日本ケーブルラボが第16回定時社員総会(5)

 ◇2024年度事業報告(抜粋)

  2、通期実施内容
 (1)5つの重点分野ごとの実施テーマ
 以下、5つの重点分野ごとに各テーマの実施概要を示す。各実施テーマは複数の重点分野に関連している場合もあるが、主要と考えられる分野に分類している。

 1)「オールIP」
 ①放送のIP化に関わるガイドラインの作成「事業企画委員会」
 多チャンネル市場が縮小する中、米国では無料広告型ストリーミングテレビ(FAST:Free Ad-supported Streaming TV)が伸張し、英国では将来、公共放送BBCをはじめとする地上放送波の停波議論など、IP配信への移行が世界的な潮流になっている。国内でも「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」にて小規模中継局等のブロードバンド代替が議論されており、今後、放送と通信の融合が一層加速されるものと推察される。また、ケーブルテレビ業界においてもケーブルIPスティックがリリースされた。
 このような中、ラボが重点分野の中心に据える「オールIP」の取り組みとして、IPマルチキャスト、IPユニキャストを組み合わせた4つのIP化方式を整理し、さらに既存のRF方式も融合した「放送のIP化の7つの選択肢」をJLabs DOC-107 1.0版「放送のIP化に関わるガイドライン」に示した。本ガイドラインには、受信端末やクラウドによる配信コスト情報などを含めたそれぞれの特徴を示し、今後の放送事業の経営方針をサポートする議論ポイントを明確にした。
 さらに今後は、コスト評価をより精緻化することで、コストに見合う魅力的なサービス検討などを行う。

 ②近未来ルームの環境整備(サービス技術、インフラ技術)「事務局」
 『近未来ルーム』は、ラボ会員に向けた技術シンクタンクの成果を分かり易くリアル提示する場として、IP映像デバイス(国内外のIPスティック/ドングル)を比較検証する目的で2023年度にオープンした。2024年度の視察者は80名(54社)に達し、積極的な意見交換を行った。
 映像系に関しては、ケーブルIPスティック、米国のRoku端末(Roku channel、pluto、tubi、xumo)、韓国DLIVE端末等を設置し、国内外のFASTの視聴環境を整えた。
 また、ケーブルテレビ事業者の協力のもと、IP-STBによるIP放送サービスの受信環境を整えた。遅延やザッピング時間でRF放送と同等の品質であることを確認できる。
 スマートホーム系としてスマートロック鍵管理システムを導入、IoT系としてWi-Fi HaLowによるカメラ映像伝送環境を整え、各社の地域課題解決テーマを踏まえた「ケーブルテレビの再発明」について意見交換を行った。

2)「サービス品質」
 ネットワーク分析に関する動向調査「事務局」
 インターネットサービス提供品質の一段の向上や運用の効率向上のためには、ネットワークを流れるパケットのリアルタイム分析が必要になっている。そこで、パケットをリアルタイムで取得・分析・可視化し、必要に応じて即時対策を施す方法としてDPI(Deep Packet Inspection)、Flowといった技術に着目し、分析結果の活用事例のヒアリング調査を行った。さらに、お客様宅内のWi-Fiネットワークのパフォーマンス向上やトラブルシューティング、動画配信サービスのQoE(Quality of Experience)の向上を実現するお客様宅内のネットワーク分析の調査を行った。調査結果については「DOC-114 DPIとFLOWによるネットワーク分析に関する調査報告書」として2025年5月に発行した。

 4、監視業務自動化の実証成果の展開「技術委員会」
 ケーブルテレビ事業における提供サービスの拡大により設備システムは多様化、複雑化する一方で、管理・運用リソースは限定されている。そのため、より効率的かつ安全なシステム運用を目的とした監視業務の自動化が望まれている。
 そこで、2021年度から基礎研究に着手し、2023年度にネットワークの障害検知・特定に係る監視運用タスクを自動化し、運用者の判断・決定を補助する実証評価(POC)をイッツ・コミュニケーションズ株式会社の協力を得て実施した結果、監視業務時間の短縮など良好な成果が得られた。
 この結果を受けて、本実証成果をケーブル技術ショー(2024年7月)に展示し、全国のケーブル事業者への横展開を推進した。しかしながら、多くの事業者では、自動化システムへの追加設備投資や自動化に必要な個別業務プロセスのスクリプト作成費用などが課題で、自動化システムの導入が進まない現状が顕在化した。
 そこで、4年間に渡る実証研究を「DOC-108 監視業務自動化の実証成果の展開に関する報告書」として2025年5月に発行し、事業者における将来の自動化施策の指針を示した。

 5、サプライチェーンセキュリティリスク対策に関わる技術調査「事務局」
 ラボでは継続的に最新のセキュリティリスクやその対策等に関する最新動向を報告・発信している。2024年度は、特に、サプライチェーンセキュリティに関わる情報収集を行った。具体的には、開発先のソフトウェアの部品となるオープンソースソフトウェアの脆弱性が狙われる事案に対して、ソフトウェアの透明性確保に向けて、SBOM(Software Bill of Materials、ソフトウェア部品表)の活用が着目されている状況などを確認した。当該内容を「DOC-076-4.0版 サプライチェーンセキュリティリスク対策に関する動向調査」として2025年5月に発行した。

この記事を書いた記者

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田畑広実
元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。