
[NHK]米倉涼子主演のドラマ「エンジェルフライト」が総合の土曜ドラマ枠で5/3放送スタート 堀切園健太郎監督インタビュー
異国の地で亡くなった人を遺族の元へ…国際霊柩送還士の活躍を描く1話完結のヒューマンドラマ
NHKは、俳優・米倉涼子さん主演のドラマ「エンジェルフライト」(全6話)を、5月3日から総合の土曜ドラマ枠(毎週土曜午後10時)で放送する。
同作は、海外で亡くなった日本人のご遺体を国内に送還するほか、日本で亡くなった外国人を母国に搬送する〝国際霊柩送還士〟という、知られざるスペシャリストたちの奮闘と葛藤を描く1話完結のヒューマンドラマ。2023年に動画配信サービスAmazon Prime Video(Prime Video)で配信された後、2024年にNHK BSとBSプレミアム4Kでテレビ初放送され大反響を呼んだ。
原作は、ノンフィクションライター・佐々涼子さん(1968―2024)の『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』。同書を、大河ドラマ「どうする家康」(NHK)や「コンフィデンスマンJP」シリーズ(フジテレビ)を手掛けた古沢良太さん、「ドクターX ~外科医・大門未知子~」シリーズ(テレビ朝日)、「緊急取調室」シリーズ(テレビ朝日)を手掛けた香坂隆史さんを中心とするチームがオリジナルのエピソードとして脚本化した。
物語の舞台は、羽田空港内の片隅に事務所を構える「エンジェルハース」という小さな会社。口は悪いが情に厚い剛腕社長・伊沢那美(米倉涼子)を筆頭に、新入社員の高木凛子(松本穂香)、遺体処置のスペシャリスト・柊秀介(城田優)、元ヤンの若手社員・矢野雄也(矢本悠馬)、英語が堪能でゴシップ好きな手続担当・松山みのり(野呂佳代)、温厚だがミステリアスな一面を持つ運転手・田ノ下貢(徳井優)、そして金勘定にうるさい強面の会長・柏木史郎(遠藤憲一)という、クセの強い社員たちが、「大切な人を異国の地で失ったご遺族に、ご遺体を元の姿に戻し、ちゃんと〝さようなら〟の別れをさせてあげたい」という強い信念のもと、どんな逆境にも屈せず立ち向かっていく姿を描く。
ⒸNHK
総合での放送を前に米倉さんは「今回『エンジェルフライト』が土曜ドラマとして放送され、多くの方に見ていただけることがとてもうれしいです。このドラマは決して『死』を扱うだけの作品ではありません。時に笑い、時に感動し、時に泣く。さまざまな感情のジェットコースターに揺られながら、 きっと未来への希望を感じていただけるはずです。土曜の夜は『エンジェルフライト』を、ぜひご覧ください!」とコメントを寄せている。
◆堀切園健太郎監督に聞く「今だから、ここを観てほしい」
ここでは、本作の演出を手掛けた堀切園健太郎監督(NHKエンタープライズ)に、総合での放送がスタートするにあたっての現在の心境や作品に込めた思い、制作時のエピソード、そして視聴者へのメッセージなどを語ってもらった。
――Prime Videoから、堀切園さんに監督のオファーがあったのは2019年頃と聞いています。それから6年、社会的にもいろいろなことがありました。ご自身にとって本作は今、どのような存在になっていますか
2019年の11月頃にお話をいただき、原作の『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』も拝読させていただいて、じゃあやりましょうということになり、1ヶ月経つか経たないかの時に母が亡くなってしまったんです。その時、この本を読んでいたことが自分にとって非常に大きくて。身近な人の死や別れについて、ちょっとですけど、心の中で準備ができていた気がしたのです。
原作に出てくる、本作のモデルになった国際霊柩送還会社「エアハース・インターナショナル」の木村利恵社長は「亡くなった方への敬意も大事だけど、その後も生きていく残されたご遺族も大切。その人たちのために、いかにきちんとお別れをさせてあげて、とことん悲しんでもらうかが大事」とおっしゃっています。自分も母の死に際し、その思いを実感したこともあり、お別れをする場面をドラマのピークに持っていこうと考えました。
もう一つ、大きなこととして新型コロナウイルス感染症拡大がありました。多くの方が亡くなったばかりでなく、お別れの場であるはずの葬儀も行えない状況になり、きちんとお別れができなかった方も多かったのではないかと思います。
今は再びコロナ以前の日常を取り戻し、海外からの旅行者も過去最高を更新している状況の中、このお仕事をもっと身近に感じてもらえるのではないかと楽しみにしています。
――本作はまずPrime Videoで配信され、その後、NHK BSとBSプレミアム4Kでテレビ初放送されました。配信・放送後はネットに「一生分泣いた」「多くの人に知ってもらうべきドラマ」など、作品を評価する大きな反響が数多くアップされました。そういう声を聞き、監督としてどのように感じられましたか
反響で多かったのは〝こんな仕事があることをはじめて知りました〟という声でした。過酷な状況に向き合い、海外で亡くなった方をご遺族にしっかり届ける国際霊柩送還士という素晴らしい職業があるんですね、というご意見を数多くいただきました。それと僕がすごく嬉しかったのは、本作を皆さんが自分事と感じてくださったことです。自分もいつ死ぬかわからないし、身近な大切な人がいつ死ぬかもわからない、そういう中で、〝これからどのように死に接していけばいいのか、どのように生きていけばいいのかを考えました〟という感想をたくさんいただきました。それはまさに送り手として僕がドラマを通して伝えたかったテーマでもあるので、視聴者の皆さんにそれが伝わったことがとても嬉しかったです。
――一方、「死んだ人の映像がえぐい」という声もありました。例えば第2話に出てくる、海外で起きたテロに巻き込まれ亡くなった人たちの姿がそうだと思うのですが、そこは覚悟して作ったという感じでしょうか?
ご遺体の状態をドラマの中でどの程度まで見せるのか、そのバランスは非常に難しかったです。リアルに描き過ぎて嫌悪感を抱かれては身も蓋もないので、ギリギリのところを狙っていこうと腹をくくりました。ただ現実では、海外から送還されてくるご遺体の中には損傷がとてもひどいものがあり、骨と皮だけになっている酷いものもあるそうです。そこまでは僕らももちろん描けなかったんですけれど、どんなご遺体でも国際霊柩送還士の彼らは真摯に向き合い。元の姿に戻るよう全力で修復に取り組みます。ですので、そこをまろやかな表現にして、ご遺体を変に綺麗に描いたり隠したりすると、この仕事の本質や過酷な面が伝わらないのではないかとも思いました。そこは慎重に話し合いながら、試行錯誤しつつ作っていきました。
ⒸNHK
――そんな中、エンジェルハースのメンバーが皆個性的で、コミカルなシーンに救われました
重いテーマのドラマなので、見てくださる皆さんにどうしたら受け入れていただけるかをよく考えました。国際霊柩送還はとても崇高な仕事です。しかし、シリアスな面をそのまま描き、エンジェルハースのメンバーを真面目な聖人君子というか、聖職者みたいな人物にしても全く面白くないし、エンターテインメントになりません。実は、エアハース・インターナショナルのスタッフの皆さんは本当にパワフルで強烈な個性をお持ちで、すでにドラマのようにキャラクターが立っているのです。主人公・伊沢那美を演じている米倉さんの演技も決してオーバーにやっているわけではなく、同社社長の木村利恵さんの方がもっとすごいんです(笑)。過酷なお仕事を真摯なだけはなく、ユーモアを持って向き合われているお姿から、ドラマのヒントをいっぱいいただいています。
――特に米倉さんの演技は真に迫っているように感じます
オファーさせていただいた時は『ドクターX』とは違う、彼女のいろいろな面が見えるといいなと思っていました。米倉さんというと、どうしても『ドクターX』のイメージが強いですから。でも、米倉さんご本人自身は非常に繊細な方です。自宅に帰ってきたご遺体にご遺族が対面する「お別れの場」のシーンでは、毎回号泣されていました。すごくお芝居に入り込んで、カメラが自分に向いてない時もずっと泣いていたり、ご遺体に話しかけるセリフはアドリブもあったのですが、とてもナチュラルで、那美というキャラクターを上手く表現してくださり、僕もスタッフも魅了されました。
――脚本を古沢良太さんと香坂隆史さんの2人体制で行った理由をお聞かせください
お二人が中心ですけれど、今回はAmazonさんから、ライターズルーム形式でやってくださいという提案がありましたので、脚本作りはその手法で進めました。ライターズルームは、複数の脚本家が一つの場に集まり、共同で脚本を開発する手法です。アメリカを中心に海外では当たり前になっていますが、日本ではまだ定着していません。どのようにすればいいのか試行錯誤でしたが、僕は1年間、勉強で米国に行ったことがありましたので、そこで得た知識を活かしながら進めていきました。
古沢さんは海外ドラマへの志向も強いし、自作が海外でリメイクされたりしているので、ベテランの書き手ではありますが、ライターズルームに理解があるのではないかと思い、声を掛けさせていただきました。そうしましたら快諾してもらえましたので、香坂さんと他にも何人かの脚本家に集まってもらい、原作者の佐々涼子さんにお話を伺ったり、エアハース・インターナショナルなどへの取材を行う一方、毎週のように打合せを重ね、一歩一歩ストーリー作りを進めました。
Amazonさんがなぜ、ライターズルームにしてほしいと言ってきたかというと、長期シリーズを見据えているのと、やはり一人で考えるより、複数の知恵が入った方が絶対に広く受け入れられる豊かなものができるという考えからでした。僕も初めての経験で面白かったです。脚本作りに時間をかけられる、すごく贅沢な体験をしました。すでに一線で活躍する脚本家が複数の脚本家と一緒にライターズルーム形式でやるのは難しい面もあります。しかし今回は古沢さんが理解を示してくれたので、すごくうまくいきました。古沢さんはじめ、皆さんには感謝しています。
――脚本家がエアハース・インターナショナルへの取材も行かれたのですね
今回は6話全てオリジナルストーリーになっているのですが、ベースとして、エアハース・インターナショナルの皆さんに取材したことをパッチワークして作っていきました。一例として、2011年2月にニュージーランドのクライストチャーチで起きた大地震で、留学していた日本人学生が犠牲になりました。その時、エアハース・インターナショナルの木村社長が外務省からの要請でご遺族対応のために現地へ行ったそうです。その時のエピソードを元にしながら作った回もあります。
――先ほどのお話しで撮影時、コロナ感染が世界中に蔓延していたとのことですが、撮影や制作に影響がありましたか
それはありました。当時はどのドラマもコロナの状況を作品の中に取り入れるか、取り入れないかの議論があったと思うのですが、コロナ禍では海外への行き来が閉ざされていたので、通常の国際霊柩送還士という仕事が描けなくなってしまうので、架空というか、年代をぼかすようにしながら、いつ見ても楽しめるようなものとして作ることにしました。今考えるとその判断は正しかったと思います。
それから、海外にもなかなか行けない状況でしたが、国際霊柩送還士は海外へ行き、ご遺体を日本へ搬送する仕事ですので、海外ロケは必須となります。ロケはフィリピンだけだったのですが、コロナの状況が好転していったこともあり、実現できました。他のエピソードに登場する海外の場面は全て日本で撮影しました。
――ドラマを制作するにあたり、照明やカラーグレーディングなど、映像編集の面でこだわったことはありますか
先ほど申し上げたことと繋がっていますが、撮影もそうですし、照明、カラーグレーディング、音楽の付け方も、どうすれば視聴者にとって受け入れやすくなり、見やすくなるかを意識しました。ご遺体が映るシーンもどこまで表現するか、事前にカメラテストを行い、かなり気を使いながらやりました。
――5月3日からいよいよ総合での放送がスタートします。本作を初めて見る方も多いと思いますが、そういう人たちに向けて、どういうふうに見てほしいか、また、今だからここを見てほしいということがあったらお願いします
ご遺体を運ぶプロが主人公のドラマということで、ハードルの高さを感じていらっしゃる方がおられるかもしれません。しかし、決してそういうことはなく、純粋にエンターテインメント作品として制作しています。泣けるシーンもあり、笑えるシーンもたくさんあります。ドキドキするし、アクションもあり、サスペンスの要素もあるので、幅広い世代のどなたでも楽しんで見ていただける作品になっております。各話、それぞれ違ったテイストで作っていますので、ハードルが高いと思わずにぜひ全話通して観ていただければ嬉しいです。
個人的に見どころの一つと思っているのは、レギュラーメンバーだけでなく、各話に登場する豪華なゲスト俳優の方たちのお芝居です。皆さん素晴らしい演技を見せてくださっています。レギュラーメンバーたちがコミカルなお芝居をする一方、ゲストの皆さんがシリアスなお芝居をしてくださっているので、その振り幅も見どころかもしれないですね。
■堀切園健太郎氏
1994年NHKに入局。2004年から1年間ハリウッドに留学し、映像制作を学ぶ。手掛けた作品は、連続テレビ小説「ちゅらさん」、土曜ドラマ「ハゲタカ」、大河ドラマ「篤姫」、土曜ドラマ「外事警察」、正月時代劇「幕末相棒伝」など
■番組概要
【原作】佐々涼子「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」
【脚本】古沢良太、香坂隆史
【音楽】遠藤浩二
【監督】堀切園健太郎
【制作】NHK エンタープライズ
【出演】米倉涼子、松本穂香、城田優、矢本悠馬、野呂佳代、徳井優、織山尚大、 鎌田英怜奈/草刈民代、向井理、遠藤憲一 ほか
【放送】総合:5月3日~6月7日 毎週土曜 夜10時~10時50分
【再放送】総合:5月7日~6月11日 毎週水曜 午前0時35分~1時25分(※火曜深夜)
この記事を書いた記者
- テレビ・ラジオ番組の紹介、会見記事、オーディオ製品、アマチュア無線などを担当