NICT、合成開口レーダーの高分解能化と技術実証に成功

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、徳田英幸理事長)は、電磁波研究所において、電波を使うことで昼夜・天候に左右されることなく地表面を画像化することができる航空機搭載合成開口レーダー「Pi―SAR X3」により、地表面観測の高分解能化を実現し、その技術実証のための試験観測に成功したと発表した。今回の分解能15㌢㍍は世界最高性能であり、従来比2倍の高精細画像が取得可能になった。この技術により、地震等の自然災害時における被災状況をより詳細に把握できるようになり、円滑かつ効果的な救助活動や復旧作業への貢献が期待できる。今後、同技術は、災害発生状況の早期把握や環境モニタリング及び、船舶や漂流物等の海面監視などの社会実装への取組を推進していくとしている。 「Pi―SAR X3」は地表面を昼夜・天候に左右されずに高分解能で画像化することができるシステム。合成開口レーダーでは、高い空間分解能を得るために合成開口処理とパルス圧縮処理を行っている。合成開口処理は、飛行方向の分解能を向上させる処理。一方、パルス圧縮処理は、飛行方向と直角方向(レンジ方向)の分解能を向上させる処理である。NICTの航空機搭載合成開口レーダーはX帯の電波(8~12GHz)のうち、従来の「Pi―SAR 2」では9・3~9・8GHzを使用していたが、「Pi―SAR X3」では9・2~10・2GHzを使用しており、送受信する周波数の幅(帯域幅)を拡張することによって分解能の向上を実現している。 合成開口処理とは、SARを搭載した飛翔体を直線に飛行させることで、仮想的に上空に大きなアレイアンテナを形成し、あたかも指向性の高い大きなアンテナで観測したかのような高い分解能で地表面を画像化する処理技術。合成開口処理による飛行方向の分解能は、仮想的に形成するアレイアンテナの大きさに比例して向上する。つまり、アレイアンテナが大きければ大きいほど、飛行方向の分解能を高めることができる。 パルス圧縮処理とは、送信する電波の周波数を線形変調させながら送信し、受信された信号を解析処理することで電力レベルの大きな単パルス波で観測した時と同じ高い分解能で地表面を映像化する処理技術。パルス圧縮処理によるレンジ方向の分解能向上は、送受信する電波の帯域幅に比例する。つまり、帯域幅が広ければ広いほど、レンジ方向の分解能を高めることができる。 NICTでは、航空機に搭載するX帯の電波を使った合成開口レーダーの研究を行い、分解能30㌢㍍で地表面を画像化することができるレーダー「Pi―SAR2」の開発を2008年に達成した。開発後に実施した試験観測や災害観測で得られた画像データは自らの応用研究で活用するとともに、他の研究機関や行政機関に提供することで利活用を進めてきた。また、開発した技術の一部は社会展開され、実用化が進められている。一方で、画像データを利用しているユーザからは、より高精細に地表面を画像化することができる新たなシステムへの要望があった。今回の成果は、その要望に応え、さらに技術の高度化を実現するもの。 NICTは、世界最高分解能15㌢㍍達成を実証するため、2021年12月に能登半島上空において「Pi―SAR X3」を搭載した航空機によって初の試験観測を行い、従来比2倍の高精細画像取得に成功した。同レーダーは、広帯域(従来比で2倍の帯域)に対応した送受信機とアンテナ、広帯域の受信信号を記録するための高速・大容量の観測データ記録装置(書き込み速度は従来比10倍、容量は従来比8倍)、及び観測して得られた観測データを準リアルタイムに処理して画像化する機上処理装置を搭載している。このような高精細画像を得ることができる「Pi―SAR X3」は、災害時の被災地状況の把握を効果的に行うことができ、救助活動や復旧作業の現場での利用が期待できる。また、「Pi―SAR X3」は上空から広域を高精細に観測できるため、船舶や漂流物等の海面監視への利用も期待できる。 今後は、システムの最適化を進めることで高画質化を進める。また、2022年度からは、地震等の自然災害のモニタリングや、土地利用、森林破壊、海洋油汚染、海洋波浪、平時の火口観測等の環境モニタリングに関する技術の高度化を実施するとしている。