「大胆な『危機管理投資』による力強い経済成長の実現に貢献」 林芳正総務大臣インタビュー

 高市早苗新内閣が2025年10月に発足した。「日本列島を強く、豊かに。」のスローガンの下、物価高対策や経済成長に向けた各施策が進められている。国内の情報通信や放送分野を巡っては、Beyond5G/6Gの推進や生成AIをはじめとした最新技術の活用などにも期待が寄せられている。総務大臣として就任した林芳正氏に取り組みへの思いを聞いた。
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 ―――総務省では「インターネット上の偽・誤情報等への総合的な対策推進」を重点施策として取り組まれていますが、深刻化するこの問題への今後の対応について、法律・制度整備の検討も含めて大臣のお考えをお聞かせください
 SNS等のインターネット上の偽・誤情報や誹謗中傷といった違法・有害情報は、短時間で広範に流通・拡散し、国民生活や社会経済活動に重大な影響を及ぼし得る深刻な課題であると認識しています。
 このため、総務省では、SNSを健全に利用できる環境の確保に向けて 制度的な対応、幅広い世代のリテラシー向上、対策技術の研究開発等の総合的な対策を進めております。
 制度的な対応については、本年4月1日に施行された「情報流通プラットフォーム対処法」の着実な運用を通じて、誹謗中傷等の権利侵害情報の削除対応の迅速化や、運用状況の透明化を図ってまいります。
 その上で、更なる制度整備については、同法の効果を確認しつつ、国際的な動向や表現の自由との関係等に配慮しながら、必要な検討を進めてまいります。
 リテラシー向上については、意識啓発プロジェクトである「DIGITAL POSITIVE ACTION」を通じて、官民の取組などを集約したウェブサイトの充実、多様な関係者によるセミナー等の開催、普及啓発のための教材の作成・活用などに官民連携して取り組んでまいります。
 技術的対応については、インターネット上の画像等を対象としたコンテンツの真偽判別を支援する技術や、発信者の真正性を確保する技術等の開発・実証を行っており、社会実装や国際標準化を進めていく予定です。
 総務省におきましては、インターネット上の偽・誤情報等のデジタル空間の情報流通を巡る諸問題について、総合的な対策を積極的に進めてまいります。
 ―――国際社会では国家間や民間企業へのサイバー攻撃、情報インフラへの脅威が増しており、我が国でも通信・IT基盤を狙った攻撃が懸念されています。アサヒビールやアスクルといった企業を対象としたランサムウェアによるサイバー攻撃も増加傾向にある中、総務省として進めるべきセキュリティ強化について、どのような範囲でどういった戦略をとるべきか、考えをお聞かせください
 サイバー攻撃は、重要なシステムの停止、機微な情報の流出などを引き起こし、私たちの暮らしや経済・社会、そして国家の安全保障に、大きな影響を与える深刻な問題であり、サイバーセキュリティ対策の強化は喫緊の重要な課題と認識しています。
 政府では、本年7月にサイバーセキュリティ戦略本部の本部長を官房長官から内閣総理大臣に変更するなど体制を強化しており、本年5月に成立したサイバー対処能力強化法を踏まえ、サイバー空間の状況把握や脅威動向に応じた対策に関する注意喚起など、取組を強化していくこととしています。
 総務省においても、政府の各機関や、所管する国立研究開発法人の情報通信研究機構(NICT)、電気通信事業者などと連携し、サイバーセキュリティ対策に取り組んでいます。
 例えば、NICTや電気通信事業者とともに、インターネットを観測・調査して悪意あるプログラムに感染している機器や、IDやパスワードの設定に不備がある機器を特定し、管理者に注意喚起を行うことで、サイバー攻撃による被害を未然に防ぐ取組を進めています。
 サイバーセキュリティ人材の育成についても力を入れています。年間全国100か所程度でサイバー攻撃に対する実践的な防御演習を実施しており、昨年度は、合計4000名程度の方々に御参加いただきました。
 また、NICTとともに、サイバー攻撃の我が国独自の情報分析や、産学官連携によるサイバーセキュリティ対策の強化にも取り組んでいるところです。
 さらに、サイバー攻撃による被害を防ぐためには、利用者自らが適切な対策を講じることも必要です。総務省では、こうした情報を整理してインターネットで公開するとともに、具体的な対策例を示したガイドラインも策定・公表しています。
 総務省は、国民の皆さまが安心してインターネットを利用し、デジタル社会の恩恵を享受できるよう、今後も関係機関と緊密に連携し、研究開発や人材育成、情報分析を強化することでサイバーセキュリティの確保に取り組んでまいります。
 ―――電気通信事業部会市場検証委員会における検討事項『NTTデータグループの完全子会社化』および『NTT法改正に伴う省令事項』に係る検証の進捗と今後の検討の方向性について、大臣のお考えをお聞かせください
 NTTデータグループの完全子会社化は、競争事業者から、国内の電気通信市場における公正な競争環境に影響が出るとの指摘があるものと承知しております。
 このため、総務省では、本年7月から、情報通信行政・郵政行政審議会において、有識者、関係事業者の御意見を伺いながら、NTTデータグループの完全子会社化が市場に与える影響等について検証を行っているところです。
 また、本年5月に成立した電気通信事業法及びNTT法の一部改正法においてNTT東日本・西日本の業務範囲に関する規律の見直し等がされたところ、省令の整備に向けて、公正競争の確保等の観点から検討が必要な事項について、審議会においてご議論いただいているところです。
 総務省としては、審議会における検証の結果等を踏まえ、必要な対応を行ってまいります。
 ―――高市内閣では「強い経済の実現」を基本方針に掲げられています。総務省では、国内のデジタルインフラの整備と合わせ、国際競争力強化ということで、そのデジタルインフラの海外展開支援などを重点施策として取り組まれています。「強い経済の実現」のためには、光ファイバ網、5Gなどの高速無線網、データセンターなどの国内デジタルインフラ整備を進めるとともに、光技術やBeyond5Gなどインフラの海外展開支援も強力に進める必要があると思いますが、今後の方策についてお考えをお聞かせください
 デジタルインフラは、社会経済活動を支える重要な基盤であり、日本成長戦略本部においても、「情報通信」は戦略分野の1つに位置づけられ、総務大臣を担当大臣として強力に取組を進めることとしています。
 総務省としては、本年5月に策定した「DX・イノベーション加速化プラン」の下、通信インフラと電力インフラが高度に連携する、いわゆるワット・ビット連携によるデータセンター等の地方分散を進めるとともに、進展するAI社会を支える鍵となる「オール光ネットワーク」や「海底ケーブル」、「5G」、「光ファイバ」などのデジタルインフラについて、国内の整備を加速させてまいります。
 また、官民連携の下、先手を打って戦略的な投資を行い、研究開発から国際標準化、社会実装、グローバル市場の獲得まで、反転攻勢をかけるための一気通貫した取組を推進してまいります。
 このような取組を通じて、デジタルインフラ分野における国際競争力の強化を図り、高市内閣が掲げる、大胆な「危機管理投資」による力強い経済成長の実現に貢献してまいります。
 ―――少子高齢化で地方は過疎化が進んでおり、金融機関や自治体支所が撤退し、郵便局は最後の砦となっている地域も多数あります。郵便局は地域のニーズに応え、自治体事務業務の受託や買物支援、支援員の受託、一部の地域ではオンライン診療の本サービスも始まっています。総務省では郵便局を「コミュニティ・ハブ」として活用する実証事業を行っていますが、この事業展開の先にある郵便局の将来像について、お考えをお聞かせください
 郵便局は、全国津々浦々に設置され、地域の重要な生活インフラとして、郵便・貯金・保険の3事業のユニバーサルサービスの提供を行っております。
 これに加え、地域の実情やニーズに合わせた取組の実施を促進するため、「コミュニティ・ハブ」として郵便局を活用する実証事業を行っており、オンライン診療、買い物支援の実証等により、郵便局の地域貢献の後押しをしているところです。
 こうした取組を通じ、郵便局がユニバーサルサービスを確保しながら、行政サービス・住民生活支援サービスを一元的に提供する拠点となり、地域の課題を解決し、地域の持続可能性の確保に貢献する存在となることを目指しております。
 ―――医療保険証がマイナ保険証に一本化される中で、郵便局がマイナカード申請・交付・認証のサポートを担う役割を果たせると思うのですが見解をお聞かせください
 郵便局は全国津々浦々に存在し、住民に身近な存在であるため、郵便局でマイナンバーカードの関係手続ができることで、住民の利便性が向上するものと考えております。
 日本郵便では、マイナンバーカードの関係手続について、令和4年度から電子証明書の発行、更新等に係る事務の取扱いを開始し、令和5年度から交付申請の受付等の事務の取扱いを追加したところです。
 これらの事務の受託件数は年々増加しており、住民の負担の軽減に寄与しているところです。今後も引き続き、広く地域の需要に応じてこうした役割を果たしていくことを期待しております。