高輪を「未来への実験場」に KDDIが新社屋で会見、JR東日本と進めるまちづくりプロジェクトを公開

 KDDIとJR東日本は7月24日、東京都港区高輪のKDDI本社新社屋で会見を開き、「高輪からはじまる未来への実験場」と題したまちづくり構想の詳細について発表すると共に、新社屋内外での取り組みや実証デモ等を報道陣に公開した。
両社は2020年12月、場所や時間にとらわれない多様な働き方やくらしを創出する新しい分散型まちづくり「空間自在プロジェクト」の実現に向け基本合意書を締結。2022年10月から、離れていても同じ場所にいるかのようにチームでのコミュニケーションが可能になる「空間自在ワークプレイスサービス」の提供を開始し、2023年1月から、画像解析技術と連携した都市データ連動型ロボット配送サービスの検証を実施した。
 これら実証を経てJR東日本は2025年3月27日、品川車両基地跡地に「100年先の心豊かなくらしのための実験場」のビジョンを掲げる「TAKANAWA GATEWAY CITY」を開設。高輪ゲートウェイ駅と正面に位置するツインタワー「THE LINKPILLAR 1 NORTH/SOUTH」をはじめ、オフィスやホテル、商業、住宅からなる南北約1・2㌔のスマートシティを展開している。
 これに伴い、KDDIでは7月1日付で本社機能を同ツインタワー内に移転。グループ社員約1万3千人をモデルケースにJR東日本とのまちづくりに向けた共創パートナーとして、同社の進めるビジネスプラットフォームを活用したWAKONX SmartCity(ワコンクロススマートシティ)や、データ連携基盤(デジタルツインプラットフォーム)による新しいサービスに向けた実験を進め、将来的には他の都市や地方に合わせた全国展開を進めていくとしている。
 会見では、実験の具体的な二本の柱として、街に訪れる人に提供する「ハイパー・パーソナル体験」と、街で働く人に提供する「ハイパー・パフォーマンス体験」について発表した。
 ハイパー・パーソナル体験の例として、「タッチトリガーによるまちアプリを通じたプッシュ配信」は、専用のアプリを入れたスマートフォンから高輪ゲートウェイ駅の改札を通過すると、その時に開催されているイベントや店の混雑情報など、個人の趣味嗜好に合わせてパーソナライズされた情報をプッシュ通知。一人ひとりの状況や行動・趣味嗜好にあわせて最適なタイミングで情報を伝えることで、街への参加を促し行動の選択肢の幅を広げる。またデジタルツインプラットフォーム上で、防犯カメラデータを用いて来訪者の属性や状況をAI分析し、この分析結果を元に、回遊ロボットが来訪者の好みに合わせたサンプルの配布や商品販売を実施。来訪者の潜在ニーズにリーチし、街での体験価値を高めることを目指すとしている。
 またオフィスワーカー向けのハイパー・パフォーマンス体験については新社屋内で展開する各種実証事業を紹介。新本社コンセプトとして「Connectable City」を掲げ、「コラボレーション強化」と「パフォーマンス向上」に向けた取り組みとして、コンビニ大手ローソンと連携して新社屋内に開店した超省人化対応のオフィス特化型コンビニ店舗「Real×Tech LAWSON」や、同店舗の商品配送や社食、社内便等、ビル設備と連携した配送ロボットサービス、顧客やパートナー企業との共創拠点「TSUNAGU BASE」等を紹介した。
 会見したKDDIの松田浩路代表取締役社長CEOは、「情報通信インフラを担う企業としてつなぐチカラにこだわり、2030年ビジョン『つなぐチカラを進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる』の実現に向けて取り組んできた中、22年ぶりに本社移転の運びとなった。ここ高輪はイノベーションの発祥の地とも言われる。日本初の鉄道が未来へのレールを敷いたこの場所から私たちのビジョン実現に向けて新たな挑戦、大いなる未来への実験の挑戦を始めていきたい。鉄道誕生は人々の生活や移動概念を大きく変えた。私たちもここ高輪で生まれる新しい取り組みを迅速に全国に広げたい。人々の体験そのものをより進化させていきたいと考えている。自前主義にこだわらず多様なパートナーとともに個性を生かしてつながり、よりスピーディに社会課題の解決に取り組むことがKDDIの使命と考える。鉄道が高輪から全国に一気に広まったように通信もつながるのが当たり前のところまで発展してきた。このつなぐチカラを進化させ、新しい価値を生み出す実験を開始し、新たな次元にアップグレードする挑戦をスタートしたい」と話した。
 またJR東日本の喜勢陽一代表取締役社長は、「TAKANAWA GATEWAY CITY」の3大テーマとして、「環境」「モビリティ」「ヘルスケア」を掲げ、このテーマ実現に向けてさらに「人財・叡智」「医療」「水素・GX」の3つを軸に取り組みを進める考えを強調した。
 そのうえで「ここ高輪は今から約150年前に海の上に築堤という堤防を築いて初めて日本の鉄道が走った地。西洋の蒸気機関と日本の土木技術や知恵を融合させたこの高輪地区では私たち鉄道人にとって正に始まりの地で鉄道が明治日本の近代化の象徴だったように日本のイノベーションが始まった地でもある。このまちの持つ歴史的系譜をしっかりと受け継ぎ、今再び新たなイノベーションを生み出し、次の100年に向けてより豊かで持続可能な社会と地球益の実現をしていきたい。KDDIさんのデジタル分野の先進的技術力と知見、この町のアセットを掛け合わせて未来に向けた様々な実証実験に努め、その成果を世界に向けて発信、社会実装する。共創による大いなるチャレンジが今ここから始まる」と力を込めていた。