センサ電子カーブミラー情報をワイヤレスで収集 NICT

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、徳田英幸理事長)のワイヤレスネットワーク総合研究センターは、第5世代移動通信システム(5G)の超低遅延通信等を活用した知的交通インフラの構築に向けて、神奈川県の横須賀リサーチパーク(YRP)に交差点を模擬した試験環境を構築した。この環境下において、カメラ/センサ内蔵の『電子カーブミラー』を活用することで、高度地図データベース(ダイナミックマップ)に反映を想定した時々刻々と変化する道路状況の情報を収集・統合することにより、見通しが悪い交差点付近の道路環境をリアルタイムに把握可能であることを確認したと発表した。この成果により、工事の回避や車の飛出しの予測などを支援し、今後普及が予想される自律型モビリティシステムを実現する知的交通インフラの構築が期待できるとしている。この成果の一部は、2017年度に総務省から受託した「膨大な数の自律型モビリティシステムを支える多様な状況に応じた周波数有効利用技術の研究開発」により実施したもの。  5月16日にNICTイノベーションセンター(東京都千代田区)で行われたNICTの会見で、ワイヤレスネットワーク総合研究センターワイヤレスシステム研究室研究マネージャーの石津健太郎氏が詳細を説明した。 NICTは、5Gを想定した無線通信を用いて、横須賀リサーチパーク(YRP)内に模擬交差点の試験環境を構築し、次の内容を開発・確認した。▽設置された電子カーブミラーには、センサとしてステレオカメラとLRF(レーザ測距器)が内蔵されており、車等の移動体や障害物の位置、速度、種類等をリアルタイムに認識▽画像圧縮や切出し等の情報処理によりデータ量を削減した後、5Gを模擬した無線システムによりエッジサーバーにセンサ情報を送信▽センサ情報のダイナミックマップへの反映を想定し、エッジサーバーでは、複数のセンサ情報から特徴量(位置、速度、種類など)を抽出して道路環境の変化を認識▽無線通信に起因する伝送時間の差異を吸収するため、認識した情報にはセンサ間で同期されたタイムスタンプを付与。エッジサーバーにおいて、センサ情報が統合され、同時刻の道路環境のスナップショットを生成。 これらの結果により、データ量の削減によって無線資源を効率的に利用しながらも、多数のセンサを活用して道路環境を高信頼に把握できることを確認した。 石津氏は電子カーブミラーの効果について「ビルの谷間や見通しの悪い交差点など、見通せない先の安全確保につながる。カメラを含む道路センサーにより交通環境をリアルタイムに認識する。無線通信により柔軟に設置・運用が行える」と述べた。 5Gを活用した『知的交通インフラ』については次のようにコメントした。「近い将来、自律型モビリティの普及が期待されている。自動車以外に建設機械や車椅子、ドローンなど広範にわたっており、こういった自動走行機能を具備した様々な移動体によって、物流ドライバー不足の解消や高齢者の移動手段の提供などへの活用が期待されている。ただ、自律型モビリティ単独の情報収集には限界がある。そこで『知的交通インフラ』を活用してスムーズな運転を行いたい。ひとつは『ダイナミックマップ』が必要だ。刻々と変化する現実世界の情報を含んだこの地図データベースは自律走行には欠かせない技術だ。ただ、様々なセンサ情報の収集が必要で、無線通信が不可欠だ。そこで、5Gの超高速・超低遅延の性能を活用する必要がある」と話した。 『電子カーブミラー』はステレオカメラ、無線通信装置、物体検出装置、LRF(レーザ測距器)で機器構成されている。今回は『電子カーブミラー』は物体検出の役割を持ち、センサやカメラにより道路状況を認識して無線通信により伝送する。ミラーの無線での送り先であるエッジサーバーはデータ統合とデータ収集の役割を持つ。ダイナミックマップ用データの生成も行う。道路変化の認識技術では、センサを含むカメラの画像から特徴を抽出して情報を圧縮。そして、各カメラの情報取得時刻を管理し、サーバー間において同期した一体情報を生成する仕組みだ。 今後は、構築した環境において5Gシステムを導入し、様々な無線システムとの性能を比較評価するとともに、物体数や移動速度が異なる場合や管理対象エリアが広い場合など、条件が異なる場合に求められる機能要件を確認して、より高度な自律型モビリティ社会の実現に必要な技術の確立を目指す。NICTは実運用は行わないが、目途として5G普及の鍵となる2020年度以降にサービス提供が進むとみている。