映像情報 メディア学会 冬季大会「スポーツとハイパフォーマンス情報技術」
映像情報メディア学会は2025冬季大会で企画セッション「スポーツとハイパフォーマンス情報技術」を開催した。
同セッションは,スポーツと親和性ある情報処理に関する話題を紹介し、体育教育・競技スポーツ実践のための情報処理技術の一層の利活用促進を図るもの。
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「ウェアラブル脳波計による脳状態推定とその応用 ~ 身体拡張を目指して ~」
「ウェアラブル脳波計による脳状態推定とその応用 ~ 身体拡張を目指して ~」について東京大学 荻野幹人氏が講演した。
荻野氏の専門はブレインコンピューターインターフェース(BCI)で、人の脳活動を読み取って、そこから感情や意思を読み取る研究をしている。また、ALS患者や難病の患者さんの支援なども脳波を用いて行っている。
同研究では、実験室外での利用を前提として、装着の容易さと信号品質を両立するウェアラブルデバイスを活用している。一つは、少数の電極を具備する簡易型脳波計で、これは極めて安価かつ軽量であり、多数の被験者で同時計測やフィールドワークに適している。もう一つは、多チャンネル計測が可能なオープンソースハードウェア。同デバイスは比較的安価でありながら、研究用途に耐えうる高いS/N比と時間分解能を有している。
さらに、ウェアラブルデバイスの応用を状態推定に留めるのではなく、身体機能の補完・拡張へと発展させている。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などにより、「閉じ込め状態」にある患者にとって、BCIは唯一の意思伝達の手段になりえる。
このため、OpenBCI社製のオープンソースハードウェアを基盤とし、メイン基板に米Texas Instruments(TI)社製の「ADS1299」を搭載した脳波取得システムを用いて、聴覚性ERP―BCIシステムを開発した。同システムを用いることで、早期ALS患者において、約20秒で85%以上の精度の意思伝達(YES/NO選択)を実現しており、コミュニケーション能力の復元/拡張に寄与しているという。
この他、荻野氏はスキーが好きで、研究室で毎年スキーに行くが、上級者やプロだけが持つ脳内の活動というのがあるのではないかと考えている。そういったプロの脳の活動を分析して、スポーツ科学等を掛け合わせることで、洗練されたトレーニング手法が開発できるのではないかと考えているという。

東京大学・荻野幹人氏
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「実戦におけるトップアスリートの心―身体―脳のダイナミクス」
「実戦におけるトップアスリートの心―身体―脳のダイナミクス」をNTTの柏野牧夫氏が講演した。
トップアスリートはその状況状況で心・身体・脳を最適に調整して優れたパフォーマンスを発揮する。実戦などでアスリートの行動や生理状態を解析し、心身技能の本質(多くの場合無自覚的)を解明することは意義がある。さらに、認知神経科学を実環境・実問題に拡張するための格好の材料(定量性、ルール、反復、計測・分析技術)になるという。
しかし、体の中で起きていることを解明するには、外から客観的に測るしかない。ただし、それを実環境の中で測るというのはなかなかチャレンジがあるが、それをやることによってサイエンスも広がっていくし、あるいはテクノロジーも発達していくとした。
例えばEスポーツの場合、そんなに体の動きが大きくないので、ノイズとか非常に少ないため色々測りやすい。ストリートファイター 5の上級者を集めて試合してもらったケースでは、まず各ラウンドの前の8秒間の脳波を測る。そうすると、最終的に勝つ時と、あるいは負ける時でかなり特徴が出てくる。これが客観的にどのくらい予測精度があるかを機械学習で調べたところ、大体 80%ぐらい、試合前の脳波からどっちが勝つかを当てることができるという。
過去の履歴やテキスト的な情報だけで予測できることには限りがあり、そのときの生理的な状態であるとか、行動、振る舞い、態度、挙動などの生体の情報を使うことによって、もう少し予測できるものは増えいくと考えているという。
どうやったらハイパフォーマンスが出せるか、持てる力を最大限発揮できるか、これはアスリートだけじゃなくて、広く一般の人にも通じる話だと思っていると述べた。

NTT・柏野牧夫氏
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「運転技能に関連する情報処理の基礎 ~ 個人の特性に応じた運転フィードバック提供のために ~」
「運転技能に関連する情報処理の基礎 ~ 個人の特性に応じた運転フィードバック提供のために ~」をSUBARUの和田修平氏が講演した。
SUBARUではテストコースをドライバーに運転してもらい、様々なデータを蓄積しているが、今回はその一部を紹介した。
熟練ドライバーは、先の状況を見て、総合的に行動を行っていくわけだが、彼らの行動は一貫性や再現性があるという報告がある。また、カーブの曲率が高まると速度が落ちていくというような現象もあるが、この落とし方といったものにドライバーのスタイルといったものが反映される。
熟練ドライバーの運転はまた、一般ドライバーのは、再現性といったものがなく、カーブでの走行中でも速度を変動させたり、ステアリングを動かす必要があるが、先を見てしっかりとこのくらいの感覚がないと、安定的な運転は難しい状況になる。
運転については今までは定性評価だったが、同社では、熟練ドライバーの運転というものを画像化して、非熟練や一般ドライバーが、熟練ドライバーの画像に対してどれだけ似ているかといったようなことで熟練判定をしている。
さらに、速度選択については、同じようなカーブであれば同じような速度を選択するのではないかということに着目し、速度のばらつきを調べた。十数名のドライバーを対象にして実験をしたが、三名の熟練ドライバーがトップ3位にくるということからも、熟練ドライバーは一貫性のある速度選択ができている可能性があるということを示している。
今後も引き続き、人・場所・状況に応じた柔軟なフィードバックへの環境を整えていくと語った。

SUBARU・和田修平氏
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「バスケットボールのハイパフォーマンス分析の最前線」
「バスケットボールのハイパフォーマンス分析の最前線」をデータスタジアムの柳鳥亮氏が講演した。
バスケパフォーマンス分析の先進事例としてNBAインサイドザゲームを紹介した。NBAの公式クラウドAIパートナーである AWSの協力のもとで公開した新しいデータ指標になっている。
インサイドザゲームがどのように算出されているかというと、まずNBA全会場に専用カメラが設置されており、選手の身体とボールの位置の XYZ 座標のこれの時系列データというのが取られている。
NBAでは選手1人につき身体の29カ所、しかも秒間60回というかなりの頻度でデータが取られている。バスケットボールはコート上に基本10人選手が常におり、 10人×29カ所×1秒間に60回、わずか1秒でも1万7400というようなデータが取られている。それが試合時間にすると2時間~3時間となるので、本当に膨大なデータが取られている。
これを機械学習にかけることによって、この XYZ座標のデータの推移からプレーを識別できるようになる。例えば、ボールを保持している選手の座標が一定の変化をたどったら、それをシュートとして認識することができる。さらにバスケットボールでシュートのフォームを分析し、こういう動きをするとシュートであるといようなな判定が機械学習からできるようになる。
この判定ができると、シュートを打った際に他の選手がどういった位置関係になったとか、あとはシュートを打つまでに各選手がどういった動きをしたかといったようなことも分かる。さらにそれを解析していくと、各種指標が集計できるようになる。
従来は起こった結果の数字でしか分析できなかったが、このAIやトラッキングデータが入ってきたことで、結果が起こった際の状況や、起こるまでの過程というものがいろいろ指標化、数値化されるようになってきた。
試合中に起こる全ての要素をとらえて指標化ということができるようになってきて、ゆくゆくは本当に試合における全ての要素を網羅したようなパフォーマンス分析というのが可能になるという。
この他、パフォーマンス分析とは別の話になるが、プロやアマチュア向けのパフォーマンスを向上させるためのAIツールのようなものが結構出てきていて、こういう方向でのAIの活用というのも今後注目すべき事象の一つと述べた。

データスタジアム・柳鳥亮氏
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「スポーツ動画像解析の研究開発とAI活用によるビジネス創出」
「スポーツ動画像解析の研究開発とAI活用によるビジネス創出」をNTTドコモの春山知生氏が講演した。
画像認識技術は、2000年代までは、手動・ルールベース・初期ML(機械学習)を用いて、色やエッジ検出、簡単なパターンマッチングなどを行っていた。
2000年から2020年頃には、ディープラーニングの技術が登場し、画像認識のあり方も少しずつ変わってきた。これまでは特徴自体の設定は人間が行っていたが、特徴も機械的に抽出することができるようになってきた。
これによりCNN(畳み込みニューラルネットワーク)やRNN(リカレントニューラルネットワーク)/LSTM(Long Short Term Memory)に加えて、OpenPose(骨格推定)やDeepSort(物体追跡)などを用いながら、リアルタイムトラッキングなどを実現した。
現代および未来の画像認識については、トランスフォーマーやディフュージョンモデルなど少し前の技術の応用がかなり進歩するとともに、マルチモーダルモデルや3D生成技術が急激な進歩を遂げているとした。
NTTドコモのスポーツ動画解析の事例として、AIゴルフスイング診断アプリを紹介した。これはユーザーがスマートフォンで自身のスイングを撮影して、それをアップロードすると、そのスイングを解析して、プロのようなアドバイスがもらえるというようなソリューション。
活用しているコア技術としては、骨格推定技術や、CNNに加えて、クラウド処理技術など使いながら、ユーザーに対してはスマホで撮影するだけで、簡単に自身のスイングに対してトップアドレス、インパクト、フィニッシュというような、ゴルフのスイングにおける重要なポイントを抜き出して、それを診断することを提供していた。
この他にもバスケットボールや8K カメラ AI 自動編集マルチアングル映像体験なども開発して提供してきたが、いずれも終了している。ビジネス展開していく上での課題としては、個別最適化は色々やっていくことはできるが、横展開やマネタイズに至らない部分があった。また流行りが結構変わっていくものなので、それにアジャストしていけない部分が壁となって、先ほど紹介したサービスも数年で終わってしまった。
今後のビジネス創造をやる上で、スポーツ動画と解析技術の注目技術として3つを挙げた。一つは 3D ガウシアンスプラッティング。次はマルチモーダルな LLM。最後3つ目は、物理世界の物理法則を組み込んだワールドモデル。
最終的には、これらを融合することで、自由視点未来予測視聴体験や、リアルタイムコーチングなどが、大きな発展とビジネスとしての実用レベルに向うことを予想していると述べた。

NTTドコモ・春山知生氏
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。
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