加藤電気工業所・鳩ケ谷工場~時代の変化に応じて柔軟に対応、設備全体を一体で設計・工事が可能

 加藤電気工業所・鳩ケ谷工場は、同社の生産拠点として多様化する製品のニーズに対応している。
かつては放送局向けが主流だったが、現在はNHKの他、官公庁(消防、警察、都道府県など)向けの中継設備(回転装置など)の製造および工事の需要が中心となっている。
 同社の平井憲氏、阿久津敬人氏、谷岡雅夫副社長に鳩ケ谷工場の歩みや、現在の生産品目、注力分野などを聞いた。

 同社は元々、「川口工場(埼玉県川口市)を生産拠点としており、現鳩ヶ谷工場は、資材置き場のような位置づけからスタートした。
 1970年に規模拡張の為、川口工場からに原寸場(実寸で図面を起こす作業場)を移転し鳩ケ谷工場を開設、後に放送局向けの回転装置などの製造も行う様になる。
 その後、川口工場は駅前という立地の為、周辺の開発が進むにつれて工場運営が難しくなってきた。そのため2000年に群馬県の板倉工場へ鉄塔部門を移転し生産拠点の再編を行う。この時点で、鳩ヶ谷工場には回転台などの生産と工事部門が残る形となり、現在に至っている。

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 製作する製品は、時代のニーズによって変化してきた。かつては放送局向けが主流だったが、現在は放送業界の設備投資縮小に伴い、NHKや、官公庁(消防、警察、都道府県など)向けの中継設備(回転装置など)の製造および工事の需要が中心となっている。
 特に公共インフラ向けの回転装置の需要が増えており、現在はこちらの分野の案件が比較的多くなっている。
 また、デハイドレーター(ケーブルなどに乾燥空気を充填する装置)の生産も行っている。以前は複数のメーカーが製造していたが、現在は他社が撤退したこともあり、結果として同社だけが対応できる製品になっている。そのため、市場規模自体はそれほど大きくないが、ニーズはあるため今後も生産しつづける予定だ。
 このように他社が撤退した製品の依頼を受けるケースが多いという点も同社加藤電気の特徴の一つだ。
回転装置については、大型タイプ、中型タイプ、小型タイプといった種類があり、それぞれ用途に応じて製作している。年間の製作台数としては、回転装置だけでおおよそ15台前後。この数は大きな変動はなく、例年ほぼ同程度の数量で推移している。
 また、この会社の特徴として、製造だけでなく設置工事まで自社で対応している点がある。そのため社内の体制としては、人員の約半分が工事部門となっており、工場で製作した装置を、現地で設置・据え付けまで行っている。
 来年については案件が増える見込みがあり、やや台数が増える可能性もあるとしている。
 この他、ITS(高度道路交通システム)などの自動車関連分野については、期待されたほどの仕事量にはなっていないという。 
 現在、国土交通省関連の主な内容は既存設備の点検業務。道路上には、車両の位置情報取得や交通管理などを目的として、アンテナを設置した設備がある。そうした設備の中で、アンテナを支える柱(ポール)の製作や組み立てを担当したことはあるが、通信機器やデバイスそのものの開発・製造には関わっていない。
 自動車分野が今後拡大するのではないかと期待した時期もあったが、実際にはこの分野からの仕事はそれほど増えていない。開発案件として一部関わったプロジェクトもあるが、元請け企業の下で工事部分のみを担当したものという。
 一方、官公庁関連の案件は前述の通り好調だ。数年前に大規模な拠点整備があり、回転台を12台まとめて製作したことがあった。通常は年間15台程度の製作だが、それに加えて12台の追加製作が必要になり、一時的に生産量がほぼ倍に近い状況になった。
 こうした突発的な案件にも、柔軟に対応して製作を行っている。
 放送局との取引形態も変化しているという。
 「民放放送局は以前と現在で発注の仕組みが少し変わってきています。
 かつては、放送設備全体を構築するセットメーカーが元請けとなり、その中に当社の装置を組み込むという形が一般的でした。つまり、セットメーカーが設備一式を受注し、その中の回転装置などを当社が納入という流れでした。
 しかし最近は、放送局側もコストを抑える必要が出てきているため、システム一式でまとめて発注するのではなく、回転装置などの機器はメーカーへ直接発注するなど、機器ごとに分けて発注するケースが増えています。
 キー局などでは現在でも、従来通りセットメーカー経由の発注が行われる場合もありますが減ってきています。
 こうした発注形態の変化の背景には、放送局の設備予算の厳しさがあるようです。
 以前は、『要望通りの仕様で製作する』という形が一般的でしたが、予算の制約が大きくなっており、できるだけ価格を抑えるため標準仕様の製品を使うことが求められるケースが増えています」(同社鳩ケ谷工場 製造技術部 部長 平井憲氏)。
 放送局ごとの独自仕様も大幅に減少しているという。以前は、同じ設備でも「他局と同じものは使いたくない」という意識があり、他局と同じ仕様を提案すると「なぜ同じものなのか」と指摘されることもあったという。
 しかし現在は考え方が変わり、「他局と同じ仕様でいいので、その分価格を抑えてほしい」という要望が多くなっている。
 とはいえ、完全に標準化されているわけではない。顧客によっては「ここだけはこの仕様にしたい」というこだわりの部分が残っている場合もある。
 さらに、時には特殊な案件の相談が持ち込まれることもある。「顧客から『衛星の電波を受信できる機能を追加できないか』といった相談を受け、特注の装置を社内で設計・製作する事もありました」(同社鳩ケ谷工場 製造技術部 技術課技師 阿久津敬人氏)。
 同社の大きな特徴は、機器の製造だけでなく、設計から建設、設置工事までを一括して対応できる体制にある。
 本社には設計部門があり、一級建築士も在籍している。必要な基礎工事や建屋の設計なども含め、設備全体を一体で設計・工事をすることが可能だ。
 「建物の基礎を作ってシェルターを建て、鉄塔を立てて、そこに回転装置を取り付ける。そういう一連の工程をまとめてできるのが強みだと思います」(平井氏)。
 こうした体制は、発注側にとっても大きなメリットがある。複数の会社と個別に調整する必要がなく、一つの窓口で設備全体をまとめて相談できるためだ。
 同社の仕事の中には、海外メーカーの設備導入を支える案件も多い。海外製アンテナや通信設備が日本に導入される場合、装置そのものは海外メーカーが供給するが、実際の設置や設計、現地工事は日本側で行う必要がある。
 その場合、支給されたアンテナの設置設計、回転装置との接続などの作業を同社が担当することがある。最終的な動作確認は海外メーカーが行うが、現場の工事や機構部分の調整は日本側で対応するケースが多いという。ただし、このような案件では同社の名前が表に出ることはほとんどない。
 また、海外メーカーが製造終了した装置の代替機の開発を行うケースもある。
 「自動車用の高周波デバイスでギガヘルツ帯用小型アンテナの測定に思いられる微小な角度で回転させる装置があります。
 こうした装置は1980年代から1990年代に導入されたものが多く、現在では老朽化が進んでいる。しかし、当時のメーカーがすでに撤退しているケースも多く、修理や更新ができないという問題が出てきている。
 そのため、『同じような回転装置を新しく作れないか』という相談が当社に持ち込まれるようになっています」(阿久津氏)。
 「当社の方針はオンリーワン、〝人がやらないことをやる〟」と同社取締役副社長の谷岡雅夫氏は語る。
 例えば同社製でない大型パラボラの組み立ても請け負う。「なぜか、うちならできると思って相談していただくことが多いんです」(谷岡氏)。
 大手メーカーが海外製大型パラボラを購入し、日本で設置しようとする。かつては大手メーカーのグループ会社に、設計から施工まで行う専門の工事部隊が存在していた。しかし現在は、多くの企業が設計やシステム開発に特化し、現場工事の部門を廃止・縮小するケースが増えている。
 その結果、「装置は買ったけれど、組み立てられる会社がない」という状況が生まれ、同社のような企業に依頼が集まるようになった。
 近年、技術者の人材や投資はAIなど成長分野へ集中する傾向が強い。その影響で、大企業では細かな製造や現場工事といった分野が縮小されることも少なくない。かつて当たり前に存在していた部門が突然なくなり、「この部品や装置を作れないか」と相談されるケースが増えている。
 さらに、人手不足の影響から本業の製造に人員を集中させる動きも強まり、周辺の業務を外部に委ねるケースも増えている。
 放送や通信のインフラを支える技術の中には、大量生産ではなく、現場の工夫や改善によって成り立つ領域が多い。しかし、それらを担っていた部門や企業は急速に姿を消しつつある。
 加藤電気工業所は、今日も見えないところでインフラを支えて続けている。

衛星追尾用回転装置KS-3000A
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 鳩ケ谷工場は現在、新規案件の増加に伴い作業スペースが不足したため、工場内に中二階を増設中だった。そのため組立工程が一部仮配置となっていた。工場で組み立て中の装置を紹介する。
 FPUパラボラ回転装置は、大きく3タイプが製 造中であった。
 大型タイプは同社ラインナップで最大サイズで、1・8mφのパラボラアンテナに対応している。主な用途は長距離ヘリ中継用だが、山頂のデジタル送信所や固定中継拠点にも設置実績がある。主な納入先は官庁や自治体など。
 中型タイプはアナログ伝送からデジタル伝送に替わってからの主力製品で、1・2mφのパラボラアンテナに対応し、中距離ヘリ中継と取材伝送用に使用される。なお、中型にはドーム被覆タイプ(外装ドーム付き)も用意しており、本体サイズはやや大きくなるが、屋外常設向けで風雨対策仕様になっている。
 小型タイプは0・6mφのパラボラアンテナに対応した近距離ヘリ中継と取材伝送向けで、小規模な受信拠点や設置場所に制約がある場合などに用いられる。
 回転台は、かつては中継車からの取材伝送向けが中心だったが、近年はヘリ中継比率が増加している。デジタル化により比較的小型機でも十分な伝送性能を確保できるという。
 中波ラジオ用絶縁トランスも作業中だった。中波では鉄塔自体がアンテナになるので、鉄塔には電流が流れている。そのため鉄塔上にある航空障害灯にケーブルで直接給電出来ない。電気的に絶縁しながら電流を送る必要があるが、そこで使用されるのが絶縁トランスだ。
 中波向けは減少傾向だが、NHKは中波放送を継続予定のため需要があるという。
 リングアンテナも組み立て中だった。八木アンテナ同様の高い指向性を持ち、特定方向へ効率的に電波を送信できる。その特性を生かして、基地局のエリア補完、地方局のスポットカバーなどに用いられている。
 船舶用ホイップアンテナもあった。おおよそ150MHz前後とそれ以下の帯域をカバーする。主な納入先は海上保安庁など。通常は携帯電話やデジタル無線を使用するが、非常用通信系統は必ず別に確保するという。
 この他、大型パラボラアンテナ(4m級)もあった。大型アンテナや鉄塔構造物は、板倉工場で組立・調整して出荷される。

KP18―2F型(大型タイプ)


KP12―4F型(中型タイプ)


12RG(12素子リングアンテナ)