【独自】新春に語る イートラストの防災監視エッジAIカメラ
イートラスト(東京都台東区、酒井龍市代表取締役社長)は、「社会に必要とされる存在」であり続けることを経営方針に掲げ、電気・情報通信の分野で防災や環境に関わる多くの公共事業に携わってきた。小型軽量かつ電源・通信工事が不要な河川監視カメラや危機管理型水位計を開発してきた。昨年(2025年)は「CEATEC2025」(幕張メッセ〈千葉市美浜区〉で2025年10月14日~10月17日に開催。主催は一般社団法人電子情報技術産業協会〈JEITA〉)の「東京ビジネスフロンティア」ブースに出展した。中小河川の監視を主な目的としたクラウド型防災監視エッジAIカメラシステムを展示して高い評価を得た。今年(2026年)の新春にあたって酒井龍市代表取締役社長に抱負などを聞いた。
――昨年のイートラストの事業活動を振り返ってください。
イートラストは、激甚化する河川氾濫といった水害の低減を願い、国土交通省「革新的河川技術プロジェクト(第3弾)」に参加しています。昨年はプロジェクトが〝踊り場〟で、最初の普及が終わって7年くらい経ちました。26年度あたりから更新需要が出てきます。国交省は仕様の見直しを進めています。新しい仕様が普及していくのは26年度以降だと思います。当社は将来を見据えて新型製品の切り替えに向けて開発を続けています。お客様の防災意識への高まりは、昨年発足した新政権が事前防災や老朽化インフラの補修、津波対策などの「国土強靭化」を最優先課題と表明しており、それが〝追い風〟になって、業界全体がさらに活性化されると考えています。
――「CEATEC2025」に出展しました。クラウド型防災監視エッジAIカメラシステム「eTA002」を展示しました。自治体における導入事例やエッジAI技術の開発内容を紹介するミニセミナーも実施しました。どういう反響がありましたか。
「CEATEC2025」では、激甚化する河川氾濫や土砂災害などの監視を目的とした防災監視システムを紹介しました。昨年は「にいがた防災産業展」(朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター〈新潟市〉で25年9月6日・7日に開催。主催は新潟県)にも出展し、いずれも大きな反響がありました。CEATECでは、様々な業種の方々から「共創しませんか」「コラボレーションしませんか」という声をかけていただき、新しいビジネスチャンスを得たと思っています。
出展したクラウド型防災監視エッジAIカメラシステム「eTA002」は、今年度(25年度)内に市場に投入します。すでに新潟をはじめ全国各地でデモンストレーション設置を行っており、現在、本格導入に向けて検討しています。来年度(26年度)からは市町村向けを端緒に自治体への導入を広げていきます。
――海外事業戦略についてお聞きします。経済産業省発行「日本企業における途上国による適応グッドプラクティス事例集」において、 イートラストの防災監視システムが取り上げられました。日本企業による海外での適応取組を事例集としてまとめたものですが、「河川監視カメラによってリアルタイム画像を配信する防災システム」の東南アジアをはじめとした国際事業戦略についてお話しください。
インドネシア、フィリピンをはじめとした東南アジアでは温暖化、豪雨災害の多発など社会課題が山積しています。土地柄もありますので、当社は防災監視カメラでどのような需要があるか、現地のニーズをリサーチしました。その結果、ソーラーパネルで動く防災監視カメラシステムという概念がないことがわかりました。私どもは静止画カメラによる河川監視システムを展開していますが、現地で防災監視カメラといえば動画で、あくまでも見たい時に見るものであり、常時モニタリングすることはないことがわかりました。私どもの製品は、現場に行って河川の様子をスマートフォンで定期的に撮影して本部に送るという動きを、システム一台で賄うものです。昨年11月にインドネシアを襲った洪水の死者数が、900人を超えたと言うニュースもありました。発展著しいとはいえ、川の隅々まで1台何百万円もする大がかりな河川監視カメラをつけられるコストはありません。私どものコストメリットのある簡易カメラをたくさん設置できれば、事前防災、早期警戒システムとして威力を発揮できます。災害後の復旧活動でも、自動車でパトロールに行ったら橋が落ちて行けない、範囲が広すぎて回りきれない。だったら定点カメラをたくさん設置しておけば、被害状況がすぐにわかります。今後も現地の方が洪水の被害をできるだけ軽減できる安心・安全なソリューションを提案していきたいです。
――河川監視ソリューション以外の分野で開発の進捗状況をお話しください。
私どもは、河川状況だけでなく道路の冠水及び積雪状況、火山監視など様々な防災ソリューションを展開しています。最近では全国的に話題となっているクマ被害を含めた鳥獣害対策にも取り組んでいます。
高速道路や国道は動画の監視カメラが充実していますが、例えば峠道や交通難所及び生活道路、豪雪地帯などにはたくさん設置できないので、動画カメラを補完する意味で、私どもは静止画カメラによる監視システムを提案しています。自治体からは、よく冠水するアンダーパスとか、大雪が降ったら通行規制しなければいけない峠道、土砂災害で崖崩れの危険箇所等に監視カメラを付けてほしいという声をお聞きしています。当社はエッジAIによる画像解析機能を得意としており、AIを活用して冠水、積雪の有無を判断するシステムも提案しています。さらに、ディープラーニングだけでなく、生成AIをどう取り込んでいくかも視野に入れています。水位を読む精度を上げるためのAIに加えて、何が起きているか事象を捉えるため生成AIを応用していきたいと考えています。
――事業戦略で2026年の抱負をお願いします。
先ほど触れたとおり「国土強靭化」や「地方創生」の様々な動きが今後、活発化する見通しで、お客様が望まれているほんとうに必要なシステムを提案することが重要だと考えています。河川監視システムも、新しい仕様に向けた製品開発を手掛けて、シェアのさらなる拡大を図ります。今年は裾野を広げていく、普及を促進するところに一層、力を入れていきたいと思っています。そのため当社の営業体制を強化しました。北海道から九州まで、国、都道府県、市町村のお客様に営業活動をますます広げていきます。
――イートラストは、「社会に必要とされる企業」を経営方針に掲げ、社会インフラ、特に電気、情報通信の分野において社会の課題解決に取り組んできました。SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを積極的に進めており、世界が求める課題解決について自覚し、何ができるのかを考え、より意欲的に取り組んでいきたいとしています。公共性の高い分野への社会貢献について、今後、どのように取り組んでいきますか。
防災、環境分野への貢献に加えて、さらに「地域福祉」にも貢献していきたいと考えています。人と地域が〝つながる〟インクルーシブな地域共生社会を実現し、そこで安心して暮らせるまちづくりです。地域密着でサービスを提供しているコミュニティ放送局と業務提携契約を結んだのも、新しい方向性が見えたからです。「FMながおか」を介して、地域生活向上につながる役に立つ提案ができることがわかりました。地域社会の『福祉』の実現に向けて、新年度はそれをイートラストの3つ目の柱として事業にまい進していきたいと思います。
酒井龍市イートラスト代表取締役社長は25年11月、コミュニティFMラジオ放送局「FMながおか」(新潟県長岡市、長岡地域情報基盤株式会社)の代表取締役社長に就任した(イートラストと兼任)。「FMながおか」で酒井社長はどのような事業を展開していくのか聞いた。
――「FMながおか」は25年11月、『分身ロボット「OriHime」パイロットをパーソナリティに迎えたFMながおか新番組をお送りします』の報道発表を行いました。FMながおかとオリィ研究所(東京都中央区、吉藤健太朗・笹山正浩代表取締役所長)と共にスタートした新企画です。番組名は「OriHime Radio Cafe~LOVE OUR CONTRAST~」(放送日時:毎週水曜日17・00~〈再放送毎週木曜日7・15~〉、放送時間10分)、番組パーソナリティはOriHimeパイロット、FMながおかパーソナリティ。スポンサーはイートラスト。番組では、身体的制約など様々な事情で外出が困難な方々が遠隔操作する分身ロボット「OriHime」がパーソナリティとして番組に登場。〝パイロット〟としての活動や暮らし方、多様な生き方を紹介していく番組。番組テーマは「LOVE OUR CONTRAST(私たちの違いを愛する)」。年齢も住む場所も生き方も異なるパーソナリティーとリスナーがテクノロジーを介してつながり、お互いの世界を広げ、人生を豊かにしていく。その前向きな歩みを後押しする番組です。番組のねらいをお話しください。
オリィ研究所とのやりとりのなかで、「地域福祉」に役立つことをしたいと考えました。これはCSR(企業の社会的責任)の枠を超えたイートラストのひとつの柱になると思いました。オリィ研究所の分身ロボットの仕組みをそのまま使って、長岡地域情報基盤(株)は通信系の会社として「OriHime」の新たな表現の場を作り出せないかと考え、番組の企画へと至りました。様々な事情で外出が困難な方が「OriHime」を介することでそれらのハンディキャップを乗り越えて社会参加できるのは素晴らしいことだと感じています。この番組はそういった方々の活躍の場として発展させていきたいと思っています。
――イートラストは、長岡技術科学大学(新潟県長岡市)と共同で、たくさんのカメラ、水位計から多くの情報が来る中で、あらゆる情報から今、避難すべきかどうかAIを活用して判断できるように開発を進めました。「FMながおか」で同大学とコラボレーションした番組を放送していると聞きました。
「あだっちゃん・おみっちゃんのパワエレトーク!」を放送しています。人知れず世の中を支えている技術「パワエレ」に焦点を当てていこうと思っており、この番組はパワエレ(※)の名門・長岡技大発のベンチャー企業「長岡パワーエレクトロニクス株式会社」にスポンサーをしていただいています。また長岡技大には市や関連企業と連携したパワエレ研究会もあります。「パワエレのメッカ」として高い評価を受ける長岡のパワエレ業界の存在を多くの方に知っていただき、業界の活性化や技術者の応援へと繋げていくことを目的に、各所で様々な活動が進められています。
今後も「FMながおか」では長岡技大の先生方にお話ししていただくなど、いろいろな切り口で知名度アップにつなげたい。これもある種の産学連携で、地域復興の取り組みのひとつです。
※パワーエレクトロニクスの略
写真は 河川監視カメラの導入の様子
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
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