放送DX最前線!① TBSのAI文章チェッカー

 TBSテレビは、「Inter BEE 2025」に出展し、番組制作現場で活用している独自の最新技術を展示した。TBSの武器である「コンテンツ創造の力」。そのコンテンツの質をさらに高めるために、数多くの独自技術を開発している。ブースでは、クリエイティブに貢献できる技術ソリューションを、実機を使ったデモンストレーションを交えて紹介した。
 今回は、その中から「TBS LUPE」(TBS ルーペ)を紹介する。
 「TBS LUPE」は、生放送直前のプレッシャーのかかる環境で、日々大量の文章チェック作業をしているフリップ制作現場の声をきっかけに生まれたAI文章チェッカー。
 TBSテレビの塩寺太一郎メディアテクノロジー局未来技術革新事業部マネージャーは「近年は、演出が多様化して画面に出てくるテロップやフリップの量が劇的に増えている。一方で、ニュース原稿をそのままデジタルサイトに出稿すると、ニュース原稿に誤りがあって、そのまま出すとミスになってしまうケースもある。アナウンサーが原稿を読むだけでは漢字の変換ミスはわからないが、それをサイトに掲載したら、漢字が間違っていたと判明する。デジタルサイトは、掲載が早ければそれだけページビュー数が稼げるので、とにかく現場ではスピードと正確性が求められていた」と話す。
 フリップの制作現場を例にすると、ひとつのフリップあたり人手で最大5回チェックしており、かなりの負担であることがヒアリングでわかった。土日の作業、深夜の作業、さらに生放送の直前でフリップが差し替わる場面もあってストレスになっていた。
 「プレッシャーで疲れてしまうという声もあったので、その人たちがクリエイティブな仕事に集中できる環境を作りたいという思いでAI文章チェッカーを作った」(同)。
 「TBS LUPE」は、TBSが開発した誤字データベース(DB)と最新の生成AIの組み合わせで高精度な文章チェックを実現している。テキストはもちろん、原稿、資料、フリップ、パネルといった画像やPDFも自動でチェックできる。誤字や表現の誤り、注意すべき言葉が含まれている可能性がある箇所は赤枠で知らせる。チェックしたい内容を送信するだけで、すぐに文章チェック結果を受け取れる。
 塩寺氏は、番組表現・用語チェックの知見を結集したTBS公式誤字データベースと最新の生成AIで、高精度な文章チェックを可能にした点を強調する。
 「TBSが長年培ってきた誤字データベースがいちばんのポイント。過去の失敗事例や番組ごとのNGワード、それからJNN(ジャパン・ニュース・ネットワーク、TBSテレビをキー局とするニュースネットワーク)系列で決まっている単語の使い方の間違いもある。それらを集めてきた約4000の単語で構成されており、これはTBSのいわば〝財産〟。TBS LUPEは放送のデータベースに最新のAI、大規模言語モデル(LLM)を組み合わせた。データベースは放送ルールに則ったチェックを行う。生成AIはLLMが持つワールドワイドな知識、一般常識を含めた大量の知識・文脈のチェックを行う。その融合で、お互いを補い合うことで、高精度なチェックを実現した」と塩寺氏。データベースは過去の誤りからチェックする。AIは文脈上この漢字は間違っている、あるテーマの全体像を把握した上で、この漢字が合っているかどうかチェックする。だから今まで見落とされていたミスもチェックできるのだ。
 さらに、誰でも使える、使いやすさを重視したAI文章チェッカーだ。グループウェアツールのチャット機能で、誰かにメッセージを送るように画像やテキストをドラッグ&ドロップするだけでチェックできる。文章チェック結果では、過去に発生した誤字が含まれる場合は赤で表示。変換ミスや言葉の表現ミスは黄色の表示などで返信してくれる。社用スマートフォンのカメラでもチェックでき、チェック結果が受け取れる。
 AI文章チェッカーの強みを聞いたところ「TBS LUPEは、グループ内の内製化によって開発した。TBSグループのエンジニアが開発したところが強みだ。だから間近で見ている放送現場のニーズをすぐに吸い上げられた。それから大量処理が行えるところも強みだ。現場はテロップやフリップの分量が多くなっており、1日数千枚になるが、画像チェックにおいてTBS LUPEは最大100件を並列チェックできる。規模感をいうと、2025年で約10万件チェックした」(同)。
 「TBS LUPE」は、TBSやJNN系列など多くのメディア企業で利用されている。TBSのほとんどの番組及びJNNのほぼ全ての局で使われている。JNN28局のニュースサイト「TBS NEWS DIG」の原稿チェックでも使われている。 
 塩寺氏は「Inter BEEに3年ぶりに出展したが、TBSブースに来場した一般企業の方からは製品の取扱説明書の文章をチェックしてほしい、企業の広報文をチェックしてほしいといった声が聞かれた。TBSブランドという放送クオリティが評価されていると感じた。この点も外販では強みになると思っている」と話した。
 同社は新年度から「TBS LUPE」の外販を開始する予定という。

この記事を書いた記者

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田畑広実
元「日本工業新聞」産業部記者。主な担当は情報通信、ケーブルテレビ。鉄道オタク。長野県上田市出身。