【独自】新春に語る サイエンスアーツ 平岡社長「現場ファースト」第一に
サイエンスアーツ(東京都渋谷区)は、フロントラインワーカーをつなげるライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom(バディコム)」を通して、現場の生産性向上と社会のデジタル化を支えるコミュニケーション基盤を提供している。Buddycomは、インターネット通信網(4G、5G、Wi―Fi)を利用して、スマートフォンやタブレットにアプリをインストールすることで、トランシーバーや無線機のように複数人と同時コミュニケーションを可能にするスマートフォンのアプリケーションだ。同社は2025年11月27日付けで平岡竜太朗取締役企画本部長が代表取締役社長に就任した。平岡秀一代表取締役社長は代表取締役会長に就任した。「電波タイムズ」は、2026年新春にあたって、平岡竜太朗社長に今年の抱負などを聞いた。
――昨年11月に社長に就任されました。ご自身の経営理念などをお聞かせください。
社長に就任してまだ日が浅いですが、前社長のような優れた経営判断能力を兼ね備えるために、さまざまな経験をどんどん積み重ねていきたいと思います。前社長の路線を踏襲しながら、2代目として私なりのフィールドで戦うことも大事だと考えています。
会社がしっかり回るように構造化して、現場にどんどん落としていくことを優先することがいちばん重要です。一方で、創業の心、企業理念も現場の社員に伝えていく役割もあります。同じ方向性で仕事に従事する、そのための言葉を伝える、そして未来を見据えることが私の使命です。
――Buddycomは、2025年9月にサービス開始から10周年を迎えました。「フロントラインワーカーに未来のDXを提供し、明るく笑顔で働ける社会の力となる。」をコンセプトに、幅広い業界における人手不足・高齢化・災害対応といった社会課題の解決に貢献してきました。20年から5年連続シェア1位(音声コミュニケーションツール出荷金額・社数で)を獲得し、25年8月の導入社数は1500社を突破しました。さらに導入社数を増やすための事業戦略をお話しください。
導入社数が1500社を突破した背景には、様々な現場のお客様の声を大事にしながらサービスを作ってきたことがあります。多くのお客様が率直なご意見を寄せてくださったことは、当社にとって非常に幸せなことだと感じています。
現場がどのような課題を抱えているのか、そしてその課題を解決するためにどのような機能が必要なのか
―そうした〝生の声〟を直接お聞きし、ご要望として受け止めてきました。
一つひとつの声に向き合い、「分かりました」とお応えしながら実現に向けてお客様に伴走してきた結果が、現在の導入社数につながっていると考えています。
今後も現場の声を大切にする姿勢を守りつつ、次のステージへ進みたいと考えています。
これまでは主に音声によるコミュニケーションを軸に、「この使い方をすれば現場がより便利になる」という、特定のシーンでの活用提案が中心でした。
しかし現在、AIをはじめとする技術の進化が急速に進んでいます。
これまでであれば「実現が難しい」とされていた機能も、AIの活用によって開発スピードを高め、より早くお客様に提供できる時代になりました。
これからは、現場の要望を起点にしながら、より高度で価値の高いソリューションへと進化させていきたいと考えています。
今後Buddycomに搭載予定の機能の一例として、AIによるマニュアル検索があります。現場で「ここの作業はどうやって行うの?」とBuddycomに話しかけると、お客様が登録しているマニュアルをベースに、BuddycomAIが最適な手順を回答します。また、営業日報の作成においても、Buddycomで日常的にコミュニケーションしている内容をAIが要約し、自動で作成できるようにします。特別な操作を意識することなく、普段のやり取りそのものが業務の効率化につながる点が特長です。
こうしたAIの思考や判断を活かした新しいツールを現場に取り入れることで、作業負担をさらに軽減していくことが今後私たちが進めていくべき方向だと考えています。
――「大阪・関西万博」で25年7月10日、国際宇宙ステーションに長期滞在している宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大西卓哉宇宙飛行士が宇宙から生出演するイベントが開かれました。会場では、トーク内容をリアルタイムで多言語に通訳し、来場者のスマートフォンに配信するサイエンスアーツの新サービスの実証実験が行われました。今後の導入に向けた動きはいかがですか。
大阪・関西万博において新サービス「Buddycom アナウンス」の実証実験を行いました。このサービスの開発は、ある身近な疑問から始まりました。例えば、羽田空港の国際線ゲートで「13番ゲートの便が15分遅れています」「搭乗口を変更します」といったアナウンスが流れる場面があります。日本語と英語の案内はありますが、日本語も英語もわからない外国人の方は、果たしてどのように状況を理解しているのだろう。そう考えたことが発端でした。
もし、それぞれの人が自分の母国語で、自分が利用している交通手段に関するトラブル情報を受け取ることができたら、移動の不安は大きく減らせるはずです。
その発想から生まれたのが「Buddycomアナウンス」です。
万博での実証実験では、大きな反響をいただきました。特に観光業界からの注目度が高く、大手の観光バス会社などを中心に、実証実験が進んでいます。観光の現場では、人手不足に加え、「英語が話せない中で、外国人観光客向けのツアーを運営しなければならないといった課題を抱えていると聞いています。
私たちは、そうした現場で働く方々の負担を軽くすると同時に、言葉の壁に困っている外国人観光客の方々にも安心を届けたいと考え、このサービスを開発しました。
――Buddycomは、警備会社との協力のもと「大阪・関西万博」の場内警備で活用されました。新機能「マップ機能による位置確認」を提供しました。日々警備・防災活動に尽力した警備関係者がBuddycomを活用。現場では、警備本部と警備員、もしくは警備員同士が、Buddycomの音声通話・チャット機能、画像共有機能、映像配信機能も用いて、リアルタイムに情報を共有しました。今後、この事例をもとに現場へのBuddycomの導入を加速させるとのことですが、新機能のアピールポイントをお聞かせください。
「マップ機能による位置確認」についてお話しします。大阪・関西万博では、広大で土地勘のない会場で警備を行う必要があり、場所が分からないまま対応にあたる可能性があると聞いていました。例えば、大屋根リングのような広いエリアでトラブルが起きても、「助けてほしいけど、今どこにいるのか分からない」という状況は大きなリスクになります。
この課題に対応するのが、Buddycomのマップ通話機能です。
Googleなどの標準地図に加え、任意のJPEGなどの画像を重ねて表示でき、今回は万博用にカスタマイズしました。新機能の特長は▽社外非公開の施設配置図や警備配置図を地図上に反映▽イベント会場などの屋外マップを表示し、人員配置と連携を容易に▽危険エリア、立ち入り制限区域などを視覚的に共有できます。本機能はすでに試験提供中で、多数お問合せをいただいております。Buddycomは、警備やアミューズメント施設など屋外で働くお客様にとって、正確な位置情報が現場の安全と連携に役立つことを期待しています。
――JVCケンウッドと共同開発中の「Buddycom」を組み込んだIP無線機のプロトタイプが、「CEATEC 2025」(25年10月開催)のJVCケンウッドブースにて、展示されました。反響をお話しください。
このプロトタイプは、IP無線アプリ「Buddycom」を搭載することで、LTE回線を活用した広域通話に対応します。グループ間の同時通話、通話録音、文字起こし、同時翻訳など、Buddycomの機能を活かし、現場に必要な高度なコミュニケーションをサポートします。現場の使用環境に応じて、IP無線機・スマートフォン・タブレットを柔軟に使い分けられる点も特長です。
屋外の厳しい環境では堅牢なIP無線機を、情報量の多い業務ではスマートデバイスを使用するなど、役割分担と連携を実現します。
展示では「早く市場に出してほしい」という声を多くいただきました。現場では、スマートフォンの貸与台数が限られており、トラブル発生時や増員時に足りなくなるケースが少なくありません。
そこで、Buddycomを搭載したIP無線機を複数台導入し、現場に浸透させたいと考えています。
本機はJVCケンウッド製で、落下に強く、防水・防塵、MIL規格などに適合しており、スマートフォンの持ち込みが難しいタフな現場でも使用可能です。
鉄道の保線作業員や航空整備員などから多くの問い合わせをいただいています。通話ボタン一つで一斉連絡やグループ通話ができ、液晶表示を活用して多言語翻訳にも対応するなど、既存の業務用無線機とは異なる〝次世代型IP無線機〟です。現場DXを届ける最新の無線機だと自負しています。
――国際電気がサイエンスアーツのアプライアンスパートナーとして「Buddycom アプライアンスサーバー」の販売を開始しました。ローカル5Gとの連携を可能としており、製造業・プラント・インフラを始めとした業界において、安全性・即時性・安定性に優れた音声・テキストコミュニケーションを提供します。サーバー機の選定やOS等の各種セットアップ作業など特別な知識がなくとも運用・管理が行える。「Buddycom On―Premises」があらかじめインストールされたサーバーで、簡単・短期間でオンプレミスでのBuddycom利用環境を提供します。導入に向けた動きはいかがでしょうか。
たいへん反響が大きく、ターゲットである製造業・プラント・インフラ分野のお客様を中心に、さまざまな案件が進んでいます。国際電気が提供するBuddycomアプライアンスサーバーは、お客様の多様な課題を解決し、ローカル5GやプライベートLTEと組み合わせることで、完全な閉域網による高セキュア通信を実現します。クラウドの利便性を保ちながら、オンプレミス環境でも利用できる新たな選択肢として高く評価されています。
――サイエンスアーツは25年7月、Buddycomの新機能であるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策機能「セーフティーサポート」をサミット(東京都杉並区)の店舗で実証実験すると発表しました。ワンクリックで即座に緊急通知ができたり、将来的にはAIによるカスハラ検知、自動での緊急通知が行えると聞きました。緊急通知を受け取った、近くにいる従業員が客とのやり取りをリアルタイムに確認しながら、マップ機能で位置を特定し、速やかに現場に駆け付け、事態の重大化防止を図るということですが、市場に投入する意義など話してください。
万博開幕直後、警備員が土下座を強いられているという報道を目にし、これは何とかしなければならないと感じ、急いで開発を進めました。
汗水流して働く現場の方たちが不当に扱われる状況は、決してあってはならないと思っています。「ワンクリックで即座に緊急通知」は、Buddycomに予め設定した通知ボタンを押すだけで、カスハラ対応用の緊急連絡グループに音声が共有される仕組みです。現場の責任者が内容を聞き、すぐに対応すべきか判断できます。音声は保存され、すべてテキスト化されるため、事後の評価・検証用として活用することも可能です。現場で働く方々の心理的安全性を、しっかり守りたいと考えました。流通業に限らず、ホテルや交通機関、パチンコなどのアミューズメント業界のお客様からもお問合せをいただいています。
――サイエンスアーツは、中小企業向けライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom Standard(バディコム スタンダード)」の提供を開始しました。これは、スマートフォンや「iPad」をそのまま〝インカム・無線機〟として利用できるアプリで、音声・テキスト・画像・位置情報・翻訳など多彩な機能でスタッフ間の連携を支援し、DXを実現します。こちらの導入の動きはどうでしょうか。
私たちはこれまで、大規模エンタープライズ企業を中心に強みを築いてきましたが、その機能を中堅・中小企業にも広く届けたいと考え、このサービスを開発しました。
特に引き合いが多いのが介護の現場です。人手不足が深刻な中、「DXを進めたいが実現できない」という悩みを多く抱えています。
本サービスは、インカム導入のハードルを下げ、誰でも簡単に“60秒DX”を実現できます。100名以下の企業向けに特化し、設定や管理はすべてスマートフォンで完結するため、専門知識がなくても安心して利用できます。
――防災・減災に向けた事業活動として、内閣府主催「令和7年度大規模地震時医療活動訓練」における青森県での「DMAT(災害派遣医療チーム)訓練」で、災害医療現場の情報共有基盤としてBuddycomの実証試験を実施しました。消防本部での導入も進んでおり、大阪府茨木市消防本部が消防DXの主軸として、全国で初めてBuddycomを主連絡手段として正式採用されました。神奈川県海老名市消防本部は、全国の消防本部で初の「Starlink」でBuddycomを運用しました。Buddycomの防災・減災に向けた利活用でお話しください。
2023年10月、三菱総合研究所(MRI)が総務省の請負事業として実施した、公共安全LTE(PS―LTE)の実現に向けた実証試験において、PS―LTE実証用アプリケーションとしてBuddycomが採択されました。
その後、2024年1月の能登半島地震では、総務省の要請・協力のもと、Buddycomを災害対策関係機関へ無償提供し、被災地で公共安全モバイルシステム(実証用端末)を活用した迅速な情報共有・業務連絡を支援しました。同年9月の石川県豪雨では、消防の現場活動組織に向けて500IDを提供し、消防・自衛隊・警察・ボランティアセンターの方々にご利用いただきました。
2025年1月には、消防など地方自治体向けに「ガバメントプラン」の提供を開始し、総務省が推進する公共安全モバイルシステムの需要を受け、販売を加速することを発表しました。対象は中央省庁、地方自治体、社会福祉協議会などで、Buddycomを月額990円/IDで利用できます。
各地の防災訓練での実証を通じ、山間部で消防無線が届かない、屋内で音声が聞き取りにくいといった課題も聞いています。Buddycomはスマートフォンなどで場所を問わず情報共有ができ、映像の送信も可能なため、防災・減災ソリューションとして有効だと考えています。
――2026年の抱負をお願いします。
私は入社以来、エンジニアとして多くの現場を訪れ、現場の人たちが何に困り、何を求めているのかを見てきました。そこで感じた課題に対して「こういう機能はどうでしょうか」と提案し、それを使った方から「とても役立ちました」と言っていただける瞬間が、何より嬉しかったです。その気持ちは今も変わっていません。
現場の方たちが「仕事が楽しい」と感じたり、悩みが解決して「余裕ができた」と思ってもらえるようにしたい。それが私の使命です。
現場の人たちを第一に考える「現場ファースト」をモットーに、現場が本当に良いと思える方向へ導くサービスをつくり続けたいと考えています。
そして、日本のフロントラインワーカーの皆さんに「もうBuddycomがないと現場が回らない」と言っていただける、デファクト・スタンダードを目指していきたいです。
写真は 平岡竜太朗代表取締役社長
この記事を書いた記者
- 元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。
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