南極唯一の大型大気レーダーの活躍

 国立極地研究所(極地研)によると、南極・昭和基地JARE66谷川忠顕氏の報告では、昭和基地主要部から500m程離れた広大なS基地には、PANSYレーダー(Program of the Antarctic Syowa MST/IS Radar)と呼ばれる約3メートルの大型大気レーダーのアンテナ1045本が直径300mにわたるエリアに等間隔に林立。PANSYエリアには、3mを超える雪が積る。次のブリザードでどの辺が雪に埋もれるか考えながら除雪し、風の通り道を作りながらアンテナ群の保守と観測運用をしている。
 南極の大気は、人間活動から隔絶されているため人工ノイズが小さく、地球気候のモニタリングに適し、また、カタバ風やオゾンホール、夜行雲、オーロラをはじめ顕著で特異な大気ッ現象が多く見られる領域でもある。PANSYシステムの特徴は、アクティブフェイズドアレイという空中線方式を採用している点で、多数の素子アンテナのそれぞれに小型のレーダーとも言える送受信モジュールが取り付けられ、電波を送受信する。
 レーダーは24時間365日稼働し、レーダーから発射される電波は大気mの温度や電子密度の揺らぎにより拡散されて戻ってくるため、上層大気の散乱信号から大気の運動(風)などの物理量を計測できる。この散乱エコーは大変弱いので、各アンテナを一体的に運用することで大出力の送信機能と微弱な電波の受信機能を併せ持つ大型大気レーダーとしての機能を果たす。
 対流圏から電離圏までの広い高度領域の3次元風速やプラズマパラメータを高分解能、高精度で観測できる南極唯一の大型大気レーダーとして、2021年から南極大気の連続観測をもとに、大気波動(重力波・潮汐波・ロスビー波)や乱気流構造の解明、オゾンなど大気微量成分の輸送過程、雲の生成・消滅過程、大気中のエネルギーバランスなど、様々な研究に寄与すると期待されている。