光ファイバーで地盤モニタリング手法実証、NTTと産総研

 NTT(東京都千代田区、島田明社長)と国立研究開発法人産業技術総合研究所(東京都千代田区、石村和彦理事長、産総研)は、既存の通信光ファイバーを活用し、広範囲の地盤特性を常時モニタリングする手法を実証し、空洞をモデル化したシミュレーションによって地中空洞の形成を推定できる可能性を確認したと明らかにした。既存の地下管路(約62万km)に敷設済みの通信光ファイバーを活用できるため、さまざまな場所を効率的に検査できるといい、既存インフラを活用した広域・低コストな監視を実現し、都市防災・減災やインフラ維持管理の高度化への貢献が期待されるとしている。
近年、都市部では老朽化した上下水道などのインフラへの土砂の流入による地中空洞の発生が社会問題となっている。道路陥没事故はこの地中空洞によって発生し、交通障がいやライフラインの寸断を引き起こすだけでなく、人命にかかわる重大事故となる可能性があり地域社会に大きな影響を与える。
 従来の空洞調査は、地中レーダーや超音波などを用いた現地調査による手法が主流だったが、これらの手法での調査深度は地表から約2mと限定的で、また専用の機器を使うため時間や手間もかかり、高頻度の点検・監視は困難だった。このため、より深い範囲を効率的かつ低コストで常時監視できる新たな手法が求められていた。
 一方、物理探査分野では、人工的な震源を用いず、交通や自然現象など地表面に存在する人がほとんど感じないレベルの常時微動を複数の高感度地震計(微動計)で同時に記録・解析することで、より簡易に地下約数十mの地下構造を推定する微動アレイ探査の研究・活用が盛んに行われている。近年では、さまざまな研究機関において、微動計の代わりに光ファイバーセンサを活用した地盤特性観測手法が研究されており、高精度な光ファイバー振動センシング技術を有するNTTと、微動アレイ探査技術および地盤解析の知見をもつ産総研とで、道路陥没リスクの早期発見に向けたモニタリングシステムの実現に向けて、実証実験を実施することとなった。
 本手法の有効性を確認するため、茨城県つくば市内と埼玉県草加市内で、実際の地下管路に敷設された通信光ファイバーケーブルのルート上の複数地点において、光ファイバーを用いたDASと微動アレイ探査を用いて常時微動に含まれる振動を評価・比較する実証実験を実施した。周波数とその振動に影響を与える地盤の深さは相関があり、たとえば低い周波数ほどより深い地盤の情報を持っていることが知られている。今回、整合的な結果が得られた範囲の位相速度の大きさから深さに換算すると、おおむね約3m~30mの深さの地盤特性が得られていることになった。これは、既に設置されている通信光ファイバーを用いることで、現地で作業が必要な微動アレイ探査とほぼ同等の精度で、広範囲かつ高頻度にDASによる地盤モニタリングが可能であることを示している。
 また空洞の情報として、地盤の一定体積に占める空洞の割合を用いてシミュレーションを実施。本手法による高頻度のモニタリングにより、地盤特性の変化を経時的に観測して検知することで、空洞化の予兆の推定ができることが期待できるとした。
 技術の主なポイントは次の通り。
 ①常時微動を利用した広範囲かつ高頻度な地盤モニタリング
 街の地表には、交通や自然現象などによる常時微動が存在し、これを解析することで地盤特性を推定することができる。実証では、実際の市街地の地下管路に敷設された光ファイバーをセンサとして活用し、常時微動の測定と特性の解析を行った。NTTが開発した高精度分布音響センシング(DAS)技術と、産総研の微動アレイ探査技術を用いて、実際の市街地における実証実験を通じて、両者がおおむね一致することを確認。光ファイバーセンシング(DAS)を用いた手法で、従来技術では数年に1回程度しか実施できなかった地中空洞の点検に対して、地中深さ約3~30mの広範囲を、おおむね1日に1回程度の高頻度で遠隔モニタリングが可能になる。
 ②空洞形成時の地盤特性の変化をシミュレーション
 常時微動の測定から得られた地盤特性の経時変化の特徴から空洞をモデル化したシミュレーションにより空洞形成の予兆を推定できる可能性を確認した。
 実証では、NTTは光ファイバーを用いた高精度DASの開発および測定・解析を、産総研は微動アレイ探査による測定・解析、地盤特性のシミュレーションを担当した。
 NTTでは2026年度中にグループ会社を通じて、自治体や上下水道事業者と連携し、実際の都市環境での実証実験を推進。また、解析アルゴリズムの高度化や検知システムの開発を進め、全国のインフラ監視や防災システムへの適用をめざす。本手法は約3m~30mの比較的深い地盤のモニタリングを対象としているが、NTTではより広い範囲を一度にセンシングできる衛星を用いた地盤表層付近の空洞検知手法の研究開発も進めている。これら技術の活用により、陥没事故の予防や維持管理コストの削減に加え、都市の安全性向上と持続可能な社会インフラの実現に貢献していくという。
 ※高精度DAS(Distributed Acoustic Sensing)=DASは、光ファイバーに入射した光の後方散乱光(レイリー散乱)を観測し、その位相やスペクトルの変化から光ファイバーに沿った振動(音響)の分布を高密度に計測する技術。NTTでは、独自技術による干渉雑音を抑制した高精度DASを開発しており、今回の実証実験に使用。
 ※微動アレイ探査技術:地表面にアレイ配置した複数の微動計で常時微動の上下動成分を同時に記録・解析することで、簡易に地下深部まで物性値の構造を推定する探査技術。今回の実証実験では、広帯域な位相速度を比較するため、複数のアレイ形状を組み合わせた結果を使用。

この記事を書いた記者

アバター
kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。