
 南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震対策等の推進に2479億円を計上。切迫する大規模地震に備え、想定される被害特性に合わせた実効性ある対策を総合的に推進する。被害の防止・軽減のための施設の耐震化等では、河川・海岸堤防等の嵩上げ・耐震対策、水門等の自動化・遠隔操作化など被害防止・軽減のための施設の耐震化、及びTEC-FORCEの強化等の災害対応能力の向上など、応急対応のための救助・救急ルートの確保を図る。
 災害対応能力の強化に向けた線状降水帯、火山噴火等に関する防災情報等の高度化の推進に243億円を計上。線状降水帯、台風、地震、火山噴火等に関する防災気象情報を高度化するとともに、非接触・リモート型の新技術の活用や共有体制の構築により、災害発生状況などの防災情報の的確な把握・提供を図り、行政や住民の災害対応能力を強化する。大気の3次元観測機能など最新の観測技術を導入した次期静止気象衛星等の整備、無人航空機(UAV)等を活用した土砂災害対策の省人化・迅速化等を図る。
 TEC-FORCE等の国の災害支援体制・機能の拡充・強化に480億円を計上。南海トラフ巨大地震、首都直下地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震等の大規模広域災害時にも自治体等を迅速・的確に応援できるよう、TEC-FORCEの増強と行政機関・民間企業・学識者などの専門性を持った多様な主体とのさらなる連携強化による新たな応援体制の構築を進めるとともに、TEC-FORCE等が使用する資機材の充実等により、災害支援体制・機能を拡充・強化する。
 埼玉県八潮市の道路陥没事故等を踏まえたインフラ老朽化対策等による予防保全型のインフラメンテナンスの実現に1兆783億円を計上。埼玉県八潮市の道路陥没事故等を踏まえた上下水道の老朽化対策をはじめ、インフラが持つ機能を将来にわたって適切に発揮できるよう、国土交通省インフラ長寿命化計画(行動計画)に基づく取り組みや、広域的・戦略的なインフラマネジメントの取り組みなど、インフラ老朽化対策等による予防保全型のインフラメンテナンスの実現に向けた取り組みを推進する。
 『持続的な経済成長の実現』では、ストック効果を重視した社会資本整備の戦略的かつ計画的な推進として、効率的な物流ネットワークの早期整備・活用に4182億円を計上。大都市圏環状道路等の整備やピンポイント渋滞対策等を併せて推進し、交通渋滞の緩和等による迅速・円滑で競争力の高い物流ネットワークを実現するほか、ダブル連結トラックによる省人化の推進や、自動運転トラックを活用した幹線輸送サービスの自動化の推進等を図る。
 地方都市のイノベーション力・大都市の国際競争力の強化に150億円を計上。イノベーション拠点の形成やデジタル技術等を通じた地方都市と大都市との交流・連携を推進するとともに、国際ビジネス拠点を支える都市基盤の整備や優良な民間都市開発事業を推進する。航空ネットワークの充実に149億円を計上。航空ネットワークの維持・活性化を推進するとともに、国際競争力の強化や訪日外国人旅行者の受け入れ対応等に資する空港の機能強化等を計画的に推進する。
 国土交通分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)や技術開発等の推進として、i-Construction2・0、建築・都市のDX等の「インフラ分野のDXアクションプラン」の推進に129億円を計上。2040年までに少なくとも建設現場の省人化3割・生産性向上1・5倍を達成するため、自動化・省人化を図るi―Construction2・0を推進する。また、まちづくりの高度化や官民データ連携による新サービスの創出を促進するため、建築BIMやPLATEAUなどの3Dモデルや国土数値情報等を整備・活用し、これらの地理空間情報を不動産IDによって相互に連携させる「建築・都市のDX」を一体的に推進。これらも含め、「インフラ分野のDXアクションプラン(第2版)」に基づき、インフラDXの推進に向けて取り組む。
 わが国の経済安全保障を支える造船・海運の国際競争力強化、自動運航船の実現や海洋開発等の推進に29億円を計上。日本の経済安全保障を支える造船・海運の国際競争力強化や生産性向上に向けた取り組みを推進するとともに、海洋資源・エネルギー等の開発・利用、海洋権益の保全・確保に関する取り組みを推進する。海事クラスターの競争力強化・生産性向上では自動運航船の普及に向けた環境整備等、海洋資源・エネルギー等の開発・利用促進では海のドローン等の社会実装の推進等を図る。
 『個性をいかした地域づくりと持続可能で活力ある国づくり』では、共生社会実現に向けたバリアフリー社会の形成と活力ある国づくりとして、地域公共交通や観光地・宿泊施設等のバリアフリー化の推進とユニバーサルデザインのまちづくりの実現に317億円の内数を計上。誰もが安心して暮らし、快適に移動できる環境を整備するため、鉄道駅や地域公共交通、観光地・宿泊施設等のバリアフリー化を推進する。また、全ての人に優しいユニバーサルデザインのまちづくりを実現するため、幅広い世代が利用する駅前広場や公園施設等のバリアフリー化を推進する。
 ゆとりとにぎわいのあるコンパクト・プラス・ネットワークと地域資源を活用したまちづくりの推進に926億円を計上。地域の生活機能の誘導・集約、防災・減災やゆとりとにぎわいのあるまちずくりの推進に加え、まちなかにおける業務施設等の立地を促進することにより、コンパクト・プラス・ネットワークの強化を図る。あわせて、歴史まちずくり計画に位置付けられた取り組みへの支援や地域資源の活用への支援等を推進する。
 スマートシティの社会実装の加速に11億円を計上。新技術や官民データを活用して地域の課題解決、新たな価値の創出を図るスマートシティの実装の加速化を図るとともに、その基盤となる3D都市モデルの整備等を推進する。また、次世代モビリティの普及促進に269億円の内数を計上。ポストコロナにおけるヒト・モノの移動ニーズの変化に対応するため、AI・IoT等の新技術を活用した次世代モビリティの普及等を促進する。
 地域・拠点の連携を促す道路ネットワークの整備に4472億円を計上。分散型国づくりへの転換を図るとともに、デジタル実装した社会を支え、人流・物流の円滑化を図るため、地域・拠点をつなぐ道路ネットワークを整備する。地域・拠点をつなぐ高速道路ネットワークの構築、ICや空港・港湾へのアクセス道路の整備に対する安定的な支援、「道の駅」第3ステージ応援パッケージの取り組みや防災拠点化等の施策の推進、及びバスタプロジェクト(集約型公共交通ターミナル)を推進する。
     ◇
 令和8年度国土交通省組織要求では、一つに国民の安全・安心の確保として、防災・減災、国土強靭化の推進、海上保安能力に資する体制を強化。埼玉県八潮市の道路陥没事故等を踏まえたインフラ老朽化対策の推進に向けた体制の強化、及び海上保安庁におけるサイバーセキュリティ対策強化に向けた体制の強化を図る。二つに持続的な経済成長の実現として、国土交通分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)や経済安全保障の推進に向けた体制を強化。インフラの整備・老朽化対策の技術の革新に向けた体制の強化、不動産業におけるDX推進に向けた体制強化、及び経済安全保障政策の推進に向けた体制の強化を図る。また、個性を活かした地域づくりと持続可能で活力ある国づくりとして、「交通空白」解消に向けた体制を強化。「交通空白」の解消に係る取り組みの拡大に向けた体制を強化する。
 令和8年度国土交通省定員要求では、新規に1478人を要求。防災・減災、国土強靭化、インフラ老朽化対策の取り組み等の体制強化、「交通空白」の解消及び公共交通の安全確保等の体制強化、新保安戦略を踏まえた海上保安能力の強化、持続的な地域社会の形成及び経済成長を支える基盤強化、等を図る。このほか、定年引き上げに伴う新規採用への影響を緩和するための特例的な定員(133人)がある。定員合理化等:649人減。