NHK 井上樹彦新会長「報道の独立性は守り抜く」
NHKは1月28日、井上樹彦会長および山名啓雄副会長の就任会見を行った。
井上樹彦会長は、「NHKがいま直面している喫緊の課題は、経営委員会からもご指摘があったとおり、ネット対応の高度化をはじめとする『事業構造』、それに受信料収入の下げ止まりの実現をはじめとする『収支構造』、この2つの大きな変化に対する対応に収れんされると認識しています。新執行部に求められているのは、この2つの課題に対して明確に結果を出していく『実行の力』だと考えています。
副会長には、会長である私とともに、この2つの課題に正面から取り組み、確実に結果を出せるパートナーを選びたいと考えていました。とりわけ、『事業構造』の課題に対しては、コンテンツの力こそがNHKの競争力の源泉であり、将来を決定づける最重要の要素です。今、国内外のメディア環境は急速に変化しており、質の高いコンテンツを安定定期に生み出せる組織かどうかが、公共メディアとしての存在価値に直結します。私は、NHKの持続可能性のカギは、『コンテンツの開発力・発信力・国際展開力の抜本的な強化』にあると考えています。新たなIP・知的財産の開発、デジタルと放送の連動、グローバルな視点での番組展開などに、従来以上に〝攻めの姿勢〟で取り組んでみたいと考えています。
こうした大きな変革を実行し、現場のクリエイティビティを最大限に引き出しながら経営戦略と結び付けて推進していくには、現場と経営の両面に深い知見を持つ山名さんが副会長に最も適任であると判断しました。山名副会長には、コンテンツ領域を中心に、経営の方針を現場の具体的な業務プロセスへと落とし込み、着実に結果を出す役割を担ってもらいます。
山名副会長の就任によって、新しい『チームNHK』の体制がひとまず整いました。私からNHKグループの全役職員・社員に対して、「NHKグループは一つのチームとして難題に『総力戦』で挑む」という思いを私自身の言葉で伝えました。
現在、視聴スタイルやメディア環境はこれまでにないスピードで変化しています。放送・通信の境界が急速に薄れ、国内だけでなく世界中のコンテンツと競い合う時代において、NHKがなくてはならない存在であり続けるためには、従来の前提にとらわれずに発想を転換し、柔軟かつ俊敏に行動できる組織へと進化していかなければなりません。
その中心にあるのが『チームNHK』という考え方です。個々の部局や番組単位の最適化ではなく、NHKグループ全体の総合力を最大限発揮するために、〝組織の壁を越えて知恵と力を持ち寄る文化〟をさらに根付かせたいと考えています。番組、デジタル、技術、営業、事業など、あらゆる領域が連携し、企画の段階から横断的に動くことで、より大きな価値を生み出すことができます。
また、NHKが日本の社会に果たすべき役割も広がっています。情報の信頼性が揺らぐなかで、正確で公正な報道を届けることは勿論、災害・国際情勢・生活情報など『人々の安全と安心』に直結する役割は、これまで以上に重要になっています。さらにエンターテインメント、教養、スポーツなど、多様なジャンルで人々の暮らしに寄り添うコンテンツを届けることも、公共メディアとしての大切な役割です。
私は、NHKが『いつでも、どこでも、誰にでも』価値を届ける、そういった新しい公共メディアへと進化していくために、『チームNHK』が一体となって、創造力と実行力の両輪を強めていきたいと考えています。
こうした取り組みを持続的に進めるためには、その根幹を支える受信料制度が将来にわたって維持され、持続可能なものとすることが不可欠です。NHKが公共メディアとして、視聴者の信頼に応え、公平なサービスを全国あまねく提供し続けるためには、強固な財政基盤が必要です。まずは受信料収入の下げ止まりを、NHKグループの総力で実現する。これには不退転の決意で臨んでいきます。
私は、NHKが放送や配信を通して人々を楽しませ、励まし、ときには命を救う、そうした『人々の生きる力』となる存在でありたいと考えています。
ただ、そのためには、NHKで働く職員・社員が、安心して思う存分、力を発揮できる環境が整っていることが絶対の条件です。NHKグループで働くすべての人の人権・人格を尊重し、差別やハラスメントのない職場づくりに向けて、私が先頭に立って強い覚悟で臨む所存です。
すでに昨年4月、『NHK倫理・行動憲章』『行動指針』を17年ぶりに改定しました。『人権・人格の尊重』、『差別やハラスメントは決して許さない』と改めて明確に宣言しました。メディア業界をリードするNHKの責務として、不適切な行為を絶対に許さない体制を一層強化し、健全で、誰もが働きやすい職場環境を実現していきます」と述べた。
◇
質疑応答で、人事については「できるだけ早期に実施したいが、具体的な規模・時期は検討中だ」と述べた。
また、NHK ONEとNHKオンデマンド(NOD)の一体化については、「制度上は必須業務(受信料、NHK ONE)と任意業務(有料、NHKオンデマンド)で分離されており、現在の制度では完全一体化はできない。ただしUI・動線面での「事実上の一体感」はできるので、進めていきたいという。
8Kについては、今後のあり方については、国内外の動向を踏まえて引き続き検討中とし、放送用途に限定せず、教育・医療分野での8K技術活用には積極的に取り組み、社会還元を図ると述べた。8Kチャンネルの継続可否については、現時点では結論を出していない。
また、いわゆる「政治との距離」については、NHKは自律/公平/公正/不偏不党の原則を今後も堅持し、何人からも干渉されずに業務を行う姿勢は不変だと強調した。忖度や配慮が報道にあることは断じてなく、それを『疑われる』『そう見られる』こと自体が、NHKの価値を毀損する重大な問題である。報道出身の会長として、報道の独立性だけは必ず守り抜くと語った。
この記事を書いた記者
- 放送技術を中心に、ICTなども担当。以前は半導体系記者。なんちゃってキャンプが趣味で、競馬はたしなみ程度。


