茂木氏「コンピューテーショナル物理学が次の大進歩に」

 Beyond AI研究推進機構は2月10日、東京大学 情報学環 福武ホール(本郷キャンパス)において、「第6回 Beyond AI 研究推進機構 国際シンポジウム」を開催した。
 セッション 1「知能の基礎物理学の構築を目指して」が行われ、齊藤英治氏(東京大学 大学院工学系研究科 教授)、田畑 仁氏(東京大学 大学院工学系研究科 教授)、茂木 健一郎氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所 上級研究員、東京大学大学院 客員教授)が同テーマについて議論した。
 まず齊藤教授が、「物理学とはどんな学問か」について解説した。物理学というのは、世界のあらゆる現象を理解しようとする学問だが、それを統合的に、そして普遍的に、数理を用いて理解しようとするところに特徴がある。
 例えば、今から300年ほど前にニュートンが示したことですが、星の動き、地球の運動、さらにはリンゴが落ちる運動など、これらは一見まったく異なる現象に見える。しかし実際には、同じ運動法則、同じ方程式に従っている。これは非常に驚くべきことだ。
 星の運動というのは、かつては非常に神秘的で、ある意味では神の力が及んでいるような、超越的現象だと考えられていた。それが、リンゴの落下のような身近な現象と同じ法則で記述できる。つまり、無関係に見えるものが、実は同一の物理法則に支配されているということ。
 そしてこの物理法則は、ほとんど世界のすべての現象に広がっている。では、ここで問いが生まれる。知能はどうなのか、ということだ。
 我々の脳や身体も、基本的には物理法則に従っている。では、その物理的存在から「知能」が生まれたとき、それはどのように理解できるのか。単純な物理法則に対応する形で、知能の基本機能を司る法則があるのではないか、これが研究グループのモチベーションになっているという。
 かつては、AIと物理は別々の分野として存在していた。AIを応用して物理の結果を理解する、あるいは数値シミュレーションによって現象を再現する、といったアプローチ。この数値シミュレーションという行為そのものが、ある意味で知能の機能の一部として解釈できるのではないか、という見方もある。
 「私たちの出発点は、知能の基本部分を司る法則を知りたい、ということでした。経験を理解する過程を、できるだけシンプルな計算として定義し、それを適切な方程式に適用することで、『知とは何か』を理解しようとしたわけです」(齋籐教授)と述べた。
 田畑教授は「ゆらぎ」について報告した。
 「知能とは何か、そしてそれはどこから来るのか」、このWhereを追求する上で、フラクチュエーション(ゆらぎ) がキーワードになる。
 ゆらぎには大きく分けて、量子ゆらぎと熱ゆらぎの2種類がある。特に熱ゆらぎは、大脳を理解する上で重要な機能を持つ。
 さらに、自然発生的ゆらぎ、自発的ゆらぎも重要です。知能を理解するために、田畑教授の研究グループでは3つの要素、「物質」、「エネルギー」、「情報」を組み合わせた。
 情報とエネルギーの関係で、コンピューターはよく脳と比較される。典型的なスーパーコンピューターを考えてください。黒板的、決定論的な計算体系だ。曖昧性は、大量のエネルギーを投入し、高精度・高速演算によって排除する。エラーは無視できるレベルに抑え込む。これは決定論的問題形式である。
 一方で脳は逆で、ゆらぎを使う、ノイズを使いこなす、自己相関関数、確率量的思考など、こうした枠組みで理解すべきシステムとなる。ここで「ゆらぎ」が鍵になる。
 では、ゆらぎとは何か。一般論ではノイズが典型例です。通常は歓迎されずに。排除対象となる。ところが脳システムでは違い、積極的にノイズ、ゆらぎを利用する。ある意味、環境や自然から得るエネルギー資源として活用していると言える。
 なお、「ゆらぎ」という日本語と「Fluctuation」の相違については、基本的には同じだが、ただし「ゆらぎ」は意味が広い。物理的ゆらぎだけでなく、心理的・生物的ゆらぎも含むという。
 茂木氏は、「一般論として、科学が発展する上で、よりからラセン状に発展する。斉藤先生がおっしゃるように、物理学が重要なキーワードです。それがアイデアとしては何年か前に報告されましたけれども、我々もうちょっと現実的で、新たに追加的な概念や視点を加えることができれば、古いスタイルの知および最近の技術と知を組み合わせることが重要だと思います。コンピューテーショナル物理学が次の大進歩になるかもしれません。AIにとって、物理とAI、あるいはエージェンティックAIとなると、我々は現実的なシステムで揺らぎを入れ込んだシステムが必要です。
 それを効率的、現実性が高い方法で獲得しなければなりません」と語った。
 最後に田畑教授は、「例えば揺らぎとフラクチュエーションを研究することが、知能を理解する上で非常に重要な言葉であるということがメッセージです。
 Beyond AI連携事業の研究グループは本当に素晴らしい方向に進んでいるというふうに思います。今後4年間よろしくお願いします」と述べた。
 齋藤教授は、「AIのニーズは今何かというと、やはり不変性だと思います。もし物理がもっとその不変性というものをAIに与えることができるならば、さらにAIは一歩進むことができると思います。
 それが我々の分野の役割だと思います。AI という分野において、つまりその先に進むために。どんどんどんどん掘り下げなければならない部分だと思います。
 物理のその基盤の基本のところ、根源的なところ、何が一番必須的なものなのかということで、それが大事になるんだと思います」と語った。