
地球規模で大気メタン濃度が急上昇、環境研・東大等
国立研究開発法人国立環境研究所(茨城県つくば市小野川)地球システム領域の丹羽洋介主任研究員を中心とする研究チームは、2020-2022年の間に地球規模で起こった大気メゾン濃度の急上昇要因を明らかにした。解析結果、この急激な濃度上昇は、主に熱帯から北半球低緯度(南緯15度から北緯35度)にかけての湿度や水田などの農業、埋立地などにおける微生物が起源のメタン放出が増加したことによって生じたことが分かった。その中でも、特に東南アジアや南アジアといったアジアの低緯度地域における影響が大きいと推定した。
研究チームは、国立環境研究所(NIES)、国立大学法人東京大学(東大)、国立大学法人東北大学(東北大)、気象庁気象研究所(気象研)、獨協大学(獨協大)、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(極地研)から構成。
この結果は、地上観測局や航空機、人工衛星といった様々なプラットフォームによる観測データをそれぞれ数値シミュレーションに基づく解析に入力し、異なる解析間の整合性を見ることによって得られた。このように、メタンに関する様々な観測データを統合して解析することにより、メタン放出が増加している地域や起源を推定することが可能となり、地球温暖化対策(緩和策)への貢献が期待されるとした。この成果は、欧州地球科学連合の専門誌『Atmospherric Chemistry and Physics』に掲載された。
メタンは、二酸化炭素に次ぐ重要な温室効果ガス。グローバル・メタン・プレッジといったメタン排出量削減に向けた国際的な枠組みが立ち上がるなど、メタン排出量の削減に大きな関心が寄せられているが、大気中のメタン濃度は上昇の一途を辿っているのが現状。最近では2020―2022年にかけて大幅に濃度が上昇、観測史上最大の濃度上昇を記録。この急激な濃度上昇が地球全体で生じていたことが、世界各地の観測によって確認されたが、詳細な要因は分かっていない。
研究チームは、結果(大気濃度)から原因(放出量)を推定する逆解析と呼ばれる手法を採用。濃度上昇が加速する前の期間も含めた2016―2022年を対象とし、船舶観測を含む地上観測データ、及び航空機観測のデータを使った場合、温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT」を使った場合の3通りの逆解析を実施し、相互に比較しながら解析を行った。「GOSAT」は、環境省・NIES・宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で実施している衛星観測。高い確度をによりメタン放出量の増加傾向を捉えることに成功した。
地球温暖化によって永久凍土が融解し、大量のメタンが大気に放出されるというシナリオが危惧されているが、今回の解析で2020―2022年の放出量が増加したと考えられる地域は永久凍土が主に存在する北極域ではなく低緯度の地域だった。しかし、なぜ放出量が増加したのか、微生物起源で生じた可能性は示されたものの、そのメカニズムの解明までには至っていない。
今後は、今回の研究で確立した解析を継続していくことで、メカニズム解明に資するデータを蓄積していく。2023年以降は大気のメタン濃度の増加上昇幅は減少し、比較的落ち着いていることが観測されている(但し、濃度増加は続いている)が、再びメタン濃度の急激な上昇が発生した際には、即時に放出量の変化を把握できるよう解析体制を整えていくとした。
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