大阪・関西万博会場周辺のゲリラ豪雨予報、理研やNICTなど

 理化学研究所(理研)と情報通信研究機構(NICT)、防災科学技術研究所(防災科研)、大阪大学大学院、Preferred Networks(PFN)、エムティーアイによる共同研究グループは、スーパーコンピュータ「富岳」と2台の次世代気象レーダ「マルチパラメータ・フェーズドアレイ気象レーダ(MP―PAWR)を使った、超高速高性能リアルタイム降水予報の世界で初めての実証実験を行うと明らかにした。。富岳のレーダ観測データと気象モデルを高度に融合させることでゲリラ豪雨のデジタルツインを発展させ、超スマート社会Society 5・0実現への貢献が期待できるとしている。
  近年、短時間での大雨の発生回数は増加の傾向があり、強度の強い雨ほど増加率が顕著となっている。このような短時間に局地的・突発的に降るゲリラ豪雨による被害を減らすためには、豪雨の兆候を早期に検知して豪雨の規模や位置を詳細に予測し、安全に係る情報を適時適切に提供することが重要となる。
 理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームプリンシパルらは2016年に「解像度100mで30秒ごとに更新する30分後までの天気予報」という、空間的にも時間的にも桁違いに高分解能な「ゲリラ豪雨予測手法」を開発した。その手法に基づいて、2020年8月25日から9月5日まで、さいたま市に設置されているMP―PAWRによる30秒ごとの雨雲の詳細な観測データと、スーパーコンピュータ「Oakforest―PACS」を用いて、首都圏において30秒ごとに更新する30分後までの降水予報をリアルタイムで行う実証実験を実施した。
 さらに2021年には、7月から9月にかけて開催された東京オリンピック・パラリンピックの期間中、MP―PAWR の観測データと当時運用開始したばかりの「富岳」を使用し、リアルタイム降水予報の実証実験を実施。この研究成果は、米国計算機学会のゴードン・ベル賞気候モデリング部門の最終候補(ファイナリスト)に選出された。
 2025年4月から開催されている大阪・関西万博において、来場者などへの高精度気象予測情報を提供するため、NICT、大阪大学、防災科研、PFN、理研、エムティーアイは、6者連携を開始。これに伴い今回は、神戸市のNICT未来ICT研究所と、大阪府吹田市の大阪大学吹田キャンパスに設置された2台のMP―PAWRによる観測データと「富岳」を用いて、リアルタイム降水予報の実証実験を行う。
 MP―PAWRの観測データは、防災科研が開発した高精度な3次元雨量推定技術を適用し、PFNが開発したデータ圧縮・配信プラットフォーム「きゅむろん」を通じて、圧縮された状態で理研に配信される。
 理研では、「富岳」を用いて、世界で初めて2台のMP―PAWRの観測データを使った降水予報計算を実行し、リアルタイムで豪雨予測を行う。2 台のMP―PAWR で異なる方向から雨雲観測を行うことで降雨による電波の減衰の影響を改善するほか、雨粒の移動速度を 2 方向から計測することにより、予測精度の向上が期待できる。
 研究では、領域気象モデルSCALEとデータ同化手法「局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)」を組み合わせた領域数値天気予報システムSCALE―LETKF によって、ゲリラ豪雨の予測を行う。共同研究グループでは、「富岳」を用いた精細な気象予測計算と2台のMP―PAWRによる精細な観測データを組み合わせたSCALE―LETKF による「ビッグデータ同化」システムを開発。
 2021年の東京オリンピック・パラリンピック開催期間中の実験では、さいたま市の1台のMP―PAWRのみを用いて実験を行った。今回は神戸市と吹田市の2台のMP―PAWRを用いるため、計算領域を広く関西地域に設定した。
 2021年の実験と同じく、計算領域は広範囲の予測計算を行う1・5km格子の外側領域と、MP―PAWRのデータを取り込んで詳細に予測計算する500m格子の内側領域で構成。2台のMP―PAWRを使用することで、1台の場合には降雨による電波の減衰や、山や建物による電波の遮蔽(しゃへい)などにより、雨が正確に観測できない領域が生じるところ、2台同時に用いることにより観測が欠けている部分を補完し合い、より正確に降水分布を捉えることができる。またMP―PAWRの観測によって、雨粒がMP―PAWRに向かってきているか遠ざかっているかという「ドップラー速度」を計測できるが、2台のMP―PAWR で測定したドップラー速度を組み合わせることで、風速の 2 成分を得ることができる。これにより降水域周辺の風の流れをより正確に把握し、この先の雨雲の変化をより高精度に予測できることが期待できる。
 実証実験で得る予報データは、気象業務法に基づく予報業務許可の下、理研の天気予報研究のウェブページ(https://weather.riken.jp/)およびエムティーアイのスマートフォンアプリ「3D雨雲ウォッチ」で8月5日から8月31日まで公開する。

この記事を書いた記者

アバター
kobayashi
主に行政と情報、通信関連の記事を担当しています。B級ホラーマニア。甘い物と辛い物が好き。あと酸っぱい物と塩辛い物も好きです。たまに苦い物も好みます。