映像情報メディア学会 ローカル5Gの研究・利活用

 映像情報メディア学会はこのほど東京理科大学 葛飾キャンパスにおいて2025年年次大会を開催した。映像情報メディアに関連する様々な技術やトピックが紹介された他、ホットなテーマでディスカッションなども実施された。今回は企画セッション3「ローカル5Gの研究・利活用最前線」の模様をレポートする。
 「アナログRoFを用いたローカル5G ミリ波SFNにおける4K映像伝送」をNTTアクセスサービスシステム研究所が講演した。
 動画視聴などのコンテンツが充実し,モバイル通信に置いてユーザーあたりの通信容量拡大の需要が高まっている.大容量無線通信の実現方法としてミリ波の活用が挙げられ、第5世代移動通信システム (5G)およびローカル5Gでも新たにミリ波の割り当てが行われた。伝搬損失や回折損失が大きいミリ波の面的な展開には,基地局から複数のアンテナを張り出し一つのエリアを形成するSFN(Single Frequency Network)構成が有効とされる。アナログRoF (Radio over Fiber)を用いてローカル5GでSFNを構成した4K映像伝送実験を紹介した.
 続いて東芝が「ローカル5GでのLiDAR点群データリアルタイム伝送によるロボット制御応用」について講演した。
 製造現場や物流センターで利用される自動搬送車(AGV・AMR)を対象に、ローカル5Gを用いた新しい制御アーキテクチャを提案・検証した取り組みを紹介した。
 労働力不足・人手不足が深刻化しており、特に物流業界では「2024年問題」によりトラックドライバーの時間外労働に上限が設定された。対応策として、工場・倉庫内での自動搬送の効率化・省人化が急務で、具体的にはトラック運転手が各パーツを個別の置き場まで運んでいた工程を見直し、構内での搬送をAGV/AMRで代替する動きが進んでいる。
 現在のAGV/AMRは、搭載された産業用コンピューターが位置推定・経路計画などの〝考える処理〟を実行している。しかし、産業用コンピューターは高価であり、導入コストが課題となっている。。1台あたり数万円~数十万円の組込みPCでも、数十台規模になると大きな負担となる。また、処理性能にも限界があり、リアルタイム制御や高度なAI処理が困難である。
そこで同社は、「考える機能(ブレイン)」を車体から外してサーバー側に集約する方式を検討した。具体的には、ローカル5Gに直結するMEC(Multi―access Edge Computing)サーバー上で、位置推定や経路計画などの知能処理を集中実行する。これによりAGV/AMR側はブレインレス化して軽量・低価格化を実現できる。また、ローカル5Gの低遅延・大容量通信を活用し、MECからリアルタイム制御を行う。
 また、NTTとの共同検証の一環として、分散アンテナシステム(DAS:Distributed Antenna System)を導入。電波遮蔽が発生しやすい環境下でも、複数アンテナからの受信によりリンク切断を抑制する。さらに、電波遮蔽体(アルミ板)を設置する電波遮蔽実験も実施。段階的に遮蔽を「挿入→除去」しながら、電波強度の変化を観測し、遮蔽の有無による経路変更動作を確認した。
 結果は、遮蔽なしの場合は全車が最短経路を通過した。遮蔽挿入では、劣化を自動検知し代替経路へ切替、さらに遮蔽解除するとAIが復旧を推定し、再び最短経路へ戻った。
 DASは既に携帯キャリア向けで高い実績を持つ信頼技術である。ローカル5G版DASを実装し、AMRや警備ロボットなど産業用途への展開を加速させる。電波遮蔽環境でも安定した通信を維持し、ブレインレスAMRとの組み合わせで工場DXに寄与するとした。
 次にNECネッツエスアイの藤澤隆行氏が、「ローカル5Gが築く新たな放送映像伝送の世界―実験から見えてきたその可能性」と題して講演した。
 同社はローカル5G分野も実証実験を多数実施している 実証実験の事例として、ワイヤレスカメラを用いた映像収録と配信、基地局1台で複数カメラの同時無線配信、イベント会場でのカラー映像エリアインターネット配信、ネットワーク混雑環境(スタジアム/アリーナ)での安定運用、平時・有事の緊急ネットワークによる情報発信、遠隔ロボットの安定通信制御を紹介した。
 このうち国民スポーツ大会(佐賀大会)では、ローカル5Gの「ワイヤレス映像収録・配信」を目的に実施した。具体的には、高価なワイヤレスカメラを審判に胸部に装着し、審判目線の近接映像を収録した。また、映像は一旦解説を加えて、来場者のスマホへ配信した。
 成果としては、ケーブル不要による柔軟に撮影でき、審判視点の迫力映像も収録できた。映像遅延は1秒未満で、観客アンケートで「映像遅延は感じない」という好評価だったという。これにより、ライブスポーツ映像の臨場感が向上し、ケーブル工事不要により短期間で実現できた。
 また、NECネッツエスアイと東京大学との共同研究により設立されたベンチャー企業である「株式会社FLARE SYSTEMS(フレアシステムズ)」も紹介した。FLARE SYSTEMSは、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(システム創成学専攻教授:中尾彰宏)との共同研究「ソフトウェア基地局によるカスタマイズ可能なローカル5G技術の研究」の技術の研究の成果を実用化するために設立したベンチャー企業。同社では、は、5G RedCap(低コスト・低消費電力・省リソースでの運用が可能な5G)に対応したコア一体型ローカル5Gシステムの開発などを行っている。
 藤澤氏は「私たちはローカル5Gの社会実装・実用化を加速したいと思っています」と述べた。
 最後にNHK財団の島本洋氏が、「ローカル5Gを活用した8K遠隔手術支援指導臨床試験」を講演した。
 8Kはハイビジョン比で16倍の解像度を持ち、より緻密でリアルな映像再現が可能だ。また、色域もハ地球上の色の99%以上をカバーする。高解像度+広色域で、視聴者に「本物のような臨場感」を提供する。医療分野での8Kのメリットとしては、膜の質感などのリアリズム向上、組織の起伏など立体感の向上、血管や組織色の自然表現、医療現場での詳細な視認性向上などがある。
 臨床試験は国立がん研究センター中央病院で行っており、8K腹腔鏡下大腸がん手術などを対象としている。実施例数は23例で、主な成果としては手術医から「まるで腹腔を直接開いているかのようなリアル感」「立体的印象」と高評価を得ている。
 8Kカメラの開発の第1世代(2017年)は放送用8Kカメラを使用し、大型でクレーンが必要だった。第2世代(2020年)で腹腔鏡専用8Kカメラを開発した。重量は210gと、外科用スコープホルダーで支えられる重量となり、手術現場での実用性が向上した。
 8Kカメラの解像度:縦・横比3840×3 840で内視鏡特性に合わせて調整する。内視鏡は長い棒状の形状となっており、アダプターにフォーカス調整機能を有する。
 従来方式は、患部にカメラを近づける必要があり、油煙でレンズが曇る他、手術器具との干渉や死角の発生など課題がある。
 一方、8Kカメラは高解像度により患部から離して撮影可能で、油煙による汚れが付きにくくなる。また、器具干渉や死角の発生が減少する。これにより安全かつ効率的な手術支援が可能になるという。
 これをベースに遠隔指導システムを構築した。それにて外科医の地域偏在という問題がある。首都圏の医者は医療機会が豊富だが、地方は手術経験機会が少ない。内視鏡手術は高度な技術を必要とするため経験不足が課題だ。地域医師が遠隔でベテラン医師から指導を受けられる環境の構築が必要である。
 システムは、手術現場で8K内視鏡カメラによる映像取得し、医師がその映像を確認しながら手術する。同じ映像をエンコードし、ルーター経由で通信回線に送信。遠隔地でデコードし、指導医が映像確認するともに、指導医は画面上・音声でリアルタイムに指示する。手術映像の精度・遅延は安全性に直結する。安定・高品質な通信回線の確保が前提条件になる。
 このため実証実験を行った。実証環境は東京(国立がん研究センター)と 大阪(実施拠点)を結ぶ。臨床試験は大腸がん腹腔鏡手術(3例)を実施。同一8K映像を遠隔地で共有する遠隔指導実験を行い、3例とも成功。8K遠隔手術支援指導臨床試験として成功を確認し、安定した通信環境でリアルタイム指導が可能という。
 まとめしては、より安定性を高めるため、耐性の強い伝送プロトコルの検討が必要。また、機材・免許申請・専用線・基地局構築などコストが高く、低廉化が課題となる。高速・低遅延通信は医療の地域格差解消に貢献するが、普及には機材普及・ネットワーク技術の向上・運用柔軟化が必要。
 将来的には6G等の超大容量・低遅延技術で、いつでもどこでも誰でも高度医療を実現可能と期待される。医療分野への映像・通信技術の融合は今後重要性を増すと述べた。