防災科研、世界最大級の実大3次元震動破壊実験施設「E―ディフェンス」
国立研究開発法人防災科学技術研究所(防災科研、茨城県つくば市、寶馨理事長)は、11月27日に東京会議室(東京都港区)で、「令和7年度 第2回災害レジリエンス共創研究会」を開催した。今回は「地震災害に負けない都市と建物を目指して ~震動台実験と数値シミュレーションによる耐災工学的アプローチ~」と題して講演を行った。司会は田端憲太郎・都市空間耐災工学研究領域長代理、兵庫耐震工学研究センター副センター長が行った。
防災科研では、将来の大規模地震に備え、社会経済活動を確実に継続できるレジリエントな社会の実現を目指し、地震の強い揺れを再現できる「兵庫耐震工学研究センター」内の世界最大級の実大3次元震動破壊実験施設「E―ディフェンス」(兵庫県三木市)を活用した研究開発を推進している。
地震災害へのレジリエンスを高めるためには、社会が直面し得る『未然の被害』を的確に見極め、適切な対策を講じることが不可欠だ。発災前の被害リスク予測、発災直後の被害把握とその後の次なるリスクの評価により、未然の被害に備えた信頼性の高い意思決定を支える技術の開発が重要となる。
同研究会では、防災科研が産学官連携で取り組む『未然の被害への対策技術』として、建物のダメージ評価技術や数値シミュレーション技術の最新動向を紹介した。あわせて、社会経済活動を担う民間企業などとの共同研究や技術実装の可能性について意見交換を行い、連携による新たな防災科学技術の発展に向けて、実践的な議論を深めた。
冒頭で、寶理事長が次のように挨拶した。
防災科研は地震、火山、津波、極端気象、豪雨、土砂災害、それから雪氷災害など様々な災害を取り扱っている。その対策とともに、災害後も社会経済活動が確実に継続できるようにレジリエントな社会の構築に向けて研究開発を行っている。
本日は実大3次元震動破壊実験施設、通称は「E―ディフェンス」をテーマにした。「E―ディフェンス」を活用した都市の耐久性向上に向けた研究開発の現状について、防災科研の研究者とともに共同で研究に取り組む企業の担当者が講演する―と話した。
「E―ディフェンスを活用した都市の耐災性向上を目指した研究開発」と題して、中埜良昭・都市空間耐災工学研究領域長、兵庫耐震工学研究センター長が講演した。講演要旨は次の通り。
1995年に発生した兵庫県南部地震がE―ディフェンスと大きな関わりを持っている。この地震は、我々が関係する地震工学の分野では、強烈な地震動(キラーパルス)の発生メカニズムの解明など多くの教訓が得られた。構造物の破壊のメカニズム、過程はどうだったか。我々被害調査に行ってセンサー等は付いていないので当時はわからなかった。診断、補強というキーワードも出てきた。応急危険度判定などチェック体制も大事になってきた。これがE―ディフェンス開発の発想につながった。破壊メカニズム、破壊過程をしっかり把握して対策に活かしたいとの考えだ。
ここでは実際の地震動を再現する。本物のスケールの構造物を壊して、破壊の過程からデータを分析して破壊メカニズムを知る。その対策を考える。そこで世界最大の三次元震動台が、10年ほどかけて設置されて、2005年から運用を開始している。
具体的には、重さ1200㌧の実物大規模の構造物を、3次元の地震動で、破壊するまで揺らせる世界最大(20㍍×15㍍)の震動台実験施設となっている。兵庫県南部地震、東北地方太平洋沖地震が再現できる。
ここで取られたデータをアーカイブして、データを公開する、それを再現するプログラムを開発して、オープンになる形で展開している。
様々な実験的な研究を行ってきた。例えば耐震診断、耐震補強に関係する補強技術の開発検証や、室内空間において、医療機器が震災後もすぐに動かなければいけないのでしっかり動くようにするにはどうすればいいのかまで、新たな設計手法を提案して検証する。建築学会のガイドラインに反映させることも行っている。
都市のレジリエンス向上の実現に向けて様々なことを実現したいと考えている。それらが積み重なって、安心して住めるような街づくりとなって、地震後も快適な都市空間を確立できるようにする。ゴールを達成するための共有の課題を特定して、これを解決するための研究開発を進める上では、様々な機関と共創、連携することが有効な手段と考えている。
続いて「地震後の意思決定を支援するLED光アラートシステムの開発」と題して、藤原淳・都市空間耐災工学研究領域、兵庫耐震工学研究センター特別研究員、神崎喜和・不二サッシ技術本部管理部長が講演した。
藤原氏の講演要旨は次の通り。
LED光アラートシステムは、民間企業や大学と共同開発した。南海トラフ巨大地震や首都直下地震といった甚大な被害を及ぼすと懸念される地震が懸念されている。大地震による被害から普段の生活や経済活動を維持継続するには、建物等の構造物を耐震化することが不可欠である。その時に、大事な情報は、建物の揺れの特性を知ることが有効だ。建物にどういった損傷が生じて、今後継続できるかが大事な視点である。そして、避難等の防災行動につながるのではと考えたことが研究の背景だ。
LED光アラートシステムは、建物の揺れの特性や建物の損傷を判断して、それを周りに即時に伝えるもの。概要をみると、オフィスビル等の複層階の建物において、外装材で覆われている部分、ここではカーテンウォール、窓枠など部材にセンサーを設置する。センサーで得た揺れのデータで建物の動的特性を評価する。
そして、その外装材にLEDの発光表示システムも備えて、そこで測定した揺れの情報、推計される内部の危険を即時発光することで防災行動等につなげていく。
今回、共同研究した不二サッシはすでにLEDを内蔵したカーテンウォールを製品化しており、組み合わせて何かできないかということが契機となっている。そして愛知県豊橋市、名古屋大学、東京大学を加えて、実証実験につなげた。
試験体の大きさは平面寸法で12㍍×8㍍、高さ27㍍で10階建で、E―ディフェンスで実験できる試験体として最大規模である。震動台上にこの建物を据えて、兵庫県南部地震等を再現して2023年に実験を行った。地震の揺れを検出したら発光表示する。LEDライトが2本セットになっており、内側はこれまでの地震の中で計測した最大の揺れの値を、右側は現在の揺れの値を表示している。内側が赤くなると、相当危険なレベルまで変形が生じたということになる。その時に外側が白に戻っていたら、残留する変形は計測されなかったとなる。損壊状況だけでは、途中の損傷状態は分からないが、ここでは途中経過も分かる。現在もこの建物によるシミュレーション研究は継続して行っている。
不二サッシの神崎氏の講演要旨は次の通り。
災害での建物の損傷度を、視覚的に伝達するアラート機能を備えたLEDアラートシステムの開発に着手した現在、実用化に向け、産官学連携で開発を進めている。
LED光アラートシステムは、カーテンオールやサッシにLED照明を組み込んだ。不二サッシ既存の光建材商品を使用して、緊急時に建物の室内及び室外からLEDの発色や点灯パターンを変更することにより、瞬時に建物の応急危険度判定が行える。
不二サッシオリジナルの薄型LEDモジュールを内蔵して、LEDユニットが建材に組み込まれている。平時には、照明器具として使用し、緊急時には発光の色を変化させて周囲に注意を促すシステムである。カーテンオールやサッシのフレームには角速度センサーや傾斜計が組み込まれておりそこで計測してデータを取り込み、あるアルゴリズムによって、建物の層間変形角を算出する。そして、先ほど話のあったE―ディフェンスで実証実験を実施し、様々なレベルと特性の地震動で加震を繰り返し、光アラートシステムの動作検証を行って成果を得た。
地震が起きた直後には、建物が受けた損傷の度合いを瞬時に把握して、安全に建物が使用できるかどうか判断する仕組みが不可欠だ。しかし現在は、被災建物、建築物の応急危険度判定においては、認定された判定士の目視による判断に頼る以外、手段がない。多大な時間とコストがかかる。今回のシステムで、それらの課題を解決するために、カーテンオールなどの非構造部材にセンサーを組み込んで、自動危険判定とLEDを使った即時緊急表示装置を組み合わせたシステム。今後は避難所となる建物や重要施設での設置を提案している。
この後、「数値震動台の強みと都市空間への展開」と題して山下拓三・都市空間耐災工学研究領域、兵庫耐震工学研究センター主任研究員、「建築構造分野での数値シミュレーションの活用」と題して坂敏秀・鹿島建設技術研究所建築解析グループ上席研究員、「共用施設としてのE―ディフェンスと公開データベース」と題して河又洋介・都市空間耐災工学研究領域、兵庫耐震工学研究センター運営管理室長、主任研究員が講演した。続いて、パネルディスカッション、意見交換が行われた。
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
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