防災特集:官民連携とデジタルDXが拓く地域防災の未来~NTT東日本の挑戦と「共創」のモデル~

 現在、日本の地域社会は、人口減少や少子高齢化という大きな転換期にある。それに伴い、一人の現役世代が支えなければならない高齢者の数が増加し、地域の防災力を維持するための自治体職員数も減少傾向にある。このような状況下で、従来の行政主導による防災対策だけでは限界が見え始めており、民間企業の技術や知見を積極的に取り入れる「官民連携」が不可欠な時代とされている。
 NTT東日本が提唱する官民連携は、単に防災ソリューションを提供して完結するものではなく、平時から災害発生時、そして復旧・復興に至るまでの一連のプロセスで自治体に「伴走」し、デジタル技術を適切に組み込むことで業務の効率化と高度化を図ることを本質としている。1月28日に開催された「NTT東日本グループ地域ミライ共創フォーラム」では、昨年4月に設置された防災研究所の取り組みついても公開された。設置されたパネル資料を元に担当者から話を聞いた。
 防災対策の第一歩として位置づけられているのが、地域のリスクアセスメント(現状分析)だ。多くの自治体では被災経験が少ない、あるいは被災経験があっても10~20年が経過して職員が入れ替わることで、当時の教訓やノウハウが失われてしまうという課題を抱えている。そのため、「防災の必要性は理解しているが、何から手をつければよいか、現状の対策で十分なのかがわからない」という声が少なくないという。

 この課題に対し、NTT東日本は東京大学の沼田宗純教授が提唱する「災害対策47のプロセス」に、グループ独自の災害対策知見を掛け合わせた105個の独自評価項目を策定。これを活用することで、地域の防災力を数値化し、可視化することが可能になったとしている。東日本エリアの約800自治体のうち、すでに約200自治体で導入されており、近隣自治体と比較した「偏差値」を知ることで、具体的なアクションに向けた動機付けや横の連携を促進する効果も生まれている。
 防災力を高めるための物理的な基盤として、NTT東日本は街を面的に繋ぐことにも注力している。光回線の人口カバー率は99%に達しているが、残り1%にあたる投資困難なエリアや屋外においても、最新の無線通信技術を活用した補完が進められている。例えば、半径1km(将来的には3km)をカバーする新規格のWi―Fi(Wi―Fi HaLow)を導入することで、固定通信と無線通信を組み合わせた隙間のない通信網を構築していく。
 この通信基盤の上で、IoTセンサーを活用した河川の推移監視や積雪状況の把握も行われている。また住民にGPSタグを携行してもらうことで、危険区域への接近や避難状況をリアルタイムで可視化する試みも始まっている。

 さらに、集約されたデータは「デジタルツイン」上で再現。山形県長井市の事例では、デジタル上の仮想空間に街を構築し、河川氾濫時の浸水シミュレーションを行うことで、未経験の災害に対する備えを強化しているという。発災時には、これらの情報を一元化して自治体の意思決定を迅速に支援し、その判断を住民へ正確に届ける仕組みが整えられている。
 住民への情報伝達においては、多様化する受け取り方に合わせた柔軟な対応が求められている。従来の防災行政無線では聞き取りにくい、あるいは警報が鳴りすぎて慣れてしまい行動に繋がらないといった課題に対し、どのような伝え方が避難行動を促すのかという研究が進められている。
 注目されるのが、観光と防災を組み合わせた「フェーズフリー」モデル。鎌倉市などの観光地では、発災時に駅前に外国人が溢れ、対応が困難になるという事態が懸念されている。日光市などでも取り組まれているこのモデルでは、多言語対応や観光客への情報提供を平常時から組み込むことで、災害時にも機能する体制を構築している。
 災害発生時、自治体の心臓部となる「災害対策本部」の運営においても、デジタルの力と「共創」が重要な軸となる。NTTグループが全国の都道府県に提供している「総合防災情報システム」は、気象情報やハザードマップを地図上に重ね合わせ、現場の職員が登録したリアルタイムな情報(道路の寸断や避難所の状況など)を統合して表示する。令和元年の千葉県での災害時には、約1万2000件もの現場情報が職員によって登録され、迅速な状況把握に貢献したとされている。
 しかし、数年に一度しか起こらない災害のために、複雑なシステムの操作に習熟し続けることは職員にとって大きな負担となる。NTT東日本は「災害対策本部の運営そのもの」を支援するサービスを展開。これは企画運営から参画するもので、イベント会社の動きに近い側面があるという。埼玉県ふじみ野市の訓練では、本部の立ち上げ、情報収集、物資の搬出といった一連の流れを支援し、訓練の中にシステムを組み込むことで、職員が自然に操作を習得できる環境を提供した。
 避難フェーズにおいては、アナログな手法にデジタルを埋め込むことで劇的な効率化を図っている。
  「シン・オートコール」システムは、クラウドとAIを活用し、登録された電話番号へ一括で発信。AIが住民との自然言語による対話を通じて「避難できるか」「いつ避難するか」を確認し、その結果を即座にデータベース化する。これにより、一件ずつ手動で電話をかける手間を省き、デジタルに不慣れな高齢者でも電話一本で状況を伝えられる環境を実現した。このシステムは石川県能登町などで導入され、工場等での安否確認にも活用されている。

 またマイナンバーカードを活用した認証システムを導入することで、紙への記入を省き、正確かつ迅速な受付が可能となる。ここで得られたデータは、次にどの避難所にどれだけの物資が必要かという意思決定に直結する。
 避難所での「災害関連死」を防ぐため、居住環境の向上も急務となっている。NTTグループでは、コンサルティングから備蓄管理、さらにはポータブルな電気・水道・通信インフラの提供までをワンストップで支援。特に今年度から義務化された国への備蓄管理報告についても、アプリケーションを通じて効率的に対応できる体制を整えている。
 NTT東日本の生活再建支援システムは、国内でトップシェアを誇り、約400の自治体で利用されている。この高い普及率は、大規模災害時の「広域支援」において大きな利点を発揮する。 例えば、能登半島地震の際には、被災した自治体職員が混乱し、不慣れなシステム操作に戸惑う場面があった。しかし、他の自治体から応援に駆けつけた職員が「自分たちの街で使い慣れているシステムと同じ」とすぐに操作できたことで、スムーズな支援が可能となった。命に関わるシステムだからこそ、この圧倒的な実績と「信頼性」が、自治体間の垣根を越えた連携を支えている。
 地域の防災力を中長期的に維持するためには、行政や企業だけでなく、住民一人ひとりの「自助・共助」の力を高める必要がある。NTT東日本は、そのための最も効果的な手段として「防災教育」に力を入れている。
 長野県松本市で行われたモデル事業では、小学校を舞台に様々な企業と連携し、子供たちがワークショップや遊びを通じて防災を学ぶプログラムを実施した。最終的には子供たちが保護者を呼び、自ら避難所運営のシミュレーションを行うことで、学んだ知識を家族や地域全体へと伝播させていくことに成功。単発のイベントで終わらせず、内閣府のモデル事業としての認定も受けながら、持続可能な教育モデルの確立に挑戦している。
 これら高度なモデルを構築する際、NTT東日本は「最初から100%の完成度を目指さない」というアプローチをとっている。社内の防災専門人材が地域や企業と連携し、まずは「50%の完成度」で実証実験を行い、現場でのフィードバックを受けてブラッシュアップしていく。自社サービスへのこだわりを捨て、他社の優れたソリューションも積極的に組み合わせて、地域にとって最適なモデルを作り上げる「中立的な立場」での共創を重視する。現在は、これらの活動を国への提言や防災研究所としての提言へと繋げ、より多くの地域で実装可能な標準モデルとして昇華させていくことを目標としている。
 案内を担当した防災研究所防災戦略部門担当課長の金基憲氏は、「地域によってデジタルが苦手な高齢者の方などがいる中で、デジタルとアナログの境界をどこに作るのか。これが非常に重要な課題。電話しかできない方でも最新のサービスを享受できる仕組みを作るなど、一人ひとりに寄り添う形を模索している。しかし、NTT東日本だけでもまだまだ足りない部分がある。私たちは意欲ある様々な企業も巻き込んで、いわゆる『防災共創』に力を入れている。自社サービスへのこだわりすらあまりなくて、世の中に溢れる便利なものを組み合わせ、地域で実際に効果があったものをモデルとして出していく。命に関わるものについては、デジタルとともに『信頼性』というのが何より大事だと考えている。防災教育などを通じて単発で終わることなく、持続的な形にしていくことに挑戦し続けていきたい。自治体、企業、そして地域の皆さんと共に、安心できる未来を創り上げていきたいと考えている」と話していた。