防災特集:レガシーとIPを統合する「LEGASiP」の挑戦~通信の「最後の砦」を築く日東通信~
災害現場では、現場と災害対策本部をつなぐ通信の重要性は非常に高い。宮城県仙台市に本社を置く通信設備会社、日東通信では、既存のアナログ端末や伝送路をIP化し、有線無線その他メディアを統合して相互接続する音声統合ソリューション「LEGASiP(レガシップ)」を開発。各種公共機関での導入が進んでいる。開発者で同社常務取締役の高橋則夫氏に話を聞いた。

―まず、音声統合ソリューション「LEGASiP(レガシップ)」を開発することになった経緯から教えてほしい。
きっかけは、2011年の東日本大震災(3・11)だった。震災時、携帯電話のトラフィックが急増して全く繋がらないという状況が発生した。その前から構想はあったのだが、震災を機に、やはりクラウドやキャリアの網に依存しない、オンプレミス(自前設置型)で完結できる装置が必要だという確信に至った
特に決定的な役割を果たしたのは、震災時のとある公共施設での経験だ。近年の災害では通信冗長化不足が顕在化している。津波が迫る中、施設内では避難指示や機材の移動のために、一刻を争う連絡が必要だった。しかし当時は、放送設備を操作する人、無線機で連絡する人、電話をかけまくる人がそれぞれバラバラに動くしかなかった。一人のオペレーターが、ボタン一つで構内放送、無線、電話の全てに一斉に連絡できる装置が世の中になかった。
我々はもともと電話交換機(PBX)や無線、ネットワーク構築などを総合的に扱える会社だった。その技術を融合させ、3・11の翌年の冬には、これらの異なるメディアを統合して一斉指令ができるシステムを開発し、施設に納めることができた。
―開発にあたって、技術的に苦労した点は。
一番の難関は、既存の電話交換機(PBX)の設計上の制約、いわゆる「トラフィック理論」との戦いだった。 通常のPBXは、例えば1000回線あっても、全員が同時に受話器を上げればシステムがダウンするように設計されている。これは「5HCF」というトラフィック規定に基づくもので、システム自体を保護するための仕組みだ。
取引先となった先述の公共施設内には約100台のPHS(内線)があったが、これに一斉にダイヤリングをすると、交換機がパニックを起こして落ちてしまう。そこで我々はプログラムを設計し直し、数秒の差をつけて一斉にダイヤリングを行うことで、100台全てを確実に鳴らし、かつシステムを落とさない制御を1週間かけて作り上げた。この優先順位と制御のノウハウがなければ、このシステムは完成しなかっただろう。

―「LEGASiP」という名称には、どのような意味が込められているのか。
「Legacy Supported Internet Protocol(レガシーをサポートするIP)」の略。 世の中がIP化に突き進む中で、実は古いアナログの設備(レガシー)が依然として重要な役割を果たしている現場は多い。例えば、自衛隊や鉄道の現場では、今でも「磁石式電話機」という、手回しで発電して相手のベルを鳴らす100年前と基本構造が変わらない電話機が使われている。
なぜそんな古いものを使うのか。それは、一対の線(ペア線)さえ繋がっていれば、電源がなくても通信ができるからだ。これは究極の防災端末と言える。我々は、こうした100年前のレガシーデバイスを、最新のIPネットワークや4G LTE、あるいは衛星通信に繋ぎ込むためのゲートウェイを開発した。古いから切り捨てるのではなく、レガシーの強みを活かしつつIPの利便性を享受させる。それがLEGASiPのコンセプトだ。

―システムの具体的な強みや特長について詳しく聞きたい。
最大の強みは、有線、無線、その他のあらゆる通信メディアを多元的に接続できる「マルチレイヤー冗長通信」の能力だ。 電話網(固定・携帯・PHS)、無線設備(アナログ・デジタル)、放送設備(構内・屋外スピーカー)をIP網で統合し、相互乗り入れを可能にしている。
次に、「ローカル完結型(オンプレミス)」であること。最近は猫も杓子もクラウドだが、災害時に通信キャリアの鉄塔が倒れたり、クラウドサーバーがダウンしたりすれば、それでおしまいだ。LEGASiPは、現場に設置したサーバーと自営の通信網だけで動くため、外部から遮断されても電力が確保できれば、そのエリア内での通信は死守できる。
さらに、使い勝手の良さも重要だ。緊急時にマニュアルを読まないと使えない装置は、何の役にも立たない。LEGASiPは、普段使い慣れている電話機をそのままインターフェースとして使うため、子供でも受話器を取ってダイヤルすれば操作できる。この「普段使いのものが、いざという時にそのまま防災に使える」という点が、我々の強いこだわりだ。
―実際の導入事例としては、どのようなものがあるのか。
例えば医療現場だ。看護師は、これまでナースコールが鳴ると処置中でも手を止めて対応しなければならなかった。LEGASiPを導入すれば、ヘッドセットを通じてハンズフリーで会議通話(多人数通話)ができるようになる。処置を続けながら、「今行きます」「誰か応援に来て」とチーム内で情報共有ができる。
また、離島の自治体では防災無線と電話を統合している。屋外スピーカーで放送した内容を自動録音し、住民が電話をかけて聞き直せるサービスも提供している。船舶の事例では、騒音の激しいエンジンルーム内の作業員が密閉型ヘッドセットで会議通話しつつ、そこに艦内放送をミックスして聞ける仕組みを安価に構築した。
―技術の進化について伺いたい。最新のsXGP(プライベートLTE)との連携についても発表されたが、これにはどのような利点があるのか。
sXGP(プライベートLTE)と連携することで、ボイスオーバーLTE(VoLTE)内線網を即時に構築できるようになった。 従来のIP電話(VoIP)アプリは、スマートフォンのバッテリー消費が激しく、パケットロスによる音声の途切れも発生しやすかった。
対してVoLTEは、データ通信とは別に音声専用の帯域を確保しているため、トラフィックが混雑しても音声が絶対に確保される。また、特別なアプリを起動しなくても、SIMを差すだけで標準の電話機能として使えるため、バッテリー効率も良く、操作も簡単だ。sXGPを使うことで、キャリアの網がダウンした場所でも、半径500〜600メートルの範囲で高品質なプライベート携帯電話網を維持できる。
―防災への対応と今後の展開、特に衛星通信との連携についてはどう考えているか。
現在、スターリンク(Starlink)のような低軌道(LEO)衛星との接続実験を終えている。 従来の静止衛星は高度3万6000kmにあり、遅延が片道250ミリ秒も発生するため、会話が成立しにくかった。しかし低軌道衛星は高度約500kmから2000kmと近く、遅延が少ない。
我々の技術を使えば、山奥や孤立した被災地にLEGASiPのセットと衛星アンテナをポンと置くだけで、そこが即座に世界と繋がる通信拠点になる。キャリアの地上基地局が全滅しても、衛星をバックボーンにして内線通話も外部通話も、さらにはWi―Fi経由でのLINE通話まで可能にする。これが今後の防災・減災における「究極の解決策」の一つになると信じている。
―最後に、開発者としての想いを聞かせてほしい。
我々の信念は、「災害は止められないが、通信の停止は設計で防げる」という言葉に集約されている。防災だからといって、1年に1回しか使わない高価な専用設備を導入するのはもうやめにしたい。普段からビジネスや業務で便利に使っているシステムが、有事の際にそのまま命を守るツールになる。この「フェーズフリー」な考え方こそが、人口減少社会において地方自治体や企業が生き残るための鍵となる。
我々は蟻のような小さな存在かもしれないが、レガシーから最先端の衛星通信までを繋ぐ「日東通信にしかできないニッチトップの技術」を磨き続けたい。通信の「最後の砦」を守るという使命を持って、今後もLEGASiPをさらに進化させていく。
【日東通信株式会社】
1971年創業。宮城県仙台市に本社を置く、有線・無線の総合通信設備設計・施工・メンテナンス企業。独自の音声統合ソリューション「LEGASiP」により、公共、医療、防衛、民間企業など幅広い分野で防災・減災ネットワークの提案を行っている。
この記事を書いた記者
- 主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。


