
TBS、2025世界陸上をリモプロ制作
TBSテレビとTBSアクトは、スタジアムやスタジオなどでのライブイベントの映像制作を目的としてリモートプロダクションセンターで、東京2025世界陸上の地上波生放送向け映像制作を実施した。
世界陸上のような大型スポーツ中継は、多数の人員や機材を現地に投入するスタイルが主流で、機材とスタッフの移動コストといった課題があった。
近年はIP伝送や遠隔操作技術が進化し、映像・音声・照明を拠点間で制御するリモートプロダクション技術(リモプロ)が、そのような問題を解決する手段として注目を集めている状況という。
IOWN APNのような超低遅延・高品質な光ネットワークを採用することで、リアルタイム性が求められる生放送制作にも対応が可能になってきたことを鑑み、TBSテレビとTBSアクトは、IOWN APNで国立競技場とTBS放送センターを結び、ザ・ヘキサゴンに構築されたリモプロセンターにて、世界陸上の地上波生放送向け番組制作をリアルタイムで実施したもの。
リモプロセンターでも番組制作の安定運用は、今後のスポーツ中継やライブイベント制作における新たなモデルケースとなりえるという。
拠点構成と伝送方式は、国立競技場、TBS放送センター、ザ・ヘキサゴンという3つの拠点を設定し、競技場で撮影された映像・音声・照明制御信号などを遠隔で操作・編集できる体制を構築した。生放送での無瞬断を実現するために、標準規格SMPTE ST2022―7機器を採用し、遅延差約60μsという安定性を保ったままAPN回線を完全異ルートで接続した。また、20本の非圧縮映像をIOWN APNでリアルタイム送受信した。
装置同期と制御は、PTP(精密時刻同期プロトコル)を活用し、各拠点にあるカメラ・音声・照明機器間の時刻同期を確保。これにより、映像と音声、照明制御のズレを最小化した。遠隔操作可能なスイッチャー、ミキサー、照明制御装置をザ・ヘキサゴン内のリモプロセンターに設置した。
IOWN APNの特性を活かした低遅延・大容量・ゆらぎなしの伝送を実現。大容量映像信号や制御信号、音声信号など複数系統のストリームを同時に扱い、帯域制限や混雑による遅延変動を起こさせない構成を採用した。パケロスや遅延を可視化し、信号経路ごとに把握する監視体制を構築。映像制作(ザ・ヘキサゴン)、回線ネットワーク(TBS本社)、中継現場(国立競技場)のスタッフを3拠点に分散配置し、機器トラブルの対応する保守運用体制を整備した。
主な成果は以下の通り。
①映像・音声・照明のリアルタイム制御と同期性の確立
映像および音声、照明の制御の遅延量が地上波生放送に耐えうるレベルで抑えられた。PTPによる同期が常に維持され、映像・音声のズレはほぼ無い状態で運用できた。
②運用の安定性
長時間にわたる番組制作で安定運用を実現し、大きな通信遅延・同期トラブル・信号喪失などの事故が発生せず、地上波生放送の要件を満たす信頼性を確保。
③制作効率・コスト削減
従来、現地で作業していた映像制作をリモプロセンターからの操作・制御で代替できたことから、今後の人件費・交通・設営・機材輸送の面でコスト削減できる可能性があることを確認。
④技術の先行実用性の証明
世界陸上のように大規模で、地上波生放送品質を求められる大会でも、リモートプロダクションが実用的な手法であることを実証。
⑤将来への応用可能性の拡大
新技術の導入により、将来のライブスポーツ中継や大型イベントでの制作モデルが変革可能であることを確認。現地設営/派遣を最小限とし、地方開催・複数会場中継時の効率性が高まる可能性がある。放送局・制作会社・ネットワーク運営者間での技術連携・標準化の促進につながるモデルケースとなった。
リモートプロダクションされた競技は、9月13日(土)35km(男女)、9月14日(日)女子マラソン、9月15日(祝)男子マラソン。
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。
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