新型コロナウイルスの感染リスク評価 産総研

国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の新型コロナウイルス感染リスク計測評価研究ラボは、大規模集会におけるリスク制御とコミュニケーションを目的に組織された有志研究チーム「MARCO」や公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)などと連携し、試合観戦時における観客の新型コロナウイルス感染リスクや対策効果の評価を行ってきた。このほど、「Jリーグの声出し応援段階的導入試合」の計12試合で声出し応援エリアを中心に調査を実施。それによると、試合中の声出し応援エリアのマスク着用率は94・8~99・8%だった。CO2濃度は平均で400~550ppmで、空気が停滞する状況は確認されなかった。今後も、Jリーグのガイドライン改定を通じ、感染リスク低減に貢献するとしている。 産総研は、6月11日、12日開催された「Jリーグの声出し応援段階的導入試合」のSTEP1の2試合(声出し応援エリア収容率25%)、7月2日と6日に開催された同STEP2の6試合(声出し応援エリア収容率50%)、7月30日と8月7日、10日、14日に開催された同STEP3の4試合(声出し応援エリア収容率50%)において、カメラ撮影・AIを用いた画像認識によるマスク着用率の評価等の感染予防対策の実施状況に関する調査を実施した。 今回の調査において、声出し応援エリアの試合中のマスク着用率は、観客のマスク着用率をAIによる画像認識を用いて評価したところ94・8~99・8%で、不織布マスクを着用して応援するというルールが遵守されていたことを確認した。今回確認されたマスク着用率は、声出し応援再開前のマスク着用率である94・3%をすべての会場で上回っていた。 声出し応援エリアの観客間距離は、AI画像認識による位置情報を用いて評価したところSTEP1では試合中94・5~97・0%で格子の座席位置が保たれており、座席間隔も適切に守られていることが確認された。座席位置が守られていないケースの大半は、子供が親と近くにいるケースであることが確認された。 CO2濃度は、声出しエリア、一般席ともに、平均で400~550ppm、高くても750ppm程度であり、試合終了後のCO2濃度がすぐに低下することからも、空気が停滞する状況は確認されなかった。ホーム側応援席の声出し応援時間は、120分中60~62分で試合時間の5割程度であることを確認した。 現地で声出し応援以外の席については、現地を視察する限りにおいて、声出し応援禁止席の観客が声出し応援をしている様子は確認されなかった。また、ホームゴール裏の声出し応援席とバックもしくはメインの声出し応援禁止席で観測した音声量について、AIで応援音声を切り出した後、打楽器・拍手音を抑圧した信号のパワーを比較した結果、声出し応援禁止席のパワーは声出し応援席の平均で半分程度となり、声出し応援禁止席で声出し応援しているような状況ではないと評価された。声出し応援席の観客が感染予防に対する高い意識を持っていたことが伺われた。 今回得られた結果から、今回の調査の範囲においては、多くの観客がJリーグの「声出し応援に関するガイドライン」を遵守して観戦していたことを確認した。 これらの結果は、Jリーグの運営検証に基づくガイドライン改定に貢献するとともに、9月5日に開催された第62回NPB・Jリーグ 新型コロナウイルス対策連絡会議にて報告された。今後、スタジアムなどの大規模集客イベントなどで実施されている感染予防対策の効果の評価、対策の指針作りなど、新型コロナウイルス感染リスク評価や対策の評価に貢献するものとしている。  産総研は、これまで政府、Jリーグらと連携して、スタジアムなどでの観戦における新型コロナウイルス感染予防のための調査を継続して実施しており、観戦時の観客のマスク着用の有無や、応援方法、スタジアム内の歓声などを評価する調査や感染リスク評価に関する研究を進めてきた。 Jリーグなどのイベントでは、原則として声出し応援は禁止されていた。しかし、応援は、スポーツ観戦の楽しみの一つであり、高揚感や選手との一体感を得ることができ、コロナ感染拡大前の日常を取り戻すためにも、声出し応援の再開が待望されている。その際の感染リスクや各種対策を評価することは重要であり、2022年6月10日に「スポーツイベントの声出し応援に関する新型コロナウイルスの感染リスク評価 ―その1 声出し応援段階的導入試合の事前評価―」を公開した。これらの情報は、Jリーグに情報提供され、6月の公式試合における声出し応援段階的導入計画の声出し応援に関するガイドラインの設計に活用されている。