ウイルが創立30周年 有働代表取締役に聞く
株式会社ウイル(WILL、神奈川県大和市下和田765-3、有働純一代表取締役)は、テレビやラジオ等の放送電波が視聴者・聴取者にしっかり届くように、東京タワーや東京スカイツリー等日本全国の中継放送所の建設・保守を通して、公共の放送電波を守り国民生活の安全安心に貢献している企業である。同社の設立は1996年6月19日で、今年創立30周年を迎えた。社是は「日本一の下請け」並びに「電波を守る」である。創立30周年を記念して有働代表取締役=写真=に社是にかけた思いなどを聞いた。
――社是への思いをお聞かせください
「30年前、有働及び創立メンバーが10名ほどの仲間と共に前社より独立、ウイルを設立し、放送や通信などのインフラ工事専業業者として産声を上げました。2011年に社長に就任し、社是を『日本一の下請け』『電波を守る』と掲げ、日々挑戦を続けてきました。我々は放送や通信インフラを支えている元請各社様の下請けとして、放送や無線通信の電波の基盤を支えています。目立たない存在ですが下請けとして皆さまのお役に立てていると自負しております」
――放送の電波確保では、過去の災害時に大きな活躍をされたと聞きました
「過去には、2000年の三宅島大噴火、2004年の中越地震、2011年の東日本大震災、昨年の能登半島地震・水害などあらゆる災害に、いち早く電波確保のための対応に努めてきました。全国で災害が起きると、要請を受ける前に準備を進め、元請様から要請があり次第、いち早く現地に駆けつけます。これは、「電波を守る」という思いを、社員が日頃から全員で共有しているからです。なかでも、東日本大震災の際には、当時放送のシンボルであった東京タワー頂上のアンテナが曲がり、放送歴史上、最大の危機となりました。もし東京タワーから放送が出来ないとなると、関東圏の2000万を超える世帯へライフラインの一つであるテレビ電波が届かなくなります。
地震発生時、偶然にも当社の社員が現地にてアンテナの点検中でした。地上からみても明らかに東京タワーの頂上にあるNHKの放送用アンテナが曲がっており、いつ倒れて来るかも分からない状況でした。余震が続く中、頂上に登ってアンテナの状況を調べて欲しいとの要請が来た際に、当社の工事長が私に電話で許可を求めてきました。『社員の生命を守る』か『電波を守る』の選択をする余地もなく、現地の緊張感をひしひしと感じ『気を付けるんだぞ』としか言えませんでした。このように強い責任感と使命感を持つ社員やパートナー会社に支えられ、会社は一歩一歩『電波を守る』、『日本一の下請け』として歩んでくることができました。そして気が付いてみると30周年を迎えていたという感じです。
どうしても被害が甚大であった東日本大震災の話が多くなりますが、東京タワーだけではなく、被災された東北地方の電波復旧のためにさまざまな取り組みを行いました。例えば、放送の中継局が東北地方にも何百とあるのですが、そのうちの数十ヵ所が停電の為に電波が出せないという状況に陥りました。地震発生当初は、中継所備え付けの自家発電装置で放送が継続出来るようになっているのですが、停電が長期間に渡ると、自家発電装置の燃料が枯渇します。東北地方全体でも燃料が枯渇しており、緊急用のバックアップ電源と、その燃料であるガソリンを、神奈川の本社から東北まで届けるわけです。関東でも地震直後は燃料が不足しており、ガソリンスタンドでは少量しか売ってくれません。そこで社員は手分けしてガソリンをかき集めて東北に運びました。まさに『電波を守る』という社是を社員一人一人が深く理解し、強い使命感の元、率先して動いたエピソードです。
今後も、元請様そしてその上の放送事業者様の電波確保に向けて、その一助になるような取り組みを、平時での備えも含め、30年変わらぬ社是への思いを胸に挑戦してまいります」
※2011年3月11日、東日本大震災が発生した時、東京タワー高さ333㍍の鉄塔で変形したテレビ放送送信アンテナを復旧すべく作業を続けた人たちがいた。古河C&B株式会社(現在はミハル通信株式会社に全事業を譲渡)と関連会社の従業員だった。その後、いくつかの専門誌や業界紙などでは紹介されたが、一般にはあまり知られていない。
――今後の抱負をお話しください
「被災者への調査で、『震災後1週間で欲しい情報が得られたかどうか』について調査したところ、「テレビ」で欲しい情報が得られたという比率が一番高かった。という調査結果もあります。災害後の情報手段では携帯電話もありますが、やはりテレビ放送網というインフラの信頼性を認識して、我々はそこを守っていかなければいけない。何度も掲げますが『日本一の下請け』並びに『電波を守る』ことをウイルとして常に目指し、継続していくことです。」

※株式会社ウイルは、1996年6月19日に設立。事業内容は
▽デジタルテレビ送信設備工事
▽FM送信設備工事▽行政防災無線整備工事
▽消防無線設備工事▽データセンター等の無線通信設備工事
▽LAN配線工事▽放送局の各種通信工事
▽移動体通信設備工事▽各種テレメータシステムの整備工事など。
資本金は8千万円。従業員数は75名。特許取得済みは4件、特許申請中は14件。商標登録済みは3件。
テレビ放送のデジタル化、4K放送、8K放送、東京スカイツリーの稼働、携帯電話の多機能化など、目まぐるしく放送・通信を取り巻く環境は進化し続けている。放送・通信の要というべき電波という私たちの目には見えない技術を支えるのが『アンテナシステム』。
『アンテナシステム』はこれまでも、そしてこれからも私たちを取り巻く無線技術を支えていく。
このように株式会社ウイルを取り巻く環境が変化をし続けていくなか、〝信頼と実績で安心を伝える〟株式会社ウイルは、これまでの実績を糧に進化への挑戦をし続けていく。
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
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