業界全体で社会インフラ作りへ デジタルテスト推進協会設立記念セミナー開催

 一般社団法人デジタルテスト推進協会(東京都港区、佐藤信也理事長、DiTA)は10月24日、東京都中央区の内田洋行新川本社でデジタル庁後援による設立記念セミナーを開催した。協会設立の趣旨や概要について紹介したほか、文科省やデジタル庁関係者、電気通信大学大学院情報理工学研究科の植野真臣教授らによるパネルディスカッションを実施し、試験を巡る現況や課題等について意見交換した。
同協会によると、国内の試験・学習のデジタル化は2000年頃のCBT(Computer Based Testing)方式の導入やeラーニングの活用を機にスタート。その後、緩やかなペースでアナログからの移行が進んでいたが、2020年のコロナ禍を機に、会場型紙試験が実施できなくなり、また社会全体でもWeb会議が急速に普及したことに伴い、民間資格や企業内資格のデジタル化が加速した。
 2024年のマイナンバー法改正による84国家資格のデジタル化決定や司法試験のCBT化方針発表など、デジタル庁によるデジタル化戦略の後押しにより本格的な実装に向けた新たな局面を迎えている一方、デジタルテストへの理解不足や省庁間での重複投資、統一ガイドラインの不在といった構造的課題が存在していること等を背景に、試験業界全体では温度差が存在。利便性からオンライン試験の継続・拡大に前向きな企業側と、対面型試験への回帰が進む教育機関側との隔たりや、同じ教育機関内でも運営効率を重視する職員側と教育的観点を重視する教員側でデジタル化への姿勢に差があるという。
 DiTAは、試験・講習業務のデジタル化を推進し、受講者や受講生に利便性の高い環境を提供するとともに、試験実施団体の業務効率化を支援することを目的に2025年7月1日に設立した。試験や講習をデジタル化する際の本質的な意義やメリットが十分に理解されないままにデジタル化への検討が進み、かえってアナログ時と比べて効率化やコスト削減が図れていないといった状況を解決するため、受付や問題作成、試験の実施や採点、データ管理といった試験・講習業務の包括的デジタル化に向けた手法や技術研究とその普及啓蒙を主な活動方針としている。
 役員体制としては、イー・コミュニケーションズ代表取締役の佐藤信也氏が理事長を、一般社団法人国際ビジネスコミュニケーション協会常務理事の永井聡一郎氏が副理事長を務める。このほか理事として、▽学研ホールディングス執行役員・谷口正一郎氏▽プロメトリック副社長執行役員・滝田裕三氏▽全国試験運営センター代表取締役社長・都築成幸氏▽ナショナル・コンピュータ・システムズ・ジャパン代表取締役・満留俊介氏▽内田洋行執行役員教育総合研究所長・伊藤博康氏―。監事をEduLab代表取締役社長兼CEO・広実学氏が務める。
 主催者を代表して佐藤理事長は、「近年社会全体でデジタル化が急速に進み、教育界でも変革の波が押し寄せている。民間検定や国家資格でも試験が紙からコンピュータへ、会場からオンラインへ移行する流れができているが、その一方でどうすれば安全で公平なテスト運営ができるか、どのように受検者の体験が高められるかといった課題も日々増え続けている。私たちはこうした課題を業界全体で協力して乗り越える仕組みを作りたいという思いで協会を立ち上げた。デジタルテストは単なるシステムの置き換えでなく試験の公平性、利便性、信頼性を新たな次元に引き上げる社会インフラ作りと考えている」とあいさつ。国内でのデジタル化率は2割程度にとどまっているとし、今後3~5年後までに6割程度まで引き上げたい考えを示したほか、デジタル認定証のガイドライン策定や試験業務へのAI導入を進めていく方針を示した。
 来賓として文部科学省大臣官房審議官の橋爪淳氏は、「文科省でも教育DXの推進は大きな課題となっている。そのためのインフラとしてGIGAスクール構想や公的CBTシステムであるメクビットの開発整備運用に取り組んでいる。単に紙からデジタルへというだけでなく、場所や時間的制約を超えるほかビッグデータ蓄積による分析、実施側の負担も軽減し働き方改革につながるなど可能性を秘めている。AIの活用など学びの進化に大いに貢献できる試みだが、定着には信頼性や安全性も大前提。未来に向けての可能性と課題解決を提案してもらい、日本を元気にするプラットフォームとなるよう期待したい」と話した。
 またデジタル庁国民向けサービスグループ審議官の上仮屋尚氏は、「デジタル庁ではオンラインでの資格登録や証明、戸籍等の写しを添付しなくてもバックヤードでできるシステムを構築し、120の国家資格で法律改正をして活用を進めている。更新や取得後の講習など手が回っていない中でこの話があり、連動する形でできればと思いわくわくしている。国家資格だけでなく民間での検定のデジタル化も重要。マイナカードを活用することで本人確認や試験会場を確認する試みも検討いただいている。インフラ活用等支援させていただき、検討進めることで日本全体でデジタル化を進めて豊かで安全な社会を作っていきたい」と話していた。
 セミナーではこのほか、協会が作成したデジタルテスト白書の紹介やデジタルテストへの期待や課題、「一気通貫のデジタルテストエコシステム」への期待等を議題としたパネルディスカッションが行われた。 

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。