次世代長距離ワイヤレス送電の確立に新たな一歩 NTTと三菱重工、レーザ無線給電で世界最高効率を達成

NTT(東京都千代田区、島田明代表取締役社長)と三菱重工(東京都千代田区、伊藤栄作代表取締役社長)は、レーザ光を用いて1km先にワイヤレスでエネルギーを供給する光無線給電実験を実施した。光パワー1kWのレーザ光を照射し、1km先で152Wの電力を得ることに成功。大気の揺らぎが強い環境下でシリコン製の光電変換素子を用いた光無線給電として世界最高効率の実証といい、将来的には電力ケーブルを引くことが難しい離島や被災地などへのオンデマンド給電への応用が期待されるとしている。
近年、スマートフォンやウェアラブルデバイス、ドローン、電気自動車など、ケーブルを使わずに電力を供給できる無線給電技術が関心を集めている。無線給電方式としてマイクロ波を用いるものとレーザ光を用いるものがあり、中でもマイクロ波無線給電は既に実用化されており、利用が広がっている。レーザ光を用いた光無線給電は実用化に至ってはいないが、レーザ光の高い指向性を活かし、小型かつkmオーダの長距離無線給電が実現できるとして期待されている。
 一般にレーザ無線給電技術は効率が低く、実用化に向けて効率向上が課題となっている。要因の一つとして、特に大気中など、長距離レーザ光が伝搬すると、強度分布が不均一となり、光電変換素子でレーザ光を電力に変換する際の効率が低くなってしまうことが挙げられる。
今回、NTTの持つビーム整形技術と、三菱重工の持つ受光技術を組み合わせ、レーザ無線給電の高効率化を図った。光を送る側ではレーザ光の強度を1km先で均一化する「長距離フラットビーム整形技術」を、光を受ける側ではホモジナイザや平準化回路により大気の揺らぎの影響を抑制する「出力電流平準化技術」を用いて、屋外環境において長距離光無線給電実験を実施した。
 実証は2025年1月から2月にかけて、和歌山県西牟婁郡白浜町にある南紀白浜空港の旧滑走路で実施した。レーザ光を送る光学部品を格納した送光ブースを滑走路の端に設置し、1km先に受光パネルを格納した受光ブースを設置。送光時の光軸の高さは地面から約1mと低く、かつ光軸が地面水平方向であるため地面の熱や風の影響を強く受ける、特に大気の揺らぎが強い環境下で実験を行った。
 送光ブースでは出力1035Wのレーザ光を発生させ、回折光学素子で1km先で強度分布がフラットになるようにビームを整形。さらに受光パネルに正確に照射するために、方向制御ミラーでビームの方向を調整した。ビームは、送光ブースの開口から射出され、1kmの空間を伝搬して受光ブースへ到達。伝搬中の大気の揺らぎによって生じる強度スポットは受光ブースのホモジナイザで拡散されて、均一なビームが受光パネルに照射され、レーザ光が高効率に電力に変換される。受光パネルにはコストと入手性を考慮してシリコン製の光電変換素子を採用した。
 実験では受光パネルから取り出せた電力は平均152Wとなり、効率(送光パワーに対する受電パワーの割合)15%の光無線給電に成功した。この結果は、シリコン製の光電変換素子を用い、かつ、大気の揺らぎの強い環境下での世界最高効率の光無線給電実証。また実験では30分間の連続給電にも成功しており、本技術で長時間給電できることを確認したという。
 技術の主なポイントは次の通り。
 ①長距離フラットビーム整形技術:光電変換効率を向上させるためには、光電変換素子に照射するビームの強度分布を均一にする必要がある。そこで今回、長距離伝搬後にビームの強度を均一化するビーム整形手法を提案した。ビームの外周部分はアキシコンレンズの効果によりリング状のビームとなり、中心部分は凹レンズの効果によりビームが広がるように位相を変調し、伝搬後にリングビームと拡散ビームが重なりあうことで強度が均一に。実験では1km先で所望の強度分布となるように設計を最適化し、回折光学素子を用いてビーム整形を実装し、1km先でのビームの強度分布の均一性を向上させた。
 ②出力電流平準化技術:大気中を伝搬したビームは、大気の揺らぎの影響を受けて強度分布が乱れる。フラットビーム整形技術によって、ある程度ビームの強度分布を均一化できるが、大気の揺らぎが大きい場合、強度の高いスポットが生成される。この問題に対処するため、受光パネル手前にビームホモジナイザを設置し、強度の高いスポットを拡散させて受光パネルに均一にビームが照射されるようにした。さらに、受光パネルの各光電変換素子に平準化回路を接続することで、大気の揺らぎによる電流の変動を抑制し、出力の安定化を実現した。
 各社の役割として、NTTはビーム整形技術等の送光光学系の設計および実装、三菱重工は受光パネル、ホモジナイザ、平準化回路等の受光光学系の設計および実装を担当した。
 本技術は、大気の揺らぎがある環境においても、高効率に安定して長距離エネルギーの伝送が可能に。実験では、光電変換素子にシリコンを用いたが、レーザ光の波長に合わせて設計した光電変換素子を用いることで、より高効率な給電が見込まれる。また、よりパワーの大きいレーザ光源を用いることで、より大電力を供給することも可能。
 従来は電力ケーブルの敷設が困難だった離島や被災地などの遠隔地にも、柔軟かつ迅速な電力供給が可能となる。また技術の組み合わせで、飛行中のドローンへの給電が可能となり、長時間・長距離の連続運用に期待できる。
 また災害発生時の被災地モニタリングや、「宇宙太陽光発電」への応用などにも期待できるという。