放送100年 特別企画「放送ルネサンス」第37回

放送作家
西川 栄二 さん
西川栄二(にしかわ・えいじ)氏。1962年、東京・日本橋生まれ。立教大学卒業後、百貨店に6年間勤務の後、30歳でお笑いの世界に入る。「人力舎」のお笑い学校「スクールJCA」第1期生。1994年、放送作家としてデビューし、テレビ、ラジオ番組に関わるとともに、JCA講師として20年で1500人以上の芸人志望者を指導。2014年に校長に就任。フリーの放送作家として「テリーとたい平のってけラジオ」「笑福亭鶴光の噂のゴールデンリクエスト」等を担当。2019年、『笑いの作り方』を出版。
西川 栄二さん インタビュー
Contents
―ご自身と放送との関わりについて
子供の頃、どの部屋にもテレビがあり、いつもテレビを見ていた。今で言えば「テレビおたく」だった。「おたく」は少人数の時に使う言葉かもしれないが、当時はみんなが、いわば「テレビおたく」だった。時代は高度成長期で、テレビ局も予算も掛けて、わくわくする番組を作っていたし、どこの家にも茶の間があり、家族でテレビの話をし、学校に行っても友達とテレビの話をする。それが当たり前の時代であり、そのなかで感性が養われていった。
また、教養は情報と情報を繋いでいくことで養われるものだと思うが、私の場合は、本を読むより、テレビで得た広く浅い情報が源となり、それがつながって教養を身に着けて来たと思う。この時代は、テレビが教養のベースになっていたような気がする。
―学生時代からお笑いの世界に関心をもちつつ、就職はデパートを選んだのは
当時は、まだお笑いの世界でやっていく自信もなく、お笑いの道に行くことを断ち切って、たまたまデパートに就職することになった。しかし、当時の会社の組織に合わず辞めることになった。色々考えたが、やはり芸人になるため事務所に入ろうと思い、「人力舎」のお笑い学校の一期生として、この世界に入った。1年が経った時に、当時の社長から、芸人より早く稼げる放送作家をやってみないかと云われ、自分のネタを書いては見せてという生活を一年半くらい続けて来た。その頃は、まだ自分にとってテレビは見るもの、出るものとして考えていた。
―実際に放送の世界と関わるようになり、テレビの魅力、役割は何だったと思うか
「驚いた」「見たこともない」、それを見せてくれるのがテレビであり、そういう出会いをテレビは与え続けてくれた。私の関わっているお笑いの世界でいえば、かつて「ドリフターズ」は大道具や小道具を使って、「ひょうきん族」は楽屋の人間関係を見せてくれることで、これまでに見たこともない笑いを提供してくれた。それは私にとっては初めての体験であり、そうした「見たこともないもの」が相次いで出て来ることで、お笑い全体のステージを引き上げて来たのだと思う。漫才ブームも、当時の「B&B」は圧倒的に早口であり、「ツービート」は圧倒的に毒舌であり、そうした圧倒的存在がテレビに一気に登場することで、空前のお笑いブームが作られていったのだと思う。
―しかし、ネットの進展によって、そうしたテレビの影響力は無くなってきているのではないか
テレビやラジオのお客さんが、次第にネットに奪われてしまっているのは確かだ。そうした中で、唯一放送とネットが持ちつ持たれつの関係にあるのは、ネットニュースのエンタメ情報などで、テレビやラジオの話題が取り上げられていることだ。
しかし、「ダウンタウン」がネットで独自に自分たちの番組を伝えるチャンネルを作るという話もあるが、ネットでそうしたチャンネルがいくつも登場し、刺激的なプログラムを提供すれば、ネットニュースはそちらを取り上げるようになり、放送がネット記事に出てこなくなってしまう可能性もある。そうなれば、ネットを見ている人たちにテレビの情報が届かなくなり、完全に放送は終焉を迎えるのではないかとも思う。
こうした時代が来る前に、何とかしないといけない。テレビは、ネットにも取り上げられるような「見たこともないもの」「驚くもの」を作る努力をすべきだ。今が頑張りどころだと思う。
―努力をすれば、テレビやラジオには将来はあるか
今のテレビやラジオは、怠けていて、やっていないことが沢山あるような気がする。テレビには、まだまだ見たこともないものを見せてくれる可能性があるのに、知恵を絞っていない。
以前、テリー伊藤さんとラジオ番組をやった時に、歌の歌詞に出て来る、例えば「紅茶の美味しい喫茶店」はどこにあるかを作詞家に聞くといった企画を放送し、聴取率が大きく変わったことがあった。
その時、面白いことやれば、置かれている状況は一変するということを実感した。この先も、そういうことが起こる可能性があるのではないかと思っている。
今のテレビは、真面目な人が真面目な番組を作っているが、真面目なふりをしている人たちが力を合わせて面白い番組を作ろうと思えば変わる。そして、そういう面白い番組が一つではなく、二つ三つと増えてくれば、風向きは変わると思っている。
―この先、テレビはネットに置き換わっていくという見方もあるが
そういうことにはならないと思っている。長時間かけないと出来ない番組、お金をかける番組など、テレビにはテレビの特性にあった物作りがある。
テレビのプロが結集して作った番組は、やはりネットより面白く、そうしたことが出来るアドバンテージがテレビにはあるのに、今は冒険をしない。同じような番組が並んでいると視聴者は感じてしまっている。
例えばコントをやるにしても、テレビではスタジオセットを作ることもできるし、複数のカメラを使ったカメラ割もできるなど、色々なアドバンテージがある。放送は、プロフェッショナルな人たちが集まって、時間をかけ作り上げていく世界であり、ネットには真似出来ない世界があると信じている。
―放送局側も、何とか若い人に見て貰おうと、多くの番組でお笑い芸人を起用しているが
若い人が好きそうだという理由で、単にお笑い芸人をピックアップしているとしたら、それは底が知れている。
テレビ局も数字(視聴率)の縛りがきつく、3か月で数字を出せというような番組ばかりになっている。そうなると、番組の中身よりも、手っ取り早く数字をあげるために、出演者のキャスティングに頼りがちになる。この人が司会をやるから間違いないというだけで番組を作っているのなら、それは大きな間違いだと思う。
何故なら、そこに番組のコンセプト=面白くなる仕掛けがないからで、若い人に見て貰うのなら、例えば私なら、実際の学校を舞台に、胸がきゅんとするをテーマに作ってみたい。そういう形で若い人とつながりを持てる番組を作ったほうが、よほど効果的だと思う。
―ただ、現実には若い人たちのテレビ離れが進んでいる
そこにはシンプルな理由がある。それは、テレビの制作現場に若い人がいないことだ。10代、20代が制作現場に入っていたり、せめてそうした世代の人たちのデータを取り込んで制作するようなシステムがあったりすれば、事情は変わってくるのではないかと思う。その部分でも、まだ出来ることがあると思っている。もっと、若い人たちに直接会って話を聞くべきだ。
若い人がテレビから離れていく理由には、それ以外にも、例えば新聞を取らなくなり、番組表を見る機会が無くなったことも、意外と大きいかもしれない。いつ、どの時間に、どういう人が出演し、どういう番組が放送されるか、それがわかれば見るかもしれない。そうした小さなことも含めて知恵を出し合うことが必要。
―将来テレビとネットは一体のものとなるか、それとも棲み分けるのか
個人的な願望としては、テレビとネットは一緒にならないでほしい。テレビは、ネットの波に飲み込まれないでほしいと思っている。今の若い人が集まって好きなアイドルの話をすると、みんな、異なるアイドルの名前を出し、ばらばらなため共通の話題で語り合ったり、考えたりする時間にならないといったことも起きている。それではコミュニケーション能力は育まれない。
また、ドラマやバラエティ番組は、様々な事情やキャラを持った人達の、特殊な感情、その対処法や処世術も教えてくれる。AIが社会にどんどん進出していく中で、どちらの能力もますます重要になるはずで、そうしたことにもテレビは貢献できると思う。
今後、テレビやラジオが残っていくためには、やはり、「見たことがない」「驚くもの」「もう一度みたいもの」を作っていくことに尽きる。そしてそこに登場する芸人さんにも、同じことを期待している。
ネットで情報が共有される中、簡単ではないことは重々承知。それでもテレビにはまだまだのりしろ=可能性があるはずで、手間をかけ、時間をかけて知恵を出し合うことで、明るい未来が開けていくことを切に願っている。
この記事を書いた記者
- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。
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