
[新社長インタビュー] 文化放送 田中博之社長に聞く “ラジオの魅力と未来への布石”
「人の役に立つ」放送を目指します
インターネットの普及やデジタルコンテンツの多様化により、ラジオはいま、厳しい転換期を迎えている。しかし、その一方でインターネットと連携したサイマル配信やポッドキャストなど、新たな技術を駆使したサービスが拡充され、音声メディアとして、ラジオの魅力が改めて見直されるなど、ラジオに馴染みのなかった若者層へのアプローチも可能になってきた。6月24日、文化放送の社長に就任した田中博之氏は、この変化の波をどのように捉え、老舗ラジオ局である同局をどのような方向へ導いていくのか。田中新社長が語る、ラジオの未来、そして文化放送の展望に迫る。
■番組に磨きをかけ、戦える体制作り
――コンプライアンスやガバナンス等の問題によっていま、放送局に厳しい目が向けられています。そんな中、ラジオ局の社長に就任された心境をお聞かせください
当社を含め、放送事業者全体に企業倫理の面で、他の企業とずれがあり、遅れている部分があるとするならばそれは当然、早急に是正しなければいけません。その一方で私自身はチャンスの時期に社長に就任した、と捉えています。ラジオを取り巻くメディア環境が非常に良い時期にあると見ているからです。その理由は二つあります。まず一つ目は、日本国内の自動車登録台数が2024年度まで3年連続で前年比プラスを記録していること。これにより、車内でラジオを聴く環境が必然的に増えています。そして二つ目は、ワイヤレスイヤホンの急速な普及です。2024年度のワイヤレスイヤホンの保有率は20代女性で65%を超え、15歳から69歳では5割を超えているそうです。通勤・通学中やご家庭内でイヤホンを通じてラジオやradikoを聴く物理的な環境が増えています。ハード面でリスナーがラジオにふれる条件がこれほど揃っている時代は過去にありませんでした。
――「ラジオ局の経営は厳しい」とよくいわれています。その中で御社の経営状況をどのように捉えていらっしゃいますか
経営環境が厳しいラジオ局があるのは事実です。しかし、リスナーがラジオを聴く環境はいま申し上げた通り、大きく改善されつつあります。かつてはラジオ受信機がなければ放送を聴けなかった時代もありましたが、現在はリスナーがほしい情報を簡単に手に入れられる状況です。その前提で当社の状況をお話しすると、2024年度の業績は、残念ながら黒字に転換できませんでした。その意味で〝厳しい〟ことは確かですが、やり方次第でチャンスはあります。当社の場合、まだできていない部分がかなりあると考えています。
――〝できていない部分〟とはなんでしょうか?
関東のAM、FM局の中には黒字になっている会社もあります。関東圏の広告市場の規模から見て、当社が収益を上げられない理由はないと思っています。ですので、収益の約9割を占めている放送制作収入を立て直すことが最優先課題です。番組の内容とリスナーの数を広告モデルで見た時、他社に比べて足りない、あるいはターゲット設定にずれがあることを認識しています。ここを是正することで収益が上がる水準まで引き上げることが必要です。番組にも磨きをかけ、戦える体制作りを目指します。
■ゲーム実況者の番組が人気
――番組面で御社の強みはどこにあるとお考えですか?
他局に比べてよりニッチな分野の〝推し活〟文脈に合致した番組が多いという自負はあります。これまで、そうしたコンテンツの制作を積極的に掘り下げ、進めてきました。
――声優の番組が人気と聞いています
おっしゃる通り、声優がパーソナリティを務める番組は当社の人気コンテンツの一つです。また最近は、ゲーム実況者の番組も注目されています。当社のオリジナル配信プラットフォーム『QloveR(クローバー)』の登録者数では、声優の番組に匹敵するコンテンツも出てきています。必ずしもゲームの実況だけをしているわけではなく、アイドル番組や声優番組と同じトーク番組です。いま、このジャンルの方々が人気を集めていることを感じています。
――そこは御社ならではですね
アイドルの番組は他局でも放送されていますが、声優やゲーム実況者の番組は、当社ならではの個性だと思います。ラジオは膨大な数のユーザーにリーチするテレビのような100万人を動員するメディアとは異なりますし、少数のコミュニティを形成するSNSとも違います。ラジオは1万人規模のコミュニティを動員できる中間に位置するメディアだと捉えています。アニメ・声優の番組はニッチといえるかもしれませんが、人気アイドルと比べて動員数は決して低くないというデータもあります。幅広い層にリーチしなくても〝熱量を持った深みのあるファン〟が多いジャンルに注力することが、次の成長に繋がるという経験則を持っているのは強みと考えています。
(全文は8月27日付けに掲載/残り約3900文字)
この記事を書いた記者
- テレビ・ラジオ番組の紹介、会見記事、オーディオ製品、アマチュア無線などを担当