糸魚川ー静岡構造線深部に地下生命圏
国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC、神奈川県横須賀市、大和裕幸理事長)によると、JAMSTECの高野淑識海洋機能利用部門生物地球化学センター長と東京大学大学院の西村大樹理学系研究科地球惑星科学専攻研究生(当時:現理化学研究所)及び同専攻の高橋嘉乎夫教授、信州大学の浦井暖史理学部助教は、東京大学大気海洋研究所の横山祐典教授らと共同で、長野県諏訪盆地から地下水試料を取得し、地球化学並びに微生物学的な分析から、地下微生物生態系の組成と分布、地下10ー1000mまでに拡がる地下深部の物質循環を明らかにした。
諏訪盆地は北米プレートとユーラシアプレートの境として知られる糸魚川ー静岡構造線上に位置し、多数の温泉が分布している。研究チームは、諏訪湖を対象とした研究を展開し、湖底から湧出するメタンが深部の微生物起源であること、そのメタンが諏訪湖内の生態系にとって重要な炭素源であること等を示し、諏訪盆地の地下深部にメタン生成や、メタン酸化で支えられた微生物生態系の存在を強く示唆。しかし、地下に分布する微生物の群衆組成の多様性、それらを制約する物質循環のメカニズムについては未解明だった。
そこで研究チームは、諏訪盆地の地下水・温泉水を対象に微生物相の網羅的な解析を行い、有機物に富んだ堆積層にはメタンを酸化するバクテリア、熱源を伴う深部の基盤岩層(最大深度~1000m)の温泉水には、水素を酸化してエネルギー獲得を行う水素資化性のバクテリア・アーキアが優占することを解明した。
また、水循環を規格化する化学トレーサーとして、放射性炭素同位体分析を含む溶存成分の精密な化学分析を行い、諏訪盆地における天水(てんすい)と地下水の時空的な流動プロセスを明らかにした。この成果は、プレート境界での伝送活動に伴う地下環境の水素給源と微生物生態との相互作用の理解に大きく貢献するものと期待される。
今回の研究では、諏訪盆地の深層の地下環境にどのような微生物がいるのか、その多様性と分布を初めて解明し、水素に依存する生態系の存在を明らかにした。今後は、その地下微生物が環境中で行う代謝活動に焦点を当てて研究を進める予定である。
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※糸魚川―静岡構造線:日本を代表する大断層帯。日本海側は新潟県糸魚川市から、太平洋側は静岡県静岡市までを結び、諏訪盆地はその中点付近に位置する。フォッサマグナ(大地溝帯)の西端としても知られる。
※水素資化性アーキア:水素資化性バクテリアと同様に、水素の酸化反応によりエネルギーを獲得して生育するアーキア。
※天水:雨水や雪、雹など大気から地表に降る水の総称で、meteoric waterのことを指す。降水が地表に達し、流出して河川や湖沼などに貯留、浸透して土壌水や地下水になる場合もある。諏訪盆地の地質学的なセッティングの場合、雪渓や雪解け水を含む。
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※図の説明:研究で推定された諏訪盆地の地下水流動プロセス。放射性炭素分析により山間部から堆積層へ若い地下水が流入(→①)、堆積層に至った地下水の一部は深部に浸透して熱源と反応(→②)、地下水とは地球化学的性質の異なる熱水となった後に堆積層に再流入(→③)。基盤岩を発生源とする水素を含んだ熱水の堆積層への流入は、堆積層中の微生物生態や代謝活動に影響を及ぼす。
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