大規模火山噴火と夜光雲の関係観測、極地研

 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(極地研、東京都立川市)によると、電気通信大学大学院情報理工学研究科情報・ネットワーク工学専攻博士前期課程2年の森山陽介氏、同専攻/宇宙・電磁環境研究センターの津田卓雄准教授と安藤芳晃准教授を中心とする、明治大学、極地研、東北大学、信州大学、総合地球環境学研究所らの共同研究グループは、トンガ沖海底火山噴火の影響で夜光雲(中間圏の高度80―85㎞付近に発生する天然の雲)の活動が活発化したことを、日本の静止気象衛星「ひまわり」の観測を中心とした総合解析によって発見した。
 今回の成果は、1880年代から議論されてきた長年の謎であった『火山噴火と夜光雲の関係』について、世界初の観測情報を提供するものとして注目される。
 夜光雲は、地球大気の地球大気の中間圏の高度80―85㎞付近に発生する天然の雲で、薄明時に青白く輝いて見える珍しい雲として知られている。夜光雲の最初の発見は1885年と言われている。同時期の1883年にインドネシアのクラカタウで大規模な火山噴火が発生していたことから、火山噴火の影響で夜光雲の活動が活発化し、その発見に繫がった可能性が議論された。しかし、当時は人工衛星観測などの有効な観測手段がなく、可能性を議論するのみだった。それ以降も大規模な火山噴火が稀な現象であることから現在(2020年代)に至るまでの約140年間、『火山噴火と夜光雲の関係』は謎に包まれていた。
 2022年に発生したトンガ沖海底火山噴火は非常に大規模な火山噴火で、1883年のクラカタウ火山噴火に匹敵する規模の火山噴火だった。共同研究グループは、『火山噴火と夜光雲の関係』に着目して、最新の人工衛星による観測データの総合解析を実施。特に、日本の静止軌道衛星「ひまわり」による夜光雲の高感度観測=図・参照=を有効活用することで、夜光雲の活動についての詳細な調査を実施した。
 成果を見る。2022年のトンガ沖海底火山噴火の噴煙に含まれる水蒸気の挙動を把握するために、米国NASAの人工衛星「Aura」による水蒸気の観測データを解析した。その結果、2022年の噴火時に成層圏に注入された噴煙起源の水蒸気は、その後、地球大気中に広がっていき、約2年後の2024年には夜光雲の発生領域である中間圏へと達していた。
 日本の静止軌道衛星「ひまわり」による夜光雲の観測データを詳細に解析したところ、噴煙起源の水蒸気が中間圏に到達した2024年の夜光雲の活動が活発化(夜光雲の発生頻度が約15%上昇)していたことを発見した。共同研究の詳細なデータ解析において、夜光雲に対する大気温度の影響と水蒸気の影響を分離する独自解析に成功したことが、今回の発見に繋がった。
 今回の共同研究では、1880年代から現在の2020年代まで、約140年間にわたって謎に包まれていた『火山噴火と夜光雲の関係』について、世界で初めての観測結果を得ることに成功。この研究成果は、過去の大規模な火山噴火が起こしたと思われる地球大気の上下結合の解明にも繫がることが期待できるという。
 同研究グループは、今後も静止軌道衛星「ひまわり」による夜光雲の連続観測を継続していく考え。夜光雲の観測を継続することで、将来の火山噴火や地球気候変動などの様々な要因で変動する夜光雲の動態解明にも寄与していくとした。