工場DXの加速に貢献 NTTと東芝、生産設備の高速制御を実現

 NTTと東芝は、NTTのIOWN構想の中核技術である「All Photonics Network(APN)」および「RDMAアクセラレーション技術」と、東芝が開発したクラウド型PLC(Programable Logic Controller)「Meister Controller Cloud PLCパッケージ typeN1」を活用した共同実験により、約300km離れた拠点から制御周期20ms以内での生産設備の遠隔制御と、業界標準要件である1設備につき4fps(250ms)という短時間でのAI外観検査に製造業界で初めて成功したと発表した。同成果は、製造業が直面する人材不足や技術継承の課題に対し、クラウド移行による柔軟かつ効率的な制御環境の提供を可能にするものであり、工場DXの加速に大きく貢献するものとしている。
 製造業では、少子高齢化による働き手不足やベテラン技術者のスキル継承が喫緊の課題となっている。東芝は、2024年5月に業界内で先駆けて、インターネット回線を用いたクラウド型PLC「Meister Controller Cloud PLCパッケージ typeN1」の提供を開始し、ローカルのOTシステムのクラウド移行を実現した。
 これまでは、制御における応答性能が比較的緩やかな製造ライン向けにクラウド型PLCの提供を進めてきたが、今後適用範囲を拡大するためには、低遅延かつゆらぎの少ないネットワークが必要だった。そこで、NTTのAPNの低遅延でゆらぎの少ない通信特性を生かしてクラウド型PLCの制御周期を高速化し、その適用範囲を拡大すべく、両社での協議を開始し、共同実験を実施した。
 研究により、NTT武蔵野開発研究センタに構築した模擬環境で、生産設備から300km離れたクラウド型PLCにより、制御周期20ms以内の生産設備の遠隔設備制御に成功。20msの制御周期を実現することで、自動車産業の生産ラインなど高速な制御が必要な設備要件を満たすことが可能となる。また、NTTドコモソリューションズの画像認識AIソリューション「Deeptector」とNTTのRDMAアクセラレーション技術を活用することで、製品の外観検査においてローカル環境と同等の水準で300km離れた地点間でも実現可能であることを確認した。
 PLCの設定情報をクラウド上でメンテナンス可能とすることで、生産ラインの新設・設定変更が実施できるようになり、現地派遣工数の削減と、複数の工場を跨る生産性向上が期待される。さらに、生産ラインでの外観検査AIのクラウド移行が可能となることで、クラウドの柔軟性を活かした運用が実現し、複数工場における品質の標準化にも寄与する。
 技術の主なポイントは次の通り。
 ①NTTのIOWN APN:エンド・ツー・エンドでの光波長パスを提供する波長ネットワークにより、現在のエレクトロニクス(電子)ベースの技術では困難な、圧倒的な低消費電力、高速大容量、低遅延伝送の実現をめざす技術
 ②NTTのRDMAアクセラレーション技術:短距離での大容量低遅延データ転送が可能なRDMA通信に対し、転送性能を維持したままAPNを介した中長距離へ延伸することを可能にする技術
 ③東芝のクラウド型PLC技術:制御機能にあたる「制御コア」をクラウド上に実装する仕組みや、クラウド・エッジ間通信を独自開発することで、従来、現地で行われていたPLCによる制御系システムの構築・メンテナンス作業をクラウド上で完結可能な技術
 各社の役割として、NTTはIOWN APNとRDMAアクセラレーション技術を活用した制御実験系の構築と評価を、東芝は産業用コンピュータ・制御ソフトウェアの提供と制御周期評価を担当した。

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kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。