ヒューマノイドロボがスケボーで「技」 ART・京大等、サイボーグAIの人並み運動性能達成

 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO、神奈川県川崎市、斎藤保理事長)によると、NEDOの委託事業「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」において、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と国立大学法人京都大学(京大)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)は、人と共に学びながら協働作業ができる人工知能(AI)搭載ヒューマノイドロボットの実現に取組み、今般、ATRが開発中の「サイボーグAI」を搭載したヒューマノイドロボットが「人の運動のみまね学習」をすることで、人並みの実時間運動性能を達成した。今後は、この成果をベースに、人と共存する多様な環境でのロボットによる安心・安全な運動を通じて、人に寄り添うような支援が可能となるヒューマノイドロボット、及びそれを駆動するAI技術の研究を実施する考えである。


 高齢化が進み労働人口減少の中、人と同程度の自由度を持つヒューマノイドロボットの安全・安心な利用拡大は喫緊の課題。AIによってロボットの物体認識・把持の成功率が向上し、高い運動能力のロボット制御に特化した仕組みも開発され、ロボットの利用場面拡大に大きく貢献しているが、特殊なアクチュエータに頼ることなく民生用の安価なモーターを用い、自由度の高いロボットに人の運動を「みまね」させ、実時間にて俊敏な運動を実現できるロボット搭載用AIは実現されていない。
 このため、NEDOは2020年度から「人と共に進化する次世代人工知能に関する技術開発事業」をATRに委託し、京大、産総研との共同により、人と同程度の俊敏な身体性で、人と協働作業が可能なヒューマノイドロボット搭載用AI「サイボーグAI」の基本技術の開発に取り組み、その一環として、人と同程度の身体性と実時間での意思決定能力(実時間運動性能)を定量的に評価するための実験環境「ロボットスケートパーク」の整備を進めてきた。
 今回の成果を見る。一つに、人の運動の転移(みまね)学習により、人並みの実時間運動性能の達成。「サイボーグAI」を搭載したヒューマノイドロボットが、みまね学習により曲率に変化があるような複雑な環境にて、人並みの実時間運動性能を達成。人がスケートボード運動を行っている際の脳波・身体座標などの生体信号を計測し、並行して計算機上のサイバー空間において再現した後に、ヒューマノドロボットに実装。
 また、その過程において、これらの運動と脳活動の関連を評価。過去の世界初の人・AI共進化実験環境「ロボットスケートパーク」整備の発表では、身体の重心(腰の位置)の上下動の「みまね」に限られていたが、今回、上下方向だけでなく前後・左右方向(進行方向及び進行方向と平面上で直交する方向)も含めた制御と、体軸が傾いた状態からの回復など、全身の身体制御の「みまね」ができるようになったことで、各種スケートボードトリックを実現した。
 二つに、スラローム運動。人(スケートボーダー)は、身体を前後(進行方向と直交する方向)に傾けることで、受動車輪を制御し、スケートボードの方向転換をする。特にスピードが出ていない状況で大きく傾けると転倒してしまう。こうした身体の絶妙な3次元での全身の制御を、ヒューマノイドロボットは「みまね」することで人と同じように転倒せずに障害物を避けながら滑走できる。
 人とロボットは身長や重さが異なるため、身体を傾けたときのスケートボードの動きも異なる。そこでロボットはサイバー空間で人の運動の真似方を学習する際、単純にコピーするのではなく、身長や重さの違いを考慮してロボット自身にとって適切な動きに修正しながら真似をする。これにより、難易度の高い運動をまねることができるようになった。また、サイバー空間でのヒューマノイドロボットの動きは、現実と同等になるように調整しており、素早い動作につなげることもできるようになった。
 NEDOとATRは、同事業で開発した基盤技術をベースに、介護・介助・リハビリや個別輸送・運搬など、労働集約性が高い場面において、人と同程度の重度を有するロボットが人を代替したり、人との協働を可能にしたりする応用技術に展開することで、ロボットの利活用拡大に向けた取組みを開始した。これを通じて、人並みの運動性・潜在状態(心的状況など)を有することで、人に寄り添いつつ自律・協働を可能とするロボット用AI技術の実現により、人とロボットが共生できる社会を目指すとした。
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 ※ロボットスケートパーク:スケートボード実施時の人の脳波・筋電・モーションキャプチャといったデータの同時計測と、ヒューマノイドロボットによる学習実験を並行・連携して実施できる実験環境「ロボットスケートパーク」をATR敷地内(京都府精華町)のロボット実験棟(床面積486・92平方メートル、高さ7メートル)内部に構築。ここには、人やロボットのためのスケートボードランプ、人やロボットがスポーツをする際の安全設備、人やロボットの動きを計測するシステム、人の筋肉や脳の機能を同時計測可能とするワイヤレス計測システム、などが設置された人とロボット(ロボット搭載用AIを含む)のデータ収集、学習を同時に行える実験環境。