NHK大阪 近畿・四国 技術フォーラム 2025開催

 NHK大阪はこのほど、「第78回 近畿・四国 技術フォーラム2025」を、NHK大阪放送局で開催した。同フォーラムは、日々の放送現場、技術職場のなかで取り組んだ放送技術に関する開発・改善、日頃の運用面での工夫などを報告もので、近畿と四国のNHK各放送局から報告するほか、民放各社による開発や新たな取り組みが発表される。

TOP画像は受賞者(左から日野 維乃氏、寺川 季里氏、高田 直樹氏、神田 笙汰氏、中藤 駿氏、塩見 仁望氏)

 最優秀賞はNHK大阪放送局 経営管理センター 企画部 中藤 駿氏の「番組評価システム『ポチミル』の開発」。
 放送番組の評価及び審議を継続的に実施することが不可欠である。具体的には、放送番組審議機関による番組審議に加え、視聴者によるグループインタビュー等を通し、番組の改善を図っている。一方で、協会内から番組に対する評価を集計するスキームは構築されておらず、番組を視聴し評価を一元的に行うことのできるツールの開発が求められていた。そこで、番組の評価をセキュアな環境で実施できるクラウドシステム「ポチミル」を開発した。また、番組評価を可視化するダッシュボード機能を搭載しており、番組制作者へのフィードバックも容易に実施できる。
 現在は、大阪局編成グループと部局を超えて連携を図り、同システムを用いた番組評価を試行的に実施している段階である。編成から「番組の改善に向けた意見集約に非常に有益」との声を頂いており、番組の質向上に大きく貢献するシステムとしている。


 優秀賞は3件。
 NHK大阪放送局 経営管理センター 総務施設部(システム・送受信) 高田直樹氏の「生成AIを活用した、工事レビューサポートシステム」
 レビューでは担当者、当日立会者、作業責任者など参加者全員で作業状況におけるリスクについて、複数の視点で確認し、電波確保、安全管理およびその他のリスク管理に問題が無いか全員で確認している。しかし、担当者のスキルや経験不足によっては、注意事項の抜けやリスクの見落としが発生する可能性がある。
 過去の障害事例と対策は電波確保情報として事例ごとに文書化されている。そこで、生成AIを活用したドキュメント検索により、過去事例の抽出や手順書のリスク検知を支援するシステムを試作した。同システムを活用することにより、作業における注意事項、危険予知の抜けを防止し、工事レビューで参加者全員が過去事例を含めたリスクを共有することで、電波確保、安全管理を徹底することができる。


 NHK高知放送局 コンテンツセンター(技術) 神田 笙太氏の「会館機能喪失時でも必要な情報を届けるために~サブステ簡易L字システム開発~」
 高知放送局では、大規模災害による会館機能喪失時でも、サブステーションからいち早く情報発信を行うための独自システムを開発した。このシステムは、WEBブラウザベースのL字システムで、市販のノートPCを使用し、テキストファイルを読み込むことで簡単に操作可能です。通常のL字放送と見た目も同じである上に、天気マークやQRコードの表示機能も追加され、様々なニーズに対応可能。
 その他、通常は会館で操作するロボットカメラをサブステーションで操作できるように、LTE回線等を用いたロボットカメラの制御・伝送システムも整備した。


 NHK大阪放送局 コンテンツセンター 第1部(音声) 塩見 仁望氏の「Whisper音声認識とベクトル検索技術を活用したドラマ音声業務効率化システムの開発」
 ドラマ番組の収録では、同じシーンをカメラの画角やポジションを変更して複数回撮影する。そしてドラマ音声業務では、複数回収録したテイクの中から、ポストプロダクション時に画や場面に最も適した音声ファイルを選択して使用する。現状、収録時に紙の台本に記録した日時や音声ファイル名を参考に、音声ファイルの検索や再生を行っている。そのため、多くの時間と労力がかかり、作業効率が低下していた。
 そこで高精度な音声認識モデル「Whisper」を活用した文字起こしと、ベクトル検索技術を組み合わせたプロトタイプシステムを開発した。このシステムでは、対象の音声ファイルを選択すると、自動で同じ台詞の音声ファイルが検索、表示される。効率的で正確な音声検索が可能となり、業務の生産性向上が期待されるとしている。


 奨励賞は2件。
 NHK松山放送局 コンテンツセンター 共通業務G(技術) 寺川 季里氏の「スコアボードの画像認識を用いた自動CG送出インターフェースの開発」。
 スポーツ中継における人員やリソースの不足がひとつの課題となっている。同開発で、スコアボードの定点撮影映像から、画像解析を用いてBSO・球速・球数などの情報を取得し、取得した情報からスポーツコーダーを操作するためのキーボード信号を自動生成する。解析結果を汎用的なキーボード信号に変換して出力することが特徴であり、スポーツコーダーの改修を必要とせず、CG送出の自動化(省力化)が実現できる。また、実際にCG送出装置であるSIGNと接続しデモ動画で動作を確認した。今後は球数表示の実装と、7月に行われる高校野球愛媛県大会での動作検証を目指している。


 NHK大阪放送局 コンテンツセンター 第1部(映像照明) 日野 維乃氏の「生成AIを活用した番組計画書検索システム」
 番組制作において各スキルチーフがプラン検討を行う際、過去の番組計画書やファイルを参照することが多い。しかし、膨大なファイルから探し出すことは困難かつ大変手間のかかる。今回これらの問題を解決するため、生成AIを用い、類似した計画書を迅速に検索できるシステムの開発を行った。まずPDF形式で保存された計画書から、必要となる情報をテキストとして抽出しデータベースに保存する。続いてプラン内容を質問として投げかけることにより、類似性の高い計画書をデータベースから検索し提示する。本システムの開発により、プラン検討・作成の大幅な効率化が見込めるだけでなく、他番組からの有益な知見の取得や、より洗練されたプランの作成が期待できるとしている。


 この他、数多くの報告がNHKの各放送局からなされた。さらに、NHKテクノロジーズ、讀賣テレビ放送、毎日放送、朝日放送テレビ、テレビ大阪からも発表があった。