「テレビ標準方式を巡るメガ論争⑤」
第3部 テレビ放送波乱の幕開け(昭和26年)
しかし、この聴聞では、無線通信機械工業会の立場は別で、主張はきわめて具体的であった。
無線通信機械工業会を代表する立場で冒頭陳述に起った高柳健次郎氏は、みずからの研究体験、アメリカをふくむ諸外国の実情等を詳さに紹介したあと、「もっとも理想的な標準方式を作るためには拙速があってはならない」と述べ、「工業会としては、方式を決定するに当たっては次の7項目が中心と考えている」と提唱した。
①映像の品質が十分高く、長く実用に耐えること
②送像及び受像機の装備と設備および維持費が低廉であること
③チャンネルの幅がなるべく広いこと
④将来、国際的プログラム交換が容易であること
⑤日本の工業技術レベルを向上育成し、海外に輸出しその繁栄をもたらすものであること
⑥開始にあたり諸外国、とくにアメリカの技術導入の便宜のあること
⑦カラーテレビに移行する場合の支障とならないこと。特に受像機製造業者の立場からいえば、受像機が低廉であること。
以上がその基本であると訴えた。
次に東芝の池田熊雄常務も、テレビ放送実施について、技術的あるいは経済的諸問題がいかに重要な要索であるかを力説したうえで、「実施に万全を期すため、なお半年、1年の準備期間が必要だ」と要望。
日本コロムビアの須子信一常務は、カラーテレビの早急な実施を要望した上で「これを併せて実施するという方式ならば原案に賛成する」と述べている。
日本ビクターの橘弘作社長は、さらに具体的であった。第1の点は「標準方式と放送事業(者)とは全く別の問題であり、これを混同してはならない」と暗に〝申請者〟(日本テレビ放送網)に対して「当面の便宜を考えるような方法をとることをせず、公正無私な立場で、これを決定してもらいたい」と辛辣だった。
松下電器の藤尾津与次専務は
「①よい放送が行われること
②安価にして堅実な受像機の生産ができること
③迅速に普及が行われること。
この三つの条件を加味して、これを達成するためには(将来のことを考慮して)まず暫定方式として、早急に実験電波を発射できる措置を講ぜられたい」というものであった。
以上で午前中の冒頭陳述を終えたが、冒頭陳述は、あくまで総括的意見の開陳であったから、具体的に争点が出るにはいたらなかった。しかし、午後から審理官と電波監理委員会側との間に行われた質疑によって、会場の空気はピンと張りつめた。
(第113回に続く)