[NHK]新ネットサービス「NHK ONE」で何が変わる? 黒崎めぐみ理事が語るNHKの挑戦と改革

ネットが放送と同格に──「NHK ONE」が提供するテレビ視聴の新たなスタイル

 

NHKの新たなインターネットサービス「NHK ONE」が10月1日にスタートした。放送法改正を受け、NHKにおいては、ネットサービスが従来の「任意業務」から「必須業務」へと格上げされ、公共放送にとっての大きな節目となった。テレビ放送を中心に培ってきた公共放送の役割をインターネット空間においてどのように再定義し、放送と通信の垣根を越えた形で視聴者に届けていくのか。放送・通信業界全体にとって大きな関心事となっている「NHK ONE」開発の狙いや具体的なサービス内容、さらにユーザーとの新しい関係性構築に向けた展望などを「NHK ONE」プレゼンターを務めるNHK黒崎めぐみ理事に聞いた。

 

日々の暮らしの中でなくてはならない存在の一つになってほしい

 

――新サービス「NHK ONE」がスタートし、すでに大きな反響を呼んでいます。改めて立ち上げの経緯をお教えください。また、NHKにとって、本サービスがどのような意義を持つのかお話しください

 

最も大きな背景は、昨年5月の改正放送法成立によって、NHKのインターネット業務が「任意業務」から「必須業務」へとより高い位置づけになったことです。これまでNHKでは、放送を基盤とし、補完的にインターネットを活用してきました。しかし、今後はインターネットサービスが放送と並び立つ基幹的業務となり、放送と同じ価値をインターネットでも提供することが制度的にも明確化されたわけです。

 

日本では、102年前に起きた関東大震災をきっかけに、正確な情報を届けなくてはいけない、という要請からラジオ放送がスタートしました。その後、テレビ放送がスタートし、衛星放送が始まるなど、放送技術が進化してきました。放送100年というこの節目の年に、インターネットという情報空間の中でも放送と同様に正確で安心・安全なコンテンツをお届けする役割を担っていくことになります。

 

皆さまにとって「NHKのサービスがテレビに閉じず、常時インターネットで利用できる」という安心感を持っていただけることが大きな変化であり、同時に責任の大きさを感じています。

 

――「NHK ONE」という名称に込めた意味を教えてください

 

「ONE(ワン)」には、いろいろな意味が込められています。まずは、「NHK ONE」がワンストップのインターネットサービスであることの「ワン」です。すなわち、入り口が一つで、ここからあらゆるNHKの情報や番組にアクセスできるという意味です。また、「いつでも どこでも あなたのそばに」という「NHK ONE」のキャッチコピーにもありますように、「ひとりひとりに寄り添う」というサービスの姿勢を示しています。皆さまにとって日々の暮らしの中で、この「NHK ONE」というサービスがなくてはならない存在の一つになってほしいという思いも込めて、この名称になりました。

 

 

謙虚・確実に継続して進めます

 

――今後は利用者の理解と拡大が重要な課題かと思います。特に若年層やテレビを持たない世帯に向けて、このサービスの存在や魅力をどのように知ってもらい、訴求するのか、施策をどのように考えておられますか

 

今は、若い方々だけでなく、いろいろな世代の皆さまがスマートフォンから情報を得ているのが現実かと思います。そうした方々にとって「テレビのNHK」は距離がある存在になりつつあるのかもしれません。そこで「NHK ONE」では、スマートフォンやパソコンから直接利用できるサービスになることが大切だと考えました。そのため、ホームページやSNSなどからの発信を通じて、NHKの番組やニュースに自然に触れていただける導線を強化しています。幸い、私たちのコンテンツは幅広い世代の方々に楽しんでいただけるコンテンツが揃っておりますので、さまざまなネットワークを使いながら、「NHK ONE」に触れていただけるよう、いかに見ていただけるようにするかということが、これから本当に大事になっていくと考えています。

 

一方、すでに受信契約を結んでいただいている方々には追加のご負担なく、このサービスが利用できることをしっかりお伝えし、公共放送の価値をインターネットでも身近に感じていただけるようにします。

 

サービスはスタートしましたが、いろいろな知恵と工夫を重ね、新しいやり方や届け方を謙虚・着実に継続して進めていく必要があるのかなと思っています。

 

子育て世帯け向けに「キッズモード」へ

 

――「NHK ONE」は、インターネットに繋がったテレビ、ウェブサイト、スマホ・タブレット向けアプリなど、さまざまなデバイスで利用できますが、まず、ネット対応テレビでの特徴を教えてください

 

ネット対応テレビでは、リニューアルしたテレビ向けアプリ「NHKプラス」を使っていただきます。これまでの「NHKプラス」にはなかった総合テレビとEテレの番組の同時配信機能が実装されましたので、さらに使い勝手がよくなったと思います。そのほか、1週間の「見逃し配信」、そして放送中の番組を最初から視聴できる「追いかけ再生」も楽しめます。例えば、ニュース番組に間に合わなかったときや、朝ドラを少し見逃してしまったときでも、冒頭から見られるようになります。

 

さらに、NHKの全国ネットワークを生かし、各地域放送局の番組見逃し配信や、ニュースも提供しているのも大きなポイントです。ニュースについては、ニュース番組の一部を切り出した動画と記事もご覧いただけるようになりました。

 

また、お子様がいらっしゃるご家族向けに「キッズモード」を新しく設けました。Eテレなどの教育コンテンツや子ども向け番組をまとめて見ることができますので、ぜひご利用いただきたいです。

 

――ウェブサイトでの特徴はいかがですか

 

「NHK ONE」のホームページから入っていただき、受信契約が必要なコンテンツでは受信契約が必要であることを確認する画面をご確認いただければすぐにサービスを楽しめます。ネット対応テレビと同様、総合テレビとEテレ、ラジオ番組の同時配信や1週間の見逃し・聴き逃し配信、番組に関するさまざまな情報、ニュースの記事・動画をまとめて楽しむことができます。

 

――そのほかのおすすめ機能はありますか

 

便利な機能が「デバイス連携」です。世帯で「NHK ONE アカウント」を登録していただくと、ご家族ごとに「プロファイル」を5つまで設定できます。これにより、ご家族それぞれで気になる番組をフォローすることができます。このプロファイルによってデバイス間の連携もでき、例えば外出中にスマートフォンで見ていた番組の続きを帰宅後にネット対応テレビで視聴するなど、便利な楽しみ方ができますので、より進化した大きなところかなと思います。

 

――スマートフォンやタブレットで「NHK ONE」を利用する際は、新しいアプリをインストールするのですね

 

リニューアルした「NHKプラス」「NHK ONE ニュース・防災」「NHK ONE for School」をダウンロードしていただければすぐに「NHK ONE」を利用することができます。アプリを使って、通勤・通学、休憩中や就寝前、いつでもどこでも何度でもインターネットを通じてNHKのコンテンツをお楽しみいただけます。

 

また、「NHK ONE ニュース・防災」を使っていただければ災害発生時、テレビがなくても即座にスマートフォンでNHKの放送と同等の情報にアクセスでき、命と暮らしを守る情報をいち早く得ることができます。ニュース速報に加え、地震・津波情報・気象警報などを画面で表示するほか、ご自身が今、いらっしゃる場所や設定した地域に応じて、川の氾濫情報や避難情報などをプッシュ通知でお知らせします。最近は日本各地で大きな自然災害が頻繁に起こっています。地域を設定していただければ、遠く離れた地域に住んでいらっしゃるご家族の地域ニュースを離れた場所でも知ることができますので便利です。この「NHK ONE ニュース・防災」が安心につながる、お守りアプリのようなものになればいいなと皆と話し合っています。

 

 

全国の地域局でサポートを実施

 

――盛りだくさんのサービスですが、特に高齢の方などはアカウント登録の仕方や操作方法に戸惑う人が多いと思われます。そういう方々へのサポート体制はどのようになっていますか

 

登録方法については難しいと感じる方もいらっしゃると思いますので、アカウント登録や操作をサポートする「登録サポート」を全国各地で実施しています。全国のNHK地域放送局や「NHKのど自慢」などの番組収録会場、イベント会場などでブースを設け、職員が対面でのサポートを行います。スマートフォンへのアプリのダウンロード方法や、その後の利用方法について、丁寧に説明していきます。

 

そのほかにも番組やホームページなどでも利用手順を丁寧に案内し、初めての方でも安心して使えるよう、万全の態勢を整えています。

 

――ところで、「NHK ONE」のサービス運営にあたって、必要なコストについてはどのように見ていますか

 

2025年度予算では、一時的な準備経費を含めて「NHK ONE」の運営に209.8億円を計上しました。放送と同等の価値をネットでも提供するには一定規模の投資が必要です。あくまで効率化と最適化を徹底し、無駄を省きながら適切に進めます。放送設備の維持更新と同様に、インターネット基盤も公共放送の重要インフラとして安定的に運営することが必要であると考えています。

 

 

正しい情報をお届けするのが公共放送の役割

 

――テレビ受像機を持たない人が「NHK ONE」を利用する場合の受信料負担について、利用者にはどのように理解を求めていくのでしょうか

 

私たちとしては、まず「NHK ONE」で提供しているコンテンツの魅力をしっかりお伝えしていきたいと考えています。そのうえで、皆さまには、公平にご負担いただくことによって公共放送が成り立ち、必要な情報をお届けできているということを丁寧にご案内し、ご理解いただけるように努めてまいります。

 

ここで重要なのは「NHK ONE」は見たいコンテンツへの対価として料金を支払うVODモデルやサブスクリプションサービスとは全く違うという点です。「NHK ONE」は、幅広い視聴者の皆さまに公平にご負担いただく仕組みのもと、正確で信頼できる情報や心を豊かにする番組などを安定的に提供することを目的としています。

 

――「スマートフォンを持っているだけで受信料を払わなければならない」という誤解もあるようです。この点について、ご説明いただけますか

 

スマートフォンを持っているからといって、それだけで受信契約をお願いするということはいたしません。受信契約が必要となる「NHK ONE」のコンテンツ利用時には、「ご利用にあたって」という画面で受信契約が必要なサービスであることをお示しします。この内容をご理解いただいたうえで配信の受信を開始された方に受信契約の確認をさせていただきます。

 

――インターネット空間ではフェイクニュースや誤った情報が蔓延していますが、「NHK ONE」はどのような役割を果たしていきますか

 

インターネットは現代の社会インフラの一つで、多くのメリットがある一方、デマやフェイクニュースなど、不確かで曖昧な情報が増えているといったことが課題であると認識しています。そうした中で「NHK ONE」のサービスにより、信頼できる「情報空間の参照点」となるような情報を提供していきたいと考えています。

 

また、インターネット空間ではユーザーが好きなものばかりが優先的に表示される、いわゆる「フィルターバブル」も課題となっていますが、私たちのサービスではそうならないように、皆さまの興味関心を広げるような幅広く、さまざまな情報やニュースを提供していきます。

 

――必須業務化で放送と同格となったことで、「NHK ONE」が今後、社会的にどのような存在を目指すのか、理事のお考えをお聞かせください

 

果たすべき役割というものは、これまでの放送と全く同じです。インターネット空間でもさまざまな年代、さまざまな立場の皆さまにとって、判断の拠り所となる確かな情報を確実にお届けすることが公共メディアとしての使命です。ここに来れば新しい発見がある、安心して信頼できると思っていただけるような存在であり続けたい。日本の唯一の組織として、なくてはならない存在であり続けたいです。

 

「NHK ONE」は単なるサービス刷新ではなく、公共メディアとしてのNHKの次なるステージを示す取り組みです。放送とネットが相互補完し、皆さまがいつでも、どこでも、安心してNHKの情報にアクセスできる環境をつくること。それが次の時代の公共放送の姿だと考えていますし、皆さまのお声を反映しながら進化させ、長期的に社会の情報基盤として定着させていきたいと思います。

(撮影:川村容一)