アイコム 電話機能付きトランシーバー「IP200H」学校向け販売が急速拡大

無線通信機器大手のアイコム(大阪市、中岡洋詞社長)は7月18日、同社の電話機能を持つトランシーバー「IP200H」の学校向け販売が急速に拡大していると発表した。

 

小中学校や高校、教育委員会が教育現場の安全対策と日々の業務効率化を目的に同製品の導入を進めているという。特に、新型コロナウイルス禍で整備が進んだ校内Wi-Fiを活用し、電話とトランシーバーの両機能を兼ね備える点が評価されている。

 

「IP200H」は、2020年10月に発売されたモバイルIPフォン。学校内の無線LANを通じて電話とトランシーバー通話の双方が可能。教員間の内線電話として日常的に活用できるほか、緊急時にはトランシーバー機能で教員全体に一斉同報できるのが最大の特徴。学校内で不審な動きを察知した場合、1秒でも早く関係各所へ情報共有できる点が、学校防犯の観点から不可欠とされている。

 

 

スマートフォンでもチャット通話アプリを使えば内線電話として活用できるが、「IP200H」はワンプッシュで即時性と一斉同報性を実現する点で優位性がある。また「なんでもできる」スマートフォンの多機能性ゆえに、総務部などの管理負担が重くなる傾向があるのに対し、無線機はコスト面でも費用を抑えられる利点がある。

 

■和歌山県上富田町の導入事例

和歌山県西牟婁郡上富田町では、町教育委員会が町内の小学校5校、中学校1校、および委員会側に計45台の「IP200H」を導入した。これにより、教育委員会と各学校、および各学校間が「IP200H」の内線機能で直接結ばれている。遠隔地同士の通信には、アイコムのVoIPルーター「SR-8000V」と仮想私設網(VPN)が活用されている。

 

上富田町教育委員会の宮内一裕教育長は、管理職の教職員や担当者のデスクへ直接連絡できる点を評価しており、各学校からは増台の要望も出ていると述べている。実際に利用する教員からは「職員全体に素早く情報共有したいときにトランシーバー機能が役立つ」「学校職員間や教育委員会との連絡がとりやすくなり、取り次ぎにかかる時間も減って業務効率化につながった」「(固定電話と異なり)通話しながら移動できるため、状況を聞きながら保健室に向かえる」「既存の校内放送設備と連携できるため、緊急時などにどこからでも放送ができる」などの声が聞かれているという。

 

■GIGAスクール構想が導入を後押し

「IP200H」導入の背景には、国の「GIGAスクール構想」の加速がある。コロナ禍におけるオンライン授業の必要性から、児童生徒への端末配布と校内Wi-Fiの整備が急速に進んだ。文部科学省の調査によると、公立小中高の普通教室における無線LAN整備率は、2019年3月時点の41.0%から、2022年3月には94.8%に、そして2024年3月時点では96.2%にまで向上している。

 

文部科学省は2023年度から学校の安全対策を強化しており、2022年度末に発生した不審者侵入事件を受け、防犯カメラや自動施錠システム、非常通報装置の導入費用に対する国の補助割合を引き上げる方針を示している。このような国の施策も、「IP200H」のような通信機器の導入を後押ししているといえる。

 

■連携機能と対応エリアの拡大

「IP200H」は、据え置き型のIPインターホン「IP200PG」と連携させることで、さらに利便性が高まる。同一のWi-Fi環境下にある教室や図書室、保健室などにインターホンを設置すれば、「IP200H」を持たない児童生徒や来客者とも双方向通話が可能になる。

 

また、「IP200H」は専用のSIMカード(au/NTTドコモ)を挿入することで、携帯回線(LTE)を介した通話や一斉同報も可能となる。これにより、校内Wi-Fiの範囲外である体育館やグラウンド、さらには外出先でも利用できるようになる。

 

「IP200H」は2022年度から販売が急増しており、学校現場以外にも福祉施設や病院、ホテルなどでも活用されている。ワンプッシュで登録グループに一斉同報でき、複数人への迅速な情報共有を可能にするこの製品は、特に緊急時の連絡手段として有効な機能を持つ。